テスラを世界標準の経営理論で分析してみた

4.SCP対RBV

・自動車市場は勝つ差別化が求められるチェンバレン型で、
 リソースの希少性をもとに競争力を高めるRBVに基づく戦略で市場が形成されていた
・そこでトヨタは模倣困難性の高いトヨタ生産方式や企業グループを形成し、リソースの希少性を高めて勝利を収めていった
・EVシフトにより参入障壁は下がり、
 自動運転により自動車市場がモビリティ市場となることで競争の型が変化の激しいシュンペーター型に移行した
・競争の型が変わったため、イノベーションに基づく戦略という異なる戦略が求められるようになっている

7.取引費用理論

・テスラは開発設計から保守まですべて内製化している
 一方で成長段階において内製するものを変えたり、
 内製化の手法が従来の自動車メーカーと異なっている
・開発設計についてみてみる
 第一世代のRoadstarでは電池はパナソニック、車体はLotusをほぼそのまま流用しており、
 電池制御などのソフトウェア部分のみを内製化していた
 第二世代のModel S/Xでは電池はパナソニックのままだが、車体は内製化した
 そして第三世代のModel3/Yでは電池も車体も内製化した
 このように企業の成長ステージに合わせて内製化を進めているのが特徴と言える
・自動車業界の販売網は巨大で内製化するとコストがかかるが、
 テスラはインターネット販売と一部の直営店の運営という形で、
 コストを抑えることができた

10.リアルオプション理論

・自動車業界はサプライチェーンや開発、法制度のなどの複雑さから、小さい初期費用で始めるといったことが難しく、
 1つの参入障壁となっていた
・「取引費用理論」の章でみたように部分的な内製化から進めることで、初期費用を抑えつつ軌道修正を行い、ステップアップしていくことができた

20.認知バイアス理論

・現行の自動車会社は内燃機関の時代が続くという認識フィルターを無意識のうちに設定していたため、取得する情報に偏りがあった
・そもそもテスラは自社を自動車会社として定義していない
 ソーラー発電社会へのシフトの会社として自社を定義しており、
 その観点で情報を収集し、意思決定を行った
 EVはあくまで手段でしかなかった
 「テスラモーターズの包括的な目的 (そして私がこの会社に出資している理由) が、
  採掘しては燃やす炭化水素社会から、私が主要な持続可能ソリューションの1つであると考える
  ソーラー発電社会へのシフトを加速することだからです。
  それを実現するためには妥協のない電気自動車が必要不可欠」

21.意思決定異論

・内燃機関での資産が大きいため、リスク回避的になってしまった
・例えばトヨタは内燃機関の戦いが続く限り有利な立場をキープし続けられるが、EVとなるとどうなるか予測できない
・既存の自動車メーカーは他社が実績を作らない限り動けない

23.センスメイキング理論

・イーロン・マスクはEVを目指すという方向を従業員だけでなく、顧客にまで腹落ちさせることができた
・ソーラー発電社会へのシフトという明確な目標があり、
 そのためのマスタープランがあることで、
 経営層、従業員、顧客が足並みをそろえて行動していくことができた
・マスタープランを掲載しているブログは、
 「ここだけの秘密です」と書いているものの、
 ブログとして一般に公開している
 そしてマスタープラン1と2の双方をほぼ達成している
・「スポーツカーを作る
  その売上で手頃な価格のクルマを作る
  さらにその売上でもっと手頃な価格のクルマを作る
  上記を進めながら、ゼロエミッションの発電オプションを提供する」(マスタープラン1)
  https://www.tesla.com/jp/blog/secret-tesla-motors-master-plan-just-between-you-and-me
・「バッテリー ストレージとシームレスに統合された素晴らしいソーラールーフを作ります。
  すべての主要セグメントをカバーできるようEVの製品ラインナップを拡大します。
  世界中のテスラ車の実走行から学び、人が運転するよりも10倍安全なセルフドライビング ケイパビリティを開発します。
  車を使っていない間、その車でオーナーの方が収入を得られるようにします。」(マスタープラン2)
  https://www.tesla.com/jp/blog/master-plan-part-deux

28.社会学ベースの制度理論

・自動車産業の正当性が変わった
 燃費重視からEVへ
・ロビイングやCSRといった非市場で政府への働きかけで、政府主導のEVシフトが起きた
 政府による税制優遇やEV比率目標が設定された
・結果として環境に良いからという観点だけでなく、安いからという理由で購入する人も増えた
・テスラの利益の中でもCO2の排出権取引は無視できない規模である
 2020年は15億8,000ドルで、最終利益が7億2,100ドルであるため、
 排出権取引がなければ赤字である

29.資源依存理論

・EVの価格構成比の25%程度は電池と言われており、
 電池を内製化したことで、電池メーカーへの依存度を下げることができた
 他の自動車メーカーが電池メーカーとの交渉に苦労する中で大きな優位性を持つことができる
・2020年-2022年にかけての半導体不足に際しても、
 他の自動車メーカーが半導体不足に起因する生産台数減に陥る中、
 テスラはソフトウェア側の書き換えで他の半導体を代用するなどの形で乗り切ることができた

31.エコロジーベースの進化理論

・テスラは2014年にBEV(バッテリー式電気自動車)の全特許をオープン・ソース化している
 これにより、競合の成長や参入を促し、
 電気自動車の業界の成長を早めるという戦略をとった

●所感

・テスラは規格外で分析が難しかった
 経営理論は過去の事例を分析して生まれた理論であるため、
 テスラのような新しい道を切り開く企業の分析には難しさがある
・自動車会社としてどのようにすごいかといった分析が多々なされているが、
 そもそも自動車会社とイーロンマスクは思っていない
 自動車会社として優れている点もあり分析は必要だが、観点がずれている
・マスタープランを見るにマーケティングの戦略が極めて優れていたと思われる
 経営理論的な分析では扱いきれないが、マーケティングの分析をすると面白いと思われる
 例えばテスラはほとんど広告出しておらず、
 イーロンマスクの存在そのものが広告塔になっている
・生産技術についても優れており、
 車体のボディを一体にしてプレスするギガプレスなど面白い取り組みをしている
https://lowcarb.style/2021/10/19/tesla-megacast/
・テスラは無軌道な会社で読めないといった記事も散見するが、
 これほどビジョンが明確でそのための手段が明確な会社もない
・テスラは魅力的だが壮大なビジョンをかかげているが、
 そのための現実的な手段としてのマスタープランが優れている
 マスタープラン3を近々公開するとイーロンマスクはTwitterでつぶやいていた
 楽しみである

●参考資料

・TESLAホームページ
https://www.tesla.com/ja_jp
・Elon Musk氏ブログ
https://www.tesla.com/jp/blog/master-plan-part-deux
・テスラの事業戦略研究・序説
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sisj/2021/36/2021_59/_pdf
・ものづくり太郎 Youtube チャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=rLATN96XN8Q


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