短編映画『ファーストライン』を観た末席作家の感想文(東宝GEMSTONE『GEMNIBUS vol.1』)
映画配給会社【東宝】が運営するコンテンツ制作レーベル【GEMSTONE creative label】が、新人クリエイターに発表の場を、と立ち上げた短編映画オムニバス『GEMNIBUS』を観に行ってきました。
作品は4作。特撮、サイコスリラー、アニメ、ゾンビパニックと、バラエティーに富んだラインナップ。
新人、といっても素人がイメージしがちな『アマチュアからプロになりたての新人』ではなく、公式サイトで紹介されている経歴を見ると既に充分な経験と実績を積んでいる方ばかり。そろそろ巨匠と並び映画界の柱となるフェーズにおいての新人、という感じの意味合いに受け取りましたし、どの作品も見応えのあるものでした。
本noteは『ファーストライン』についてが主なのですが、どれも面白かったので全作品についても少し触れたいと思います。
『ゴジラVSメガロ』上西琢也
記憶にある限りで私にとって『初の映画館ゴジラ』でした。
実を言うとテレビで見ても造り物っぽさが先に立ってしまって、組織物語としては面白いけど…と思っていました。
でも劇場でみると映像の奥行も表面素材のディティールも建物や重機の質量感も、何もかもがとてもリアルで、映画館の画質、音質のスペックでないと味わえないものなのだということが判りました。
ゴジラ…いままで造り物っぽいとか思っててごめんよ。
こんど家で観る時は、せめて部屋を真っ暗にしてヘッドフォンで観ようと思いました。
本作は短編ということもあってか、組織モノやヒューマンドラマの側面はバッサリ削ぎ落されVFXに全振り。
有名俳優の起用や物語ナシでも魅せられるんだ! ゴジラの本質はそっちじゃない! といわんばかりの潔さ、かっこよかった!
『knot』平瀬遼太郎
登場人物が良い意味で記号化されていて、人物紹介を短編の尺に入れずにそれぞれの役どころが理解できるようになっていたところ、書く身として大切なことを再認識させてもらえました。
サイコスリラーの基本に忠実という感じの構成で、区別つきにくい感じで脳が混乱するような過去の記憶との行き来とか、ラスト安心したあとで突き落とすの最低(最高)。
個人的にツボだったのはモブ扱いされまくってたリモート出演の記者(?)役の田村健太郎さんが最高でした。あとオシャレな滝藤賢一さんの無駄遣い(褒めてます)も!
あとサントラを事前に聴いていたので、ハアハアと荒い息づかいの入った曲が使われるシーンなど「ここか!」とパズルが合ったときのような妙な喜びがありました。
『フレイル』本木真武太
短い尺によくこれだけ盛り込めたな! というくらい要素の掛け算がうまくて、そこがまず勉強になりました。
少子高齢化問題、インフルエンサー、青春、音楽、SF、そしてゾンビ……
あとknot同様、こちらはゾンビ映画あるあるを踏襲していて、構造理解としてもすごく嬉しかったです。
若返ったアバターで、実年齢の性格や話題、お菓子(お茶と煎餅あったよね?)とか、中の人のリアリティを描いてるの好き。
ファーストライン目当てで行っておきながら、何気に物語としては一番好きな作品かも。不穏は残しつつも、ハッピーエンドで終わっているのも好みでした。
あと、タイトル。公式には『フレイル』とありますがロゴをみるとフレイ(キ)ル、と。映画館の大画面で見て初めて気がつきました。
フレイル(健康状態)と見せかけて、作中にも出てきたチア的なフレイ(hooray)とか、キル(kill)それからイキル(生きる)、みたいな言葉遊びが隠されてるのかなと思いました。
プロフィールの代表作も『おま釣り騒ぎ』、『木って切っていいの?』ですし笑
(これ書きながらサントラ聴いてたら「ふれる」「生きる」って曲がありました。なるほど、触れる、は映画の大事な要素ですね)
ちなみに、エンドロールに「とおるす」って文字を見た気がして帰宅して少し漁ったら、アカペラグループRabbit Catが関わってるんですね。
私あんまり詳しくないのですけど、とおるすさんはPenthouseのヴォーカルとも関わりあるのでお名前は動画とかで時々見かけてたんです。
7月7日に本木真武太監督とRabbit Catのトークがあるようなので、角野ファンでファーストラインを観に行こうとしてる人の中でPenthouseガチ勢さんがいたら、ココ行っとくと映画音楽とアカペラのテーマなので、良さげかもしれませんね。(ツイートしたら本木監督いいねくれた、いい人だ!)
『ファーストライン』ちな
さてようやく(?)タイトルにした作品にまいります。
感想というよりは、観れない方にどんな映画だったのかをお伝えできればいいなと思い、できるだけ淡々と書くつもりですが、だいぶ興奮しているので読みづらかったらゴメンナサイ。(24時間以上お腹も空かず睡眠は3時間ほどという典型的なハイ状態です笑)
なお4作品中でこれだけがアニメです。
ちな監督も既に実績のある方で、直近では『薬屋のひとりごと』を楽しませていただいてました。
メモ(あんまできなかった)と記憶を辿って、順を追ってサントラの曲と照らし合わせながら書いてみようと思います。
(曲、もし違ってたらおしえてクダサイ)
音楽が場面とシンクロしてかっこよかったところを太字で書いてます。カッコ内の数字はサントラでのたぶんココだと思う、的な目安です。イメージ頼りでサントラに当ててるので記憶違いあると思います。(読んでくださった後に鑑賞して違ってるとこ気づいたらおしえてクダサイ)
サントラはこちら
Chapter1
Chapter2
Chapter3
このシーン、ちょっと考察入ります。。。
まっすぐ唸るストリングスは、横一文字に(人物の肩のラインだったかな)太めの線を引くときだったと思います。そこがすごく印象的でした。
音でなんとなく分かると思いますが、自分の絵に自信が持てないままのミトが走らせる、迷いのある線の音という感じかなと。
曲のタイトル的に低いストリングスは全部消しゴムとかアンドゥ系の描写だと思っていた私には、このシーンは意外でした。
確かに、曲全体に漂う停滞感、時計の音っぽいタタタタタという音の繰り返しは、迷ったまま試行錯誤して時間を無駄にしてるような堂々巡りの雰囲気ありますよね。
でも、曲の根底には推進力もあって、このシーンがただ迷子の時間じゃなくて、ミト的には頑張ったし、この方法を正しいと思うことで前に進むことができていたんですね。ただ進む方向やらかしちゃってたという。
音楽と映像を同時に脳で処理するには私のスペックが足らず、ちょっと断言はできないんですけど、
この "迷いと、思い込みの肯定感" みたいな潜在意識的空気は、画面には現れず、音楽の中だけにあるものだった気がします。
音楽がなければ、あるいは別の音楽だったら、試行錯誤しつつも、もっとポジティブなシーンに見えたと思います。
(私が時々ツイートする、「言葉は音楽に勝てない」に似てる感じ。「愛してる」の歌詞が長調なら両想い、短調なら悲恋系、どうとでもなり得るってやつです)
で、しかも、そのやらかしてる感は、新人のミトならコレで上出来だろうという妥協に寄りかかって、いかにも明らかなダメ臭はしてなくて、ミトも観客も気づかないフリができてしまう塩梅。
実に巧妙で、かてぃんさんが物語から読み取った空気の表現の仕方に脱帽です。
それが次のシーンで覆されるわけです。
Chapter4
また考察入ります。
苦悩というタイトルは、当然、主人公であるミトの苦悩ではあるのでしょう。たとえば、自分なりに頑張ったのに認めてもらえなかったとか、信じて託してくれたのに期待に応えることができず監督を落胆させてしまったとか。
曲が静かで諦観じみたオシャレさあって「もう、アニメの世界から身を引くべきなのかな」とかそういう心理描写にも受け取ることもできそう。
でも映像と併せて聴くと、ミトの心理というより、大事なシーンを信じて任せた監督の側の苦悩でもあるようにも感じました。後進を育てる難しさだとか、ミトを責めるでなく、自分に見る目がなかったのかと老いを感じるような寂しさ。
あるいは、以前のミトにあった輝きは何処へ行ってしまったのかというような。
新人の苦悩にしては渋いというかオシャレじゃないですか。若気の至りみたいなごちゃついた苦悩じゃなくて、淡々としていて、過去にいろいろあったオトナの回想みたいな音がするので、観るまでどんな苦悩だろうと思ってたんです。
でもこっちは確実。落ち込んだミトにスケッチブック、つまり過去の、描くことがただただ大好きで夢中で描きなぐっていた頃の自分が呼びかけるんですよね。その時のキラキラコロコロは妖精みたいな音で、ファンタジー感にあふれていたので、サントラだけで聴いていたときからこんな感じの演出あるんじゃないかってなんとなく思ってました。(もちろんスケッチブックだとかまでは思ってません笑)
しかもミトが絞り出すように言う台詞、音楽がなくなることで、めちゃくちゃ沁みました。
Chapter5
Chapter6
台詞がほとんどないシーンで、目まぐるしい幻覚を見る時間でした。
そんな中、監督の声だけが(集中しているミトの頭の中に)響きます。
描け!描き続けろ! と。
ちょっと、鳥肌でした。
なぜって、サントラ(正確には初だしのラジオ放送時)を聴いたとき、音楽から確かに監督の声がしたんです。
そのときは監督の声とはわからなかったけど、誰かが「描け!止まるな!描き続けろ!動け腕!動かせ脳!」みたいに叫んでました。
私はそれをミトの声かと思っていたのですが、監督でしたね。
ここまで映像とシンクロする……かてぃんさんの描写力すご……。さすが第一言語がピアノなだけのことはある……。
ちなみに他にはどんなこと感じてたかというと
ミトが集中してゾーンに入ってる状態での幻影なら、ここで感じた悪魔的な誘惑の音とかエクスタシーもそんなに遠くはなさそうですよね。
100%正確に伝わるのは難しいかもしれないけど、かてぃんさんの表現したかったことは映像がなくてもちゃんと伝わってるんですよね。
すごいなぁ、かてぃんさん。
すごいなぁ、音楽。
それから、ヲタク界隈には、
「タイトルを最終回に持ってくるの大好き侍」とか
「最終回のEDでOP曲流れるの大好き侍」とかがいまして。
私もそれなんです。
なのでこのラストは本当に脳汁出まくりました。
ちな監督と話してみたい!
観る前から、王道ストーリーなのはわかり切っていたし、こういうラストも想定してました。
「主人公が折れて立ち直ってイベント成功させて1UPする話」
でも好きなんです、こういうの。
でもそれって今どきは、もうすこし捻れよって言われがちでもあって。
だからどこに着地するかなぁって思って観に行きました。
結果、ど直球ストレートの王道で駆け抜けた。
それはそれですごい勇気と覚悟がいったんじゃないかと。
ちな監督と角野隼斗の意外な(?)繋がり
『秒速5センチメートル』
ちな監督がインタビューで【かけがえのない映画】として挙げているのがこの映画です。
コ口ナ禍に中止になってしまったコンサートで演奏する予定だった曲……。
実は、サントラだけを聴いてイメージを膨らませているときに、少し不思議だなというか、なぜこうしたんだろう? と感じていたんです。
かてぃんさんは自身の作曲に、感情の描写を割と分かりやすく刻むほう(奏鳴とか追憶みたいな)だと思っていたので、サントラから聴こえる音からそういうものをあまり強く感じなかったのが興味深いなと。(たとえば苦悩とか、本人だけの作品ならもっと精神的にキツい音も入るはずで)
アニメだけど、アニメの中では現代モノをやっているのに、ちょっと距離をおいたような、ファンタジー感。
何か、理由があるんだろうと思っていたし、ちな監督の映画なので、かてぃんさんだけの曲ではないというのも関係しているだろうと思っていました。
それが、この記事によって『秒速~』の話題になったことで、腑に落ちました。
秒速も、アニメの中で現代モノをやっていながら、リアルは感じさせるのに、どこか非現実感があるんですよね。現実みを求めるのなら実写やればいいわけで、アニメだからできる表現、演出が肝心というか。そのバランス感と、今作は似ているような気がします。
後で記事になるかもしれないので詳細は伏せますが、上映後のトークでかてぃんさん「客観的に、すこし距離を置いて作曲するように心がけた」のようなことも話していました。
『海獣の子供』
それから、ちな監督は映画『海獣の子供』の原画にも参加しているようです。
かてぃんさんと海獣の子供といえば『海の幽霊』。ピアノからクジラや星や魚群が飛び出してくるかのような衝撃の演奏動画です。
ちょっとヨコの話なんですが、この動画についてTwitterで呟いたとき、作画監督の小西賢一さんが反応してくれたことがありました。
そしてこの小西さんは今敏監督作品の要の方でもあり……今作が国際映画祭の今敏賞にノミネートされているのもムネアツです。
公式:https://fantasiafestival.com/fr/film/first-line(フランス語)
ちなみに、かてぃんさんの『幻影』を聴いたとき、ちょっと『海獣~』を思い出したんですよ。実際に映画を観て、更に。
幻影の流れるゾーンタイムは、まさにと思いました。
でも、創作物や創作人に「◯◯を思い浮かべた」とかは場合によっては不快感を伴うほど失礼にあたることがあるので、呟かずにいました。
今回noteを書くにあたって経歴など掘ってみたところ繋がりがあったので、『海獣~』は、ちな監督のアニメDNAに組み込まれているのだなぁと思い、書いておくことにします。
『秒速~』の音楽を担当した天門さんも『海獣~』の小西さんも、かてぃんさんFFですから、遅かれ早かれ出会う二人なんだろうなと、思ったりも。
おわりに
気がつけば7000字超え……。めっちゃくちゃ長くなってしまいました。
できるだけ淡々と読みやすく、は無理でした、ごめんなさい。
まだまだ書きたいことあるのですが、これ以上は蛇足感あるのでこのあたりにしておきます。
これから観る方の解像度のアップに、それから東京や大阪遠いよ、行けないよ、という方のサントラ鑑賞のヒントにと、なにか少しでもお役に立てていたら嬉しいです。
それから、もし、もしも、ちな監督、かてぃんさん、それから今井プロデューサー、関係者の皆さまがこれを読んでくださっていたら。
素敵な機会を本当にありがとうございました。
4作品、それぞれ楽しかったし、学べることもたくさんありました。
まだまだ書籍化、映画化には遠い身ですが、書くことが好きだし、私もちな監督の作品のように王道まっすぐ、【音楽:角野隼斗】を目指して進むと、改めて志を強く持とうと思えました。
私もいつか東宝のスクリーンに名前が載るような仕事がしたい。
新たな目標もできました。
小説アカウントも覗いていただけたら嬉しいです。
寿すばる でした。
20240705追記:舞台挨拶の動画があがりました。『秒速~』の項で書いた「客観的に~」のお話も入ってます!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?