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最終ラインポイントゲッター

俺はまだやれる……っ!

サッカーにおいて、ディフェンスというポジションが得点を期待されることは少ない。それは単純にポジションが相手ゴールから遠いということもあるし、それよりも自陣のゴールを守ることが求められるというのもある。
そんな中でチーム一のスコアラーが最終ラインに居るクラブがあった。
そのクラブはセットプレーからの得点に強みがあった。セットプレーにおいては空中戦が求められるというタイミングであることからDFの選手も前線に位置することは珍しくない。
そんな中で文字通り頭ひとつ抜けたジャンプ力で相手選手との空中戦を制し、強力なヘッドで持ってゴールを量産する選手がいた。
彼は元々守備に重点を置いた堅実な選手という見方をされることが多かった。最終ラインを統率し、相手FWに的確なプレッシャーをかける。そうしたプレーは高い評価を得ていた。しかし、クラブはなかなか勝利することが出来なかった。得点力不足だ。そうするうちにクラブは降格圏争いに巻き込まれる位置に落ちていった。
クラブの降格は彼にとっては死活問題だった。彼はクラブの中でも年俸が高い方であり、もしクラブが降格して予算が削減された時には真っ先に整理の対象になることが明白だったからだ。
彼はプロとしてのキャリアを続けるため、そして愛着あるクラブのため、ある決断をくだした。
それはより攻撃的になり、点の取れるクラブになることだった。そのために彼自身が最前線まで攻撃参加することだった。その判断はおかしなものではない。しかし、最終ラインの選手が攻撃に参加しようとすると攻守のバランスが変わってくる。それに前線のメンバーとの意思疎通も取らなければならない。それは並大抵のことではない。むしろ苦し紛れの奇策に近かった。それでも彼はクラブが勝つためには必要なことだと信じて攻撃力強化のために新たな役割について研究を重ねていった。
結果としてクラブは降格争いを勝ち残った。
彼はそれを心の底から喜んだ。自身の愛するクラブの力はこのリーグでこそ発揮されると信じていたからだ。
しかしその代償として、彼は選手生命を大きく減らす怪我を負うことになった。その後、彼は先発出場の頻度を大きく減らしていく。皮肉にも出場機会を求めて行ったプレーが彼のサッカー人生を縮めたのだ。その結果、クラブは若返りを果たし、戦力が向上したことは皮肉というほかない。

「俺はまだ諦めちゃいない。次は俺が勝つ番だ。」

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