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記事一覧
美しく破綻していく夜の隅で
三拍子の羊が鳴いている
甘やかだからといって
抱きしめてはならない
ひとすじの夢路のほつれで
彼らの輪郭は溶けてしまうのだ
いつまでも膝を抱えている
道を失った旅人のように
夢をほどく
かたくなに閉じている薔薇のつぼみを
少しずつ引き裂くように
美しく破綻していく夜の隅で
野良猫の悲鳴とかさね
咲くことの叶わなかった
少女の肩に弔いを埋める
囁かれる約束ばかり慈しみ
失われる少女の片足
花にな
誰もが透きとおっている
誰もが透きとおっている
あまりにも傾いた床の上に
散らかされた花びらの匂い
約束を刻んだものを探しても
めざとい彼女がしゃくりと食べる
頬を染める色が血でなくても
悪い夢のようだった
手紙を差しこまれた胸が痛むのです
なにも見えなくているのに
香りばかりが軽やかで
ずいぶんと昔に
失った翼の跡のようでした
もたげた首筋には
誰かの歌を宿しておきたかった
夢のにおいを探していた
真夜中に飲むココ
少女がめくる指先の季節に
耳をふさぐばかりでいる
あなたはもう詩を語らない。
月の裏側に隠したものが
消えるのを待ち続ける
そこには小さな墓があった
誰からも手向けられることのない
夜のような場所だった
果実の割れる音
合図として猫は逃げだした
落とされた首輪の鈴に
反射する光は罪状めいて
遠ざかる日の背中を
沈黙とともに突き刺す
こんなにも冷えた世界
少女がめくる指先の季節に
忘れものを尋ねに来る人
古びた記憶がずい
透明な夢をなくしたようで
よく透けた爪先
波紋が広がるアスファルトに
冷えた音だけを残す
いつもの帰り道のように
振り向いたあとの呼吸
「このユーザーは存在しません」に
小さくさようならを告げる
思っていたよりも遠くに来ていた
噂のメニューが見つけられず
舌に馴染んだカフェオレにして
マスクの内側で嘘つきになる
白い表紙の本を開いている人
生きているんですか と尋ねれば
静かに首を振った
右耳の先を欠けさせている
散歩
世界がまるごと滲んでいく
まぼろしを食べていた日々
空になった花瓶と
干からびた赤い果実
読めないままの手紙に
開け放した窓
吹き込む雨が染みていき
世界がまるごと滲んでいく
夜に眠り慣れていない
どうしてかと言えば
待っているから
月が割れる瞬間を望むような
縋りつく気持ち
もう二度とふれられないことを
理解する故の、それ
いつまでも歌っていた
真夜中の片隅
羊たちが跳ねる頃に
足跡だけを残していた
ちいさく夢を集め
少年の名を思い出した
時計じかけの雨が降る
ふるえるような声を探しても
どうにもならないと
爪先で踊るのを諦めた
まぶたの裏側では
遠い日の森が揺れていて
光がやけにまぶしい
おしゃべりな指先で
ちいさく呼吸を止める
答えあわせする少女の
背に見えた翼のようなもの
あのようには飛べない、と
しゃぼん玉になっていった
約束なんて散らしながら
幼い頃なら夢は甘かった
ねむってばかりいても
たくさんのものが優しかった
月
神様の寝言も聞こえる
きみとぼくの間でだけ
伝わる言葉で話をしよう
まつげは震えているし
指先はとてもやわらかい
(ねえここは)
(だめだよ)
笑うと、とろけるみたいだね
名前を知りたいのだと言って
足元の花を摘む
そうなると興味がなくなったから
食べてしまうほうがいい
すらりと伸びた角を飾りにし
いつもの森へ歩きに行こう
そろそろ雨の降る匂いがするんだ
水槽に満たした温度が
なだらかな胸と似ている
低く唸るモータ
誰もが忘れ物をしてしまうから
2年ほど前にもらった詩を
繰り返して読む
憶えていますか
いないかも知れないけれど
あのとき花が咲いたのです
今、つま先をなでる指先には
祈りを抱えています
ひかりを探している
もう香りを失った金木犀の樹に
引っかかっている気がした
包もうとした手のひらは
とても小さく思えて
迷子になってしまうあなたの
温度も握れないかも知れない
空気が澄んでくる季節
よく染まった果実を手に取り
くちづけるし
ねえ、雨の匂いがするよ
ペルソナは「罪」と訳すのだと
赤いスカートを広げた少女
足元に綱などないはずなのに
世界はたやすくひっくり返る
散らかして遊ぶのが好きでしょう
三日月型の笑顔に隠して
歌われる言葉は誰へ向けるの
雨と夜にずぶ濡れている
だからワルツなど踊れないし
手紙の宛先も忘れてしまう
ほんとうは声がききたかった
罪悪感を抉りだされた後
心臓が収まっていたはずの場所には
何が咲いているんだと思う?
最初