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恐怖!獰猛わたパチの乱

またしても昼間に寝てしまい書くことがないので、昔の話をする。
サーティーワンアイスクリームのポッピングシャワーを知っているだろうか(ちなみにわたしは数年前まで『ッピングシャワー』と間違えていた)。食べたことのある人ならわかると思うが、あのアイスには噛むとパチパチ音を立てて弾けるキャンディが入っている。キャンディには炭酸が封入されており、口の中の唾液と反応して弾ける仕組みだ。名前の"ポッピング"もこれから来ているのだろう。
そんなパチパチするキャンディが綿飴に仕込んであるお菓子をご存知だろうか。20代後半以上の方ならわかるかもしれない。かつて明治製菓から売り出されていた、『わたパチ』という商品だ。残念ながら現在は製造が終わっており、入手は基本不可能になっている。ただ根強い人気はあるようで、市販の綿飴とパチパチパニック(明治産業が出している弾けるタイプのキャンディ)を合体させてジェネリックわたパチを作っているのをテレビ番組で見たことがある。確かにそこまでしたくなるくらいには美味しい。
しかし、わたしはこの"わたパチ"に怖い思いをさせられたことがあるのだ。
あれは小学3〜4年生くらいの頃だったか、夕方のおやつにわたパチを食べたときのことだ。甘ったるい、子供向け菓子特有のブドウ味を楽しんでいると、事件は起こった。
パチッ……ピッ、カチンッ
口の中が、痛い。
噛み砕いたキャンディの小さな小さな破片が頬の内側にぶつかる。噛み締めても上の奥歯と下の奥歯の間に僅かにできた隙間の中で、バスケのドリブルのように素早く跳ねる。飲み込むと食道に流れ込むまでに喉の粘膜を叩いていく。
当時のわたしは、そのことに並々ならぬ恐怖を感じた。今思えば、小学生の頃のわたしはそれはそれは勤勉だった。そうして中途半端に知識をつけていたのが良くなかったのかもしれない。人間、知らないことによる恐怖より知っていることによる恐怖の方が多いものだ。
一度口に入れてしまった・飲み込んでしまったものは吐き出せない。キャンディはこちらの恐怖心など意に介さず暴れ回っている。
……そうだ、こういうときは水だ。水で胃袋まで流し込んでしまおう。
我ながら天才的な発想だった。この頃のわたしにとって水は万能薬に等しかった。コップに水を注ぎ、ちび、と飲む。これできっとマシになるはずだ。
まあマシにならないのだが。
口の中で未だ強い勢力を見せるキャンディたち。それらをどうにかできないか、包装の注意書きに助けを求めて目を走らせる。すると見つけてしまったのだ。あの一文を。

『水を飲むと弾ける力が強くなるおそれがあります』

………………うそ。
それを読んだわたしは半泣きになりかけた。もう水飲んじゃったよ。どうしよう、これで口の中や喉に穴が空いてしまったら。でも食べ物は最後まで食べ切らないと。
そこからどうしたかは朧げな記憶しかないが、途中で母に泣きつくようなことはしなかったと思う。親には言ってはいけない気がして、コップに水を注ぐのも「いや喉乾いたんで」とすました顔をしてやってのけた覚えがあるのだ。内容量も元々少なかったし、おそらく、舌に馴染みのある美味しさと弾けるキャンディの恐怖との間で板挟みになりながら、なんとか完食したのだろう。
さて、これがわたパチに関する怖い思い出である。大人になった今では実に馬鹿らしい思考だとあの頃の自分を嘲笑えるが、そういったくだらないことで本気になれるのが子どもだということも身に染みてわかっているので、責める気にはなれない。ただ一つ言うなら、製造が終わるならちゃんと味わって食べたらよかったのにな、ということだろうか。
味は全く違うだろうけど、今度作ってみようかな、ジェネリックわたパチ。

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