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劇や詩の訳を少しだけ

こちらに載せなかった詩を単語と文法の勉強を兼ねて和訳します。詩的より直訳をわざと目指しました。英語(ましてや中英語)の韻を日本語で再現できる技術はないと諦めています。並びはおおよそ年代順です。しばしば関連する絵画などもはさみます。



Romeo and Juliet

[ROMEO]
I would I were thy bird.
僕が君の鳥だったらと願う

[JULIET]
Sweet, so would I,
Yet I should kill thee with much cherishing.
Good night, good night! Parting is such sweet sorrow,
That I shall say good night till it be morrow.
[Exit above]
素敵、そうだったらとわたしも願う
でもわたしは可愛がりすぎてあなたを殺してしまいそう
おやすみ、おやすみ!別れはなんとも甘く切ない
朝になるまでおやすみと言ってしまうぐらい
[上へ退場]

[ROMEO]
Sleep dwell upon thine eyes, peace in thy breast.
Would I were sleep and peace, so sweet to rest.
Hence will I to my ghostly friar’s close cell,
His help to crave, and my dear hap to tell.
[Exit]
眠りが君の瞳の上に宿り、安らぎが君の胸の中に
僕が眠りと安らぎだったなら、そのまま休むことはとても恋しい
このようなわけで僕は僕の教会の修道士の小部屋へ行こう
彼の助けを頼もう、そして僕の大切な幸せを伝えよう
[退場]

William Shakespeare, Romeo and Juliet | Act 2, Scene 2 (myshakespeare.com)

参考:Romeo and Juliet Act 2, Scene 2 Translation | Shakescleare, by LitCharts
Act 2, Scene 2は有名な場面。庭園にいるロミオが二階のバルコニーにいるジュリエットへ話しかけます。上記はその最後のやり取りです。声に出して読みたくなるリズム感が好きです。この挨拶までに二人はいろいろ会話をしていますが、そのなかに代表的な台詞があります。

O Romeo, Romeo! Wherefore art thou Romeo?
ああ、ロミオ、ロミオ!なぜあなたはロミオなの?

William Shakespeare, Romeo and Juliet | Act 2, Scene 2 (myshakespeare.com)

O, be some other name!
What's in a name? That which we call a rose,
By any other word would smell as sweet.
ねえ、違う名前になって!
名前になにがあるの?わたしたちが薔薇と呼ぶものだって
どんな違う言葉でも甘く香るでしょう

William Shakespeare, Romeo and Juliet | Act 2, Scene 2 (myshakespeare.com)

その後、修道士の立ち合いでロミオとジュリエットは婚姻を密かに結びます。そしてジュリエットの寝室で夜をともに過ごしました。Act 3, Scene 5はそこから二人がバルコニーへ出てきた場面です。

[Juliet]
Wilt thou be gone? It is not yet near day.
It was the nightingale, and not the lark,
That pierced the fearful hollow of thine ear.
Nightly she sings on yon pomegranate tree.
Believe me, love, it was the nightingale.
あなたは去ってしまうの?まだ朝に近くない
それはナイチンゲールだった、ヒバリでない
あなたの耳のぞっとする空洞に突き刺さったのは
夜ごとに彼女はこのザクロの木の上で歌う
わたしを信じて、愛しい人、あれはナイチンゲールだった

[Romeo]
It was the lark, the herald of the morn,
No nightingale. Look, love, what envious streaks
Do lace the severing clouds in yonder east.
Night's candles are burnt out, and jocund day
Stands tiptoe on the misty mountain tops.
I must be gone and live, or stay and die.
あれはヒバリだった、朝の使者だ
ナイチンゲールでない、見て、愛しい人、どんな妬ましい光筋が
向こうの東の裂けている雲に縞模様を作るか
夜のろうそくは燃え尽きた、そして陽気な朝が
霞む山の頂上でつま先立ちする
僕は去って生きなくてはならない、もしくは残って死んでしまう

William Shakespeare, Romeo and Juliet | Act 3, Scene 5 (myshakespeare.com)

ここのナイチンゲールとヒバリの使い方が好きです(どちらも美しい歌声の代名詞だが、前者は夜に後者は朝に鳴く)。シェイクスピアらしいと感じます。そして今回の逢瀬は別れ方が前回より艶やかです。見惚れてしまうような絵画の題材にもされています。

Farewell, farewell, one kiss, and I'll descend.
さようなら、さようなら、口づけを一つ、そして僕は下りていこう

William Shakespeare, Romeo and Juliet | Act 3, Scene 5 (myshakespeare.com)

一つのキスがロマンチックなのはもちろん、「farewell」は単純な「さようなら」でなく「いってきます」「いってらっしゃい」のように再会を祈願する意味が含まれているので、ここでそれを言うことにどきりとします。二人が対面できたのは最後だったから。

What’s here? A cup closed in my true love’s hand?
Poison, I see, hath been his timeless end.
O churl, drunk all, and left no friendly drop
To help me after! I will kiss thy lips.
Haply some poison yet doth hang on them,
To make me die with a restorative.
[She kisses him.]
Thy lips are warm!
これはなに?わたしの真実の愛の手の中にある一杯?
毒、そうか、彼の永遠は終わってしまった
まあ意地悪、全部飲んで、親切な一滴も残さず
あとにわたしを助けるための!わたしはあなたの唇に触れよう
もしかしたらいくぶんか毒がまだそこに残っているかもしれない
わたしを回復薬で死なせてくれるための
[キスをする]
あなたの唇はあたたかい!

William Shakespeare, Romeo and Juliet - Act 5, scene 3 | Folger Shakespeare Library

まだ体温が消えていないほどの差で歯車がすれ違ったことを知った悲劇のヒロイン。そして短剣で自身を刺してしまいます。


Venus and Adonis

Sometimes she shakes her head, and then his hand.
Now gazeth she on him, now on the ground;
Sometimes her arms enfold him like a band.
She would, he will not in her arms be bound.
And when from thence he struggles to be gone,
She locks her lily fingers one in one.
ときどき彼女はその頭を揺らす、それから彼の手を
いま彼女は彼を見つめ、いま地面を
ときどき彼女の腕は枷のように彼を包む
彼女はしたい、彼は彼女の腕の中で縛られない
そしてそこから彼が逃げようともがくならば
彼女は彼女の百合の指一つずつで閉じ込める

“Fondling,” she saith, “since I have hemmed thee here
Within the circuit of this ivory pale,
I’ll be a park, and thou shalt be my deer.
Feed where thou wilt, on mountain or in dale;
Graze on my lips, and if those hills be dry,
Stray lower, where the pleasant fountains lie.
「愛撫を」彼女は言う、わたしがあなたをここに囲ったから
この淡い象牙の柵の内側に
わたしは公園となる、そしてあなたはわたしの鹿となる
あなたが萎れたならば餌をあげる、山の上や谷の中で
わたしの唇の上で草を食べなさい、そしてもしこれらの丘が乾いたとしたら
下流にいなさい、快適な水源たちがあるところに

“Within this limit is relief enough,
Sweet bottom-grass and high delightful plain,
Round rising hillocks, brakes obscure and rough,
To shelter thee from tempest and from rain.
Then be my deer, since I am such a park;
No dog shall rouse thee, though a thousand bark.”
この境界の内側は十分に心地よい
甘い下部の草と高所の楽しい平原
丸く盛り上がった小さい丘たち、隠れと茂みを払う
あなたを嵐と雨から守るため
だからわたしの鹿になりなさい、わたしはこんな公園だから
犬はあなたを狩り出さない、どんなに吠えたとしても

William Shakespeare, Venus and Adonis | Folger Shakespeare Library

どうしても官能的な雰囲気を仄めかす女神と人間の応酬は多くの絵画の題材になっています。発想力にため息を吐いてしまいそうです。


As You Like It

[DUKE SENIOR]
Thou seest we are not all alone unhappy.
This wide and universal theater
Presents more woeful pageants than the scene
Wherein we play in.
我々だけが孤独で不幸ではないとわかる
この広々とした世界という劇場は
もっと悲しい見世物を提供している
我々が演じる場面よりも

[JAQUES]
All the world’s a stage,
And all the men and women merely players.
この世界中は一つの舞台だ
そして全ての男と女は役者にすぎない

William Shakespeare, As You Like It Act 2, Scene 7 Translation | Shakescleare, by LitCharts

弟に追放された前公爵が兄に虐められているオーランドーを助けたあとに家臣のジュークイズと話す場面です。この台詞はシェイクスピア自身の視点が反映しているかもしれません。もし彼がそう解釈して現実を傍観して、そして筆を動かして劇を作っていたのだと考えると感慨深いです。また、比喩を巧みに扱う彼の技量がよく表れている例だとも思います。


Hamlet

Why, then 'tis none to you, for there is nothing
either good or bad but thinking makes it so.
そうか、ならばそれはおまえたちにとって違う、存在しないのだ
良いも悪いも、しかし考えることがそうさせる

William Shakespeare, Hamlet Act 2, Scene 2 Translation | Shakescleare, by LitCharts

ハムレットが自国を牢獄と呼ぶと、友人のローゼンクランツとギルデンスターンは賛成しかねます。それに対するハムレットの台詞です。わたしは何事も何人も美点と欠点の両面があるはずだから片面だけに固執するのはやめようと心がけているのですが、ハムレットはそもそも良いも悪いも存在せず、考え方で変わるのだと言っていたので目から鱗でした。でもたしかにそうだと納得します。二つの面があるのではなく、一つの面をどちら側から見るか。

My words fly up, my thoughts remain below.
Words without thoughts never to heaven go.
わたしの言葉は宙へ舞うけれど、わたしの真意は地に残る
真意のない言葉は決して天へ届かない

William Shakespeare, Hamlet Act 3, Scene 3 Translation | Shakescleare, by LitCharts

参考:What is the meaning of this quote from Hamlet - eNotes.com
Act 3, Scene 3のクローディアスの台詞です。彼はハムレットの叔父で、実兄(つまりハムレットの父親)の前王を毒殺して王冠を手に入れました。その罪の意識に悩み、懺悔できらたいいのにと天へ嘆きを口にします。ハムレットはそこへ通りかかり復讐を頭によぎらせますが、祈りの最中だと判断して立ち去ります。しかしハムレットがいなくなったあと、クローディアスはこの発言をします。つまり彼は罪を本当は反省はしておらず、言葉ばかりの願いが天へ届いて解消されることないと知っていました。これをハムレットは聞いていなかった。もしハムレットが聞いていたなら、ここで復讐を遂行したでしょうか。そしたら物語は大きく変わっていたはずです。そんな想像が膨らみます。ところで、このAct 3は盛り沢山です。Scece 1はハムレットが登場すると有名すぎる独白が始まります。

To be, or not to be — that is the question.
Whether 'tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles
And, by opposing, end them. To die, to sleep,
No more. And by a sleep, to say we end
The heartache and the thousand natural shocks
That flesh is heir to — ‘tis a consummation
Devoutly to be wished. To die, to sleep;
To sleep, perchance to dream. Ay, there's the rub.
生きるか、生きないか — それが問題だ
どちらが高潔だ、精神の中で辛抱するか
非道な運命の投石と弓矢に
もしくは困難の海に反して腕を動かすか
そして、対抗することによって、それらを終わらす。死ぬこと、眠ること
それだけ。そして眠りによって、意味すること、我々は終える
胸の痛みと何千の生まれつきの傷を
肉体がその相続人である — これは完成だ
信心深く願われた。死ぬこと、眠ること
眠ること、おそらく夢見ること、そうだ、そこに困難がある

William Shakespeare, Hamlet | Act 3, Scene 1 (myshakespeare.com)

格段に訳が難しかったです。いつかこれが訳せるようになれば成長できたのかもしれない。米国の番組に英国の俳優のヒドルストンが出演したとき、司会者とこれを暗唱していました。ヒドルストンはもちろんRADA出身でハムレットを演じたこともあり、司会者も演劇を勉強していたのでハムレットを扱ったはずです。そうだとしても、すらすら暗唱できることに正直驚きました。これがどれほど有名な英文なのか再認識しました(番組内の剣先に林檎を仮定するという話も面白い)。さて、この独白のあとにオフィーリアが入ってきます。そこでハムレットが口にする台詞も有名で様々な議論があります。

[Hamlet]
Ha, ha! Are you honest?
はは!おまえは無垢か?

[Ophelia]
My lord?
なにですか、王子様?

[Hamlet]
Are you fair?
おまえは綺麗か?

[Ophelia]
What means your lordship?
なにを意味されていますか、王子様?

[Hamlet]
That if you be honest and fair, your honesty should
admit no discourse to your beauty.
もしおまえが無垢で綺麗なら、おまえの純粋は
おまえの美への会話を許さないはずだ

[Ophelia]
Could beauty, my lord, have better commerce than with honesty?
美は、王子様、純粋とよりも深い交際ができましょうか?

[Hamlet]
Ay, truly, for the power of beauty will sooner
transform honesty from what it is to a bawd than the
force of honesty can translate beauty into his likeness.
This was sometime a paradox, but now the time gives
it proof – I did love you once.
そうだ、まさに、なぜなら美の力はより早く
そのものから売春婦へと純粋を変形させる
純粋の力が美を彼の類似物へと変換させるよりも
これはかつて逆説だった、しかしいま状況が示す
証拠を、わたしはおまえを愛していたことがある

[Ophelia]
Indeed, my lord, you made me believe so.
その通りです、王子様、あなたはわたしをそう信じさせてくれました

[Hamlet]
You should not have believed me, for virtue cannot
so inoculate our old stock but we shall relish of it.
I loved you not.
おまえはわたしを信じるべきでなかった、なぜなら美徳は
わたしたちの古い台木に植え付けられないけれどわたしたちはそれを味わう
わたしはおまえを愛していたことがなかった

[Ophelia]
I was the more deceived.
わたしはもっと思い違いをしていました

[Hamlet]
Get thee to a nunnery. Why wouldst thou be a breeder of sinners?
尼寺へ行け。なぜおまえは罪人の繁殖者になるつもりなのか?

William Shakespeare, Hamlet | Act 3, Scene 1 (myshakespeare.com)

ちなみに、この場面をアンドリュー・スコットが演じている動画をYouTubeで検索できます。それにしても、「my lord」や「sir」を訳さず丁寧語にするだけより、どうにか言葉をもたせたいけれど、うまくいかないものです。


Twelfth Night

Then let thy love be younger than thyself,
Or thy affection cannot hold the bent.
For women are as roses, whose fair flower,
Being once displayed, doth fall that very hour.
したがっておまえはおまえより若い者を愛せ
さもなければおまえの愛情は曲がらずにいられない
なぜなら女は薔薇だからだ、その美しい花は
ひとたび咲くと、まさにその時間に枯れる

William Shakespeare, Twelfth Night - Act 2, scene 4 | Folger Shakespeare Library

このようにオーシーノー公爵がシザーリオ(男装しているヴァイオラ)へ助言します。現代なら批判されそうな持論です。女性は若い時が花盛なんて考え方は好きでありませんが、花に例えることは多々あると思います。わたしだったら「花はいくら綺麗に咲いても無惨に折られてしまうかもしれない。ならばあなたが誰かに折られる前にわたしに大切に摘ませてください」ぐらいの文句を思い浮かべます。


Othello

Oh, beware, my lord, of jealousy!
It is the green-eyed monster which doth mock
The meat it feeds on.
おお、お気をつけて、閣下、嫉妬に!
それは緑の瞳をもつ怪物です、嘲笑うのです
餌とする血肉を

William Shakespeare, Othello Act 3, Scene 3 Translation | Shakescleare, by LitCharts

主人公のオセロを部下のイアーゴーは昇進させてくれないゆえ憎んでいました。イアーゴーはオセロを失脚させるために画策します。そしてオセロが妻の不義を疑うよう仕向けます。ただしはっきりと進言はしません。この台詞でもあえて嫉妬を窘めます。一方、虚偽の物証を作り上げます。そしてオセロはそれに騙されて妻を殺してしまう。しかし最後に嵌められたことを知り、妻に口づけをして自らも命を絶つ。他作品と類似点のある物語です。わたしが素晴らしいと思った部分はこのシェイクスピアが使用した言葉が約420年後の現代でも残っていることです。彼の新しい造語でないとしても、彼の英語への影響力の大きさを示していると考えました。


King Lear

And my poor fool is hanged. No, no, no life?
Why should a dog, a horse, a rat have life,
And thou no breath at all? Thou ’lt come no more,
Never, never, never, never, never.
Pray you undo this button. Thank you, sir.
Do you see this? Look on her, look, her lips,
Look there, look there!
そしてわたしの哀れな愚者は絞首された。ない、ない、命がない?
なぜ犬や馬や鼠は命をもつ
そしておまえは息を全くしない?おまえはきっともう来ない
二度と、二度と、二度と、二度と、二度と
あなたにボタンを外してほしい。ありがとうございます、あなた様
あなたはこれを見るか?彼女を見よ、見よ、彼女の唇を
そこを見よ、そこを見よ!

William Shakespeare, King Lear - Act 5, scene 3 | Folger Shakespeare Library

これは長い悲劇の最終幕でリア王が死に際に口にした台詞です。ブリテンのリア王は実直な三女のコーディリアを勘当しますが、跡を継がせた長女と次女に裏切られます。リア王は宮廷道化師とともに荒野を彷徨い、狂気を帯びてきます(その場面も好き)。

そのうちリア王はコーディリアが嫁いだフランス軍に助けられますが、フランス軍はブリテン軍に敗北。リア王とコーディリアは捕虜となり、処分を言い渡されます。しかしここで長女と次女の死亡がわかり、父娘の命は助かるかと思いきや間に合わず、リア王はコーディリアの亡骸を抱いて戻ってきました。そして上記の台詞を最後に命を絶ちます。リア王の悲痛な錯乱が繰り返される言葉によって韻と合わせて妙に強調されていると感じます。この物語の道化師(Fool)は正気で、忠実な娘は最後に愚者(Fool)と呼ばれる。長老で聡明なはずの王は混迷を遺品にする。四大悲劇の一つとはいえ観客はそこを愉しむのかと思いました。


The Tempest

Be not afeard. The isle is full of noises,
Sounds, and sweet airs that give delight and hurt not.
Sometimes a thousand twangling instruments
Will hum about mine ears, and sometime voices
That, if I then had waked after long sleep,
Will make me sleep again. And then, in dreaming,
The clouds methought would open and show riches
Ready to drop upon me, that when I waked
I cried to dream again.
恐れるな。島は溢れている、雑音に
響きに甘い旋律に、それは喜びを与え傷を付けない
ときどき一千のもつれている楽器が
わたしの耳で低く鳴るだろう、そしてときどき声が
それは、もしわたしが長い眠りのあとに起きていたとしても
わたしを再び眠らせるだろう。そしてそれから、夢の中で
雲が開いて富を見せるように思える
わたしの上に落ちてくる準備ができている、そこでわたしは起きたとき
わたしは再び夢見たいと泣いた

William Shakespeare, The Tempest Act 3, Scene 2 Translation | Shakescleare, by LitCharts

シェイクスピアにしては珍しく円満な結末を迎える作品から、切り抜きだと勇敢を感じるキャリバンの台詞です(オリンピックの開会式で使用されるほど)。ただし本当はそんな綺麗な場面でないです。キャリバンはステファノーとトリンキュローにプロスペローを殺すようそそのかします。そしてエアリアルの小太鼓や笛の演奏が聞こえたときにこう言います。ステファノーとトリンキュローはプロスペローがいなくなればこの楽しそうな王国が手に入ると喜びました。個人的にあまりこの物語は好きではありません。キャリバンの描かれ方が好きではありません。よく植民地支配になぞられてキャリバンは原住民でプロスペローは侵攻者だと例えられます(ならばわざと皮肉的に開会式で引用されたか)。ヒロインのミランダもはっきりした物言いです(Act 1, Scene 2を参照)。偽善なのかもしれませんが、ディズニーの美女と野獣とは逆の対応です。そんなミランダの台詞で有名なのは最終幕。こちらはミランダの視点ならたしかに明るい未来に溢れています。

Oh, wonder!
How many goodly creatures are there here!
How beauteous mankind is! O brave new world,
That has such people in ’t!
おお、驚くべきこと!
なんて多くの立派な生き物がそこにここに!
なんて人間は美しいの!ああ素晴らしき新世界
こんなにも人々がいるところ!

William Shakespeare, The Tempest Act 5, Scene 1 Translation | Shakescleare, by LitCharts

John William Waterhouseのミランダはどちらも海の先に視線があって印象的です。いや、Waterhouseの絵画はこれに限らず脳裏に残りますが。


Sonnet 18

Shall I compare thee to a summer’s day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer’s lease hath all too short a date:
君を夏の日に例えようか?
君のほうがもっと愛らしくてもっと穏やかだけれど
荒い風は五月の可憐な蕾を揺さぶってしまう
そして夏の契約期間はただ短すぎる日付だけだ

Sometime too hot the eye of heaven shines,
And often is his gold complexion dimmed;
And every fair from fair sometime declines,
By chance, or nature’s changing course, untrimmed:
ときどき暑すぎるほど天空の太陽は照りつける
そしてしばしば天空の黄金の顔色は曇る
そしてどんな美も美からときどき衰える
なにかのはずみで、もしくは自然の変化の経緯、手入れされず

But thy eternal summer shall not fade,
Nor lose possession of that fair thou ow’st;
Nor shall Death brag thou wander’st in his shade
When in eternal lines to time thou grow’st:
しかし君の永遠の夏は色褪せていかない
そして君が宿す美という財産は失われていかない
そして死は君が死の影で彷徨うと高慢に自慢することできない
永遠の韻文のなかで時間へと君がなっていくならば

So long as men can breathe or eyes can see,
So long lives this, and this gives life to thee.
人間が息をして目が見えるかぎり
この詩が生きて、そしてこの詩が君に命を与えるかぎり

William Shakespeare, Sonnet 18 - Wikipedia

参考:Shakespeare Sonnet 18 | Reading | EnglishClub
わたしはSonnet 18よりも29が好きです。でも18は有名だから手をつけずにいられない。初見のときは君が夏の日と同じぐらい綺麗と謳っているかと思いましたが、よく理解すれば夏の日を多少貶すほど称賛していて意外でした。


Sonnet 29

When, in disgrace with fortune and men’s eyes,
I all alone beweep my outcast state,
And trouble deaf heaven with my bootless cries,
And look upon myself, and curse my fate,
幸運と人々の注視に嫌われたとき
私はただ一人で私の見捨てられた身分に泣き濡れる
そして私の無益な嘆きに耳を傾けぬ天を煩わせる
そして私自身を顧みる、そして私の運命を呪う

Wishing me like to one more rich in hope,
Featur’d like him, like him with friends possess’d,
Desiring this man’s art and that man’s scope,
With what I most enjoy contented least;
私がもっと希望に豊かな人のようだったらと祈る
彼のように洗練されて彼のように友人がいる
この人の学識とあの人の能力を望む
私が最も恵まれていることでも少しも満足しない

Yet in these thoughts myself almost despising,
Haply I think on thee, and then my state,
Like to the lark at break of day arising
From sullen earth, sings hymns at heaven’s gate;
しかしこうした考えで私自身おおそよ軽蔑していても
なんだか君のことを思うと、そうして私の身分は
夜明けのヒバリのようになり
陰鬱な大地から飛び立ち、天界の門で賛美歌を歌う

For thy sweet love remember’d such wealth brings
That then I scorn to change my state with kings.
君の甘美な愛を記憶していればこんなに幸せをもたらす
私の身分を王様と取り替えるなど嫌悪して拒絶するほど

William Shakespeare, Sonnet 29 - Wikipedia

最終行は「私の身分を王様とだって取り替えたいと思わないほどだ」ぐらいでもいいけれど、強気さを反映させました。わたしはこの詩は英国人だからこそ書けると思いました。それが好きな理由の一つかもしれません。あとは謙虚で純粋で崇拝のような好意によって鬱憤から勇気が湧いてくる様に惹かれました。


I Wandered Lonely as a Cloud

I wandered lonely as a cloud
That floats on high o'er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.
わたしは雲のように独りで彷徨った
谷や丘の上高くを漂う
そのときただ瞬時にしてわたしは群衆を見た
黄金のスイセンの大群
湖の畔、木々の下
微風に揺らめき踊っている

Continuous as the stars that shine
and twinkle on the Milky Way,
They stretched in never-ending line
along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance,
tossing their heads in sprightly dance.
星のように連続的
天の川に輝き煌めく
彼らは果てしない列に延びていた
入り江の岸に沿って
万数をわたしは一目で見た
活発な踊りに彼らの頭を投げている

The waves beside them danced; but they
Out-did the sparkling waves in glee:
A poet could not but be gay,
in such a jocund company:
I gazed—and gazed—but little thought
what wealth the show to me had brought:
波は彼らのそばで踊った、しかし彼らは
喜びの中できらきら光る波に勝った
詩人は仲間になれなかった
そのような陽気な友人の中で
わたしは凝視して、凝視して、しかし少しも気づかなかった
どんな富をその景色がわたしにもたらしたか

For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the daffodils.
しばしば、わたしが長椅子に横たわるとき
心虚ろか物思いに沈んだ気分で
彼らが目の内側の上でひらめく
それは孤独の至福
それからわたしの心は喜びで満たされる
そしてスイセンと踊る

William Wordsworth, I Wandered Lonely as a Cloud - Wikipedia 

これは湖水地方のスイセンが着想になっていますが、スイセンといえばウェールズが連想されます。鮮やかな黄金色が眩しいスイセンです。


Down by the Salley Gardens

Down by the salley gardens my love and I did meet;
She passed the salley gardens with little snow-white feet.
She bid me take love easy, as the leaves grow on the tree;
But I, being young and foolish, with her would not agree.
In a field by the river my love and I did stand,
And on my leaning shoulder she laid her snow-white hand.
She bid me take life easy, as the grass grows on the weirs;
But I was young and foolish, and now am full of tears.
柳の庭園で僕の愛する人と僕はたしかに会った
彼女は小さく白雪姫のような足で柳の庭園を歩いた
彼女は僕に自然に愛を受け入れてと言った、葉が木に育つように
しかし僕は若くて愚かで、彼女を聞き入れなかった
川の近くの野原で僕の愛する人と僕はたしかに立っていた
そしてもたれかかる僕の肩に彼女は彼女の白雪姫のような手を置いた
彼女は僕に自然に人生を受け入れてと言った、草が堰に育つように
しかし僕は若くて愚かだった、そしていま涙に溢れている

William Butler Yeats, Down by the Salley Gardens - Wikipedia

Wishes for the Cloths of Heaven

Had I the heavens' embroidered cloths,
Enwrought with golden and silver light,
The blue and the dim and the dark cloths
Of night and light and the half light,
I would spread the cloths under your feet:
But I, being poor, have only my dreams;
I have spread my dreams under your feet;
Tread softly because you tread on my dreams.
もし僕が刺繍飾りのある天国の布地をもっていたら
金と銀の光で織り込まれた
青く、朧げに霞む、黒みがかった布地
夜と光と薄明りの
僕はその布地をあなたの足元に広げるだろう
しかし貧しい僕には自分の夢しかない
僕は自分の夢をあなたの足元に広げました
優しく踏んでよ、あなたは僕の夢を踏むのだから

William Butler Yeats, Wishes for the Cloths of Heaven - Wikipedia

イェイツの詩はなにを付け加えても蛇足にしかならないほど美しいから黙りたいです。もし言い訳を許されるならば語尾に迷いました。例えば最後を「優しく踏みなさい」「優しく踏んでね」「優しく踏んでください」どれにするかでだいぶ雰囲気が変わり、あるいは崩れてしまいます。きっと読者それぞれにしっくりする語尾は異なると思います。


例えばですが、全体を通して「shall」の訳し方に悩みました。主語の意思に依らない義務・当然・予測・予言、もしくは主語の比較的強固な決意・意力、疑問文なら相手の意向を伺う。そんなニュアンスがある単語です(平成天皇が皇太子時に「I shall be the emperor」と英語の授業でおっしゃった出来事が思い出されます)(とくにイギリス英語?アメリカ英語との違いは勉強不足)。

このように単語一つにも背景がぐっと込められています。単純な言語の知識だけでない。文化・慣習・歴史など全部を把握してないと理解できない。そうして文体の雰囲気を損なわないよう、ほんのり醸し出せるよう、我流に改変しすぎないよう、訳していくのはたいへんです。ただしそのぶん達成感や満足感を得られたときは嬉しいのかもしれません。

脳内で思い描いていたもの、速筆で書き留めていたもの、それらをこうして大袈裟でなくとも公開するために改めてまとめると、より慎重に考えたり校正を入れようとしたり、新しい気づきに出会えました。それがいいことだと思いました。

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