16.07.2024 - 17.07 ゲッティンゲン訪問記 1.

 ゲッティンゲン大学の藻類カルチャーコレクションを訪問するため、ゲッティンゲンに2日間滞在した。ゲッティンゲンは、ドイツのほぼ中央に位置するニーダーザクセン州の都市である。歴史のあるゲッティンゲン大学を中心に街が栄え、今でも教育、研究都市として名高い。その街の性質上、テュービンゲンともよく似ており、街の規模は両者ともほぼ同じくらいだが、ゲッティンゲンの方が人口は多いようだ。テュービンゲンからゲッティンゲンに向かうには、シュトゥットガルトまでローカル線で出てからICEに乗り換えるのが最も簡単である。シュトゥットガルトからゲッティンゲンは、フランクフルトを経由しながら、4時間ほどの道のりである。350 km ほどの距離で、新幹線であれば東京〜名古屋程度だが、複数の駅に停車し、専用の線路を走るわけでもないのでなかなかに時間がかかる。日本は細長いがドイツはだだっ広いという印象で、近そうに見える所に行くのにもそこそこ時間がかかるのだ。

 16日火曜日、昼にテュービンゲンを出発。出発前からお腹が空いたので、テュービンゲン駅のパン屋でサンドイッチと Apfelschorle を購入して車内で腹ごしらえする。早めに動いていたので、シュトゥットガルトで45分ほど ICE2546 の到着を待つ。珍しくほぼ定刻通りに発車したので、反動で何か良くないことが起きるのではないかと不安になる。列車から見える景色はのどかで、どこまでも丘と畑が続いているのではないかと錯覚する。ICE はその後も遅れることはなく、なんと定刻でゲッティンゲンに到着。駅名標には "Stadt, die Wissen schafft(知識を創造する街)"と書いてある。 ゲッティンゲンの駅舎は平たく、造りも歴史を感じさせた。

 駅前のロータリーを渡り、中心街の方へ歩いていくと、今日泊まる Hotel Stadt Hannover が見えてきた。3階建てで建物自体はリノベーションされて綺麗な外見になってはいるが、中心街の入り口に鎮座するその佇まいが、長くこの地で営業してきた雰囲気を感じさせる。中に入ってみると、アンティーク調の家具や椅子が並べられており、お人形さんのお家のように可愛らしかった。今回は一泊 95 € 。宿泊料を支払いチェックインを済ませて、階段を上がって部屋へと向かった。
 部屋のドアの前に立つと、ドアには取っ手が一つ付いているだけで、鍵穴が見当たらない。鍵は渡されたので、どこかに挿すはずだが、全く見当がつかない。取っ手を引いてみても、少しドアは動くが、軽く引いただけではダメそうだ。力を入れすぎてドアを壊してしまうのではないかと心配になるも、意を決して拳にグッと力を込め、思いっきり取っ手を引っ張ると、ドアは手前に開き、なんと中からもう1枚ドアが現れた。新たな木製のドアの取手には鍵穴がついており、そこに鍵を差し込むとようやく部屋の中に入ることが出来た。由緒正しきホテルのドアは二重なことがあるという学びを得た。
 ヨーロッパでユースホステルにばかり泊まってきた身には、豪華すぎる部屋が広がっていた。窓からは陽光がたっぷりと差し込み、部屋にはウェルカムドリンクの炭酸水やふかふかのソファも一組置いてある。浴室も完璧に磨き上げられており、快適すぎる空間であった。テレビをつけると、ちょうどツールドフランスのゴールシーン手前を中継していたので、それを観てから夕食に向かった。

 18時にカルチャーコレクションでポスドクとして働くご夫婦とホテルの前で合流し、夕飯を食べに中心街に繰り出す。ゲッティンゲンの名物料理はあるか尋ねてみると、特にはなく、典型的なドイツ料理が食べられるだけという。ドイツはどこもこんな感じなのかもしれない。各地で異なる名産品を楽しめる日本の食文化が豊かすぎるだけなのかもしれない。とりあえず、中心街のほぼ真ん中に位置するドイツ料理屋に入ることにした。
 夕飯時で混んではいたが、運良く店内のテーブル席を確保。ビールとハワイ風(?)シュニッツェルを注文し、乾杯。研究の話、僕のボスのことを昔からよく知っている話、ドイツ生活の話などに花が咲く。人類皆友達ではないかと思うほど知り合い同士が繋がっており、悪いことはできないなぁと改めて感じる。運ばれてきたシュニッツェルはとんでもない大きさで、ゆうに 30 cm はあろう横幅で、大量のチーズとジャム(ハワイ風はジャムで甘い味付けがされているらしい。酢豚のパイナップルのような感じ)が乗っている。付け合わせに小皿のサラダと、マッシュポテトを揚げたものが10個も付いていて、正直食べ切れる気がしない。味は悪くないのだが、3切れほど食べると飽きてくる。なんとか7割ほど食べるももう食べられないとアピールすると、ドイツ人でも食べきれないから大丈夫と言うので笑ってしまう。店員に伝えると、持ち帰り用に包んでくれるらしいので頼んでみるが、15分ほど待っても戻ってこない。繁盛店なので、忘れさられてしまったようだ。お店を後にし、中心街を散歩してみることにする。

 大学が試験期間だからか、人影はまばらで歩きやすい。ご夫婦の旦那さんはゲッティンゲンで生まれ育ち、ゲッティンゲン大学で学位を取ったようなので、この街は彼の庭のようだ。ヴェーエンダー通りを南に進むと、市庁舎のある広場に出る。そこには噴水が一つあり、噴水の中央にはガチョウと一人の少女の像が立っていた。この像は非常に由緒正しき像で、ゲッティンゲン大学の博士学生がめでたく学位を取ると、自作の車を指導教員に引かせてこの広場までやってきて、少女の像にキスをするならわしがあるのだとか。旦那さんも若かりし頃に実際にやったらしく、当時のことを懐かしそうに思い出していた。
 それから大学関連の建物のある広場を横切り、かつて城壁が築かれていた遊歩道を歩きながら、中心街から少し北に位置する大学キャンパスへと歩を進めた。キャンパス自体はそこまで広くはないが、街のさらに北部にも別のキャンパスがあるらしい。特に目立つのは巨大な図書館と食堂で、相当な数の学生が在籍していることが感じられる。図書館の蔵書数はドイツ一を誇るようで、これだけ大きければそれも納得である。

 ゲッティンゲンは街全体にゆったりとした時間が流れていて、大学を中心に街づくりが行われている印象を受ける。古くから、学問に励む学徒たちを街の住人たちが温かく見守ってきたに違いない。ここで学べる学生は幸せだろうなと思う。一通りキャンパスを見て回り、明日の飲み物などを軽くREWEで買い物し、宿へと戻る。ご夫婦は家がそう遠くないと言うので、わざわざ宿の入口までお見送りしてくれた。明日は実際にカルチャーコレクションに突撃する。

多くの博士学生がこの少女の像にキスをしてきたという

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