見出し画像

【#93】心が震える師弟愛!「雨ン中の、らくだ」

「志らくは俺と同じ価値観を持っている」。師匠はあの日、そう公言してくれた。身が引き締まる思いがした。大学在学中に、高田文夫氏の導きにより、立川談志のもとを訪れた。ドジを繰り返して怒られた入門当時。若い女性たちに追っかけられた、謎のアイドル時代。師の到達点を仰ぎ見つつ、全身落語家として精進を重ねる現在。十八の噺に重ねあわせて描く、師匠談志と落語への熱き恋文。

僕は落語が好きで良く聞くのですが、僕が落語を好きになるきっかけになった本です。
作者はテレビでも良く見かける立川志らくさんです。
M-1グランプリの審査員もやられていて、落語普及のために様々なジャンルでご活躍されている方ですね。

志らくさんの師匠は立川談志師匠。
落語立川流の創始者であり、圧倒的カリスマ性を持った伝説の落語家です。
落語業界は今でも師匠に弟子入りをして修行をする所からスタートします。
落語業界は1度師匠を決めたらよほどのことがない限りは生涯、師弟関係が続きます。
従って、師匠選びは非常に重要です。
「前座見習い」「前座」「二つ目」「真打ち」と階級があり、前座見習いは師匠の身の回りの世話や鞄持ちなどが仕事で、寄席の楽屋に入ることが出来るのは前座に昇格してからです。
そこから師匠に認められて1つずつ階級を上げて、長い月日をかけて晴れて一人前の落語家になるのです。

志らくさんは談志師匠に憧れていたわけではありません。
談志師匠に「なろう」としていました。
前座時代にも楽屋仕事を放り出して、兄弟子に叱られながらも舞台裏で張り付くように談志師匠の高座を見ていた事に始まり、気難しい談志師匠と同じ感性や価値観を手に入れたいという思いから好きな絵画や音楽までも「師匠が好きだから」という理由で自分も好きになるまで吸収するという徹底ぶりです。
談志師匠の言葉に「修行とは矛盾に耐えること」という言葉があります。
この言葉に恥じぬ談志師匠のエピソードが本の中にもたくさん出てきますが、志らくさんはそんな一見無茶に見える要求も、師匠の意図を自分が理解できるまでひたすら着いていく。
それほどまでに立川談志という人間に惚れ込まれていたんですね。

現代社会は良く教育制度、教育体制という言葉を使います。
確かに万人が育つような教育のシステム構築も大切だと思いますが、こういった師弟関係、人との繋がりを軽んじてはいけないと思います。
「憧れの人の感性を理解するまで何が何でも着いていく」という姿勢は言葉にすると簡単ですが、理解するまでの過程で恐ろしい量の我慢や思考の咀嚼を繰り返さないといけないと思うんですね。
良い意味で自分の思考の枠を壊し、新たな発見を得られる行為だと思います。
そこまで惚れられる人に出会える人は幸せですね。

本書には志らくさん曰く「私が愛してやまない、師匠を語る上で必要な」一八席の落語が志らくさん目線で紹介されています。
どれも談志師匠の落語です。
タイトルの「雨ン中の、らくだ」もその内の1つですね。

落語の魅力の紹介と深い師弟愛が書かれており、まさに「笑いあり、涙あり」の一冊です。
是非、ご一読いただいて落語界の師弟関係の素晴らしさを覗いてみてください!

ではまた!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?