2020年、ポゴレリチ事件を感じる

かてぃん、こと角野隼斗が出るということでショパンコンクールのことを少しずつ調べていると、昔のいろんなエピソードに辿り着いたりする。

その中でも特にセンセーショナルなのは『事件』ともいわれる審査員マルタ・アルゲリッチと若きイーヴォ・ポゴレリチのお話。

1980年のコンテストでの出来事。イタリアやカナダのコンテストで優勝経験のあるポゴレリチはステージで類稀なセンスと才能を見せるも、予選敗退。多くの審査員は彼の演奏をショパコンにはふさわしくないというような評価を下したようで、それに反対したのがアルゲリッチ。

当時の映像がいくつか動画に残っていて(非公式)何度か観たことがある。感情的でところどころ荒さもあって、確かに、落とす理由を探せばいくらでもありそう。当時は今よりもっと保守的な世界だっただろうし、彼のような華やかで個性的なタイプは斬新すぎたかもしれないとも感じた。

けどゾクゾクするんだよね。グッとくる音を持っている。きっとアルゲリッチもすごく惹かれたんだと思う。「彼は天才よ!」と彼が落ちるなら審査員を抜けるとまで言って、帰っちゃったらしい! コンテスト途中で緊急記者会見を開く羽目になっちゃってもう大変な騒ぎだったみたい。これがいわゆる『ポゴレリチ事件』。ネットで拾った情報だと、ショパコンは出ないで、代わりにチャイコで1位にするから、なんていう裏取引があったとかなかったとか。最終的に彼は審査員特別賞を受賞してる。

とにかくそんな大事件だったから、彼はその回のショパコンの話題をかっさらう感じで、一気に大スターとなった。デビューリサイタルがカーネギーホールとかね!

ちなみに彼は超イケメン。1980年頃といえば、故デヴィッド・ボウイが世界的に大ヒットしだした頃で、その頃のイギリスではデヴィッド・シルヴィアンも人気で、ポゴレリチはそういう、当時の流行の顔立ち。今見てもかっこいい。クラシック界のイケメン。一流と言われるレコードレーベル、ドイツ・グラモフォンの黄色いラベルが眩しい。

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彼のインタビュー記事がオントモにあるので、ぜひ読んでみてほしい。ピアノや、クラシックに対する真摯さが胸をうつよ……。奇才とか型破りと言われていても、彼もれっきとした正統なクラシックの後継者なんだなと。

で、なんで普段かてぃんさんが、角野隼斗がーばっかりの私が今、ポゴレリチなのかというと。Twitterで、ショパンのソナタについて彼とファンの方が話しているのを見て、そっかソナタかぁ、とYouTubeを漁ったせいで。

ちょうど、かてぃんさんが演奏予定だというソナタ2番でたまたま開いた動画がショパコンのポゴレリチさんだった。たまたま開いた、というと語弊あるけど、検索してどれ聴こうかな、となって、ああそういえばポゴレリチあるじゃん、と開いた感じ。上でも書いた、前にも観てる動画。やっぱり荒っぽいけどすごく良い演奏だと思う。好き。

けど改めて見てみたらさ、演奏始まりめっちゃ笑顔で出てきた彼、演奏終わったらめちゃめちゃ泣いてるの。何を思いながら弾いたんだろうって、感情的に聴こえた音には本当に感情がこもってたんだなぁって、感動してしまった。ソナタ2番は、いわゆる『葬送行進曲』が入ってる曲。全体的に悲し気だから、何もなくても弾いていると泣けてくるのかもしれない。特定の身近な誰かの死や、ショパンが祖国を憂う気持ちを思い浮かべてしまうのかもしれない。大きな舞台で弾けた感動かもしれない。ピアニストじゃないから私は分かりようがないけど、とにかく彼の昂りを感じて、より彼を好きになった。

そして想像してしまった。これを角野隼斗が弾くのかと。ポゴレリチの騒動の後、20年ものあいだ審査から遠ざかっていたアルゲリッチの前で弾くのだと。

コロナの影響でいろんな感情があふれるピアニストがこれを今弾くという事、それだけで感極まる演奏が保証されたようなものなのに、あの泣いちゃうピアニスト代表みたいな感受性の塊、角野隼斗が弾くんだと。(※良い音のピアノ弾いて泣いちゃう発言、両手で足らないくらい観た映画の2時間でまた7回泣いちゃう、などなど)

想像するだけでヤバい。今の時代的に、個性的だからといって彼を予選ではねるようなことはないと思うし、角野版ショパンは個性的だけどショパン感もちゃんとあると思う。だからさすがに事件化はしないと思うし、そんな大きな揉め事は本人だって望んでいないだろうし。ただただホントに審査員の皆様のライフを心配する。ぐっさり刺さる人が必ずいるはず。沼へようこそ。お気に入りピアニストを推したい審査員と、海外経験が少なくて無名に近い角野隼斗を初めて生で観て興奮した審査員とで、結構な審査バトルになるかもしれないくらいはありそうだ。

そしてなんにしても、アルゲリッチはきっと思い出す。40年前、ポゴレリチに抱いた感情を、鮮明に。ショパンコンクールの結果がどうなるかはわからない。でも角野隼斗がショパコンに出るということは、たぶんアルゲリッチと出会うこととイコールなんだと、思った。なんだか大袈裟と思うかもだけど、歴史に立ち会ってる感がハンパない。クラシックのこと何も詳しくない私が、こんな瞬間を見せてもらえるのすごい。

ホロヴィッツの歴史に触れることが出来なくて悔しかったって話を前にしたけど、そういう意味でいったら今、私は角野隼斗の人生という壮大な舞台を、特等席で観ている。私だけじゃなくて、彼のファンみんな。

先日、現代の偉大な作曲家であるカプースチンの訃報があった。かてぃんさんは「いつかお会いしたかった」と哀悼の意をTwitterでつぶやいていた。会員限定の配信でもそのことについて触れていて、同じ時代に、同じ道で生きていても繋がらない縁があるのだと思った。もちろん会ったことがなくっても、その遺志を弾き継いでいけると思うし、尊敬する先人たちの音を繋ぐ彼らを、応援したいと思う。

それでもやっぱり、生きているうちに、生きている演奏家、作曲家が繋がってほしい。2020年現在、61歳のポゴレリチ氏にも、角野隼斗の音が届くといいなぁ。

ポゴレリチの公式サイトでソナタ2番が試聴(Spotify)できるみたいなので貼っとく! これがデビューアルバム。

あと『葬送行進曲』ね。あの有名なワンフレーズしか知らなかったりすると、葬式クサい暗い縁起悪い曲って思うこともあるかもしれないけど、どこか清々しく見送るような音でもあって、私はとても好き。私の知ってるお葬式、雨の日が多くて。でもいつも最後には晴れるの。その明るい青空にとても元気づけられる。そんな音がするから。

そのイメージとは違うんだけど、アウデーエワのもすごく個性的で興味深いから貼っとく!

最後に、ソナタないから直近の角野ショパンでスケルツォ貼っとく!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

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