素晴らしい日本酒に出逢えたって話と、小説の原稿について。
久しぶりに締切に追われていた。
佳境に入ると私生活が疎かになる。他のことに意識がいかない。文字通り四六時中、夢のなかでも考えていたりする。天才ぶっているわけではなく、ただ余裕がないだけ。頭のキャパシティを全振りしないと小説なんて難しいもの書けるわけがない。少なくとも僕にとっては。
いきなり話が飛びます。
先日のコジンシュギに、レアな日本酒を持っていった。
東京では手に入らない、というか全国で一店舗の酒屋でしか取り扱っていない。酒蔵がその酒屋のためだけに醸している酒。わけがわからないがすごいことだ。
今から8年前。旅行先の宮城県・松島で立ち寄った酒屋でのこと。
日本酒に興味を持ちかけていた僕は、地酒を求めて「辛口が好きなんですけど~」と店員さんにおススメを尋ねた。何となく「淡麗辛口こそ旨い日本酒」と思い込んでいた。
すると店員さんが、すべてを見透かしたような目で、
「辛口だけが日本酒じゃないって知ってほしい」
と言って、一本の日本酒を試飲させてくれました。
それが、このお酒だった。衝撃が走った。なんという深い味わい。火入れをしない生原酒の荒ぶるエネルギー、ふくよかな米の味、甘さと苦みが綯い交ぜになった喉ごし、とにかくすべてが初めての経験で、こんなに旨い酒が世の中にあるのかというほどに多幸感が押し寄せる。
すぐに買い求めた。まだ旅先なのに、その夜に開栓した。幸せだった。
時を経て、再び手に入った。この体験を味わってほしくてコジンシュギに持っていった。飲んだ人が口をそろえて「すごい」と言った。嬉しかった。何か特別なものを分かち合えた気がした。
この酒に出逢えて以来、実に数百もの銘柄を飲んだ。飲み過ぎるほどに飲んだ。素晴らしい日本酒にたくさん巡り合えた。だけど同率トップ3は変わらない。
富山の勝駒。
奈良の風の森。
そして宮城の、これ。
いまも飲みながら書いている。香りだけで当時の想いがよみがえる。うまくいかなくて悩んでいた日々。それでも好きなことを表現していた日々。とにかく全力だった日々。
まだ原稿は終わりません。でも頑張ります。
文学賞を持ってなくて、ベストセラーもまだありません。作家として誇れるものは何もない。デビューしてから毎日が悔しいことばかり。なんでこんな苦しい道を選んだのか、自問自答を繰り返している。
それでもめちゃくちゃ面白いもの書いてやるぞという気概だけは捨てていない。ちっぽけな一つの人生かけてやってるんだ。面白いと言ってくれるあなたのために一生懸命やるんだ。死ぬまで書いてやるんだ。その気持ちを胸に、一文字ずつ進んでいるんだと、僕は信じる。
次回作に、どうぞご期待ください。
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