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「満月の昇る姿を、あと幾度見るだろう」

地元の美術館に興福寺の国宝展がやってきたとき、運慶の「無著菩提立像」の前で言葉が消え、時間が止まった。そこに在るのは命以上に命を与えられた「何か」だった。

そのとき、直観的に分かった。芸術とは、神への限りない接近であり、永遠性への果てなき希求なんだと。

それは、死すべきものとして運命づけられている人間存在の抵抗であり、「空しさ」の裏返しでもある。

「満月の昇る姿を、あと幾度見るだろう」

映画音楽を手掛けた「シェルタリングスカイ」の中の言葉を、坂本龍一は大切にしていた。自分に残された時間の短さを、静かに、でもはっきりと感じ取っていたのだと思う。

晩年、森林保護や反原発運動などに傾注したのも、その根底には命に対する厳粛な想いがあったから。

自らのCODA(終章)にそっと向き合いつづけながら、自分が消えた後も響き続ける命を生みだし続けた姿に、胸を揺さぶられる。


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