中根すあまの脳みその29

「なかね…あすま?」
「なかね…す…す、あ、ま?」

初めてわたしの名前を読む人の典型的なパターンである。
わたしはこの名前で活動をし始めてから、「中根すあま」という名前が、案外読みにくいということを知った。


みなさんは和菓子の「すあま」をご存知だろうか。
「もちろん知っている!」という人もいれば、「なにそれ全然知らない!」という人もいて、そしてそれが、出身地や住んでいる地域関係ないところがなかなか興味深い。
知っている人は「そんなの、知らないわけないじゃん!」というノリだし、知らない人は「え、なにそれ初めて聞いた!」というノリで、ここまで認知度に極端な差がある物というのはなかなか珍しいのではないかなと思う。
すあまの存在を全く知らないという人からすれば、「中根すあま」という名前はたしかに意味がわからないと思う。
「すあま」という、よくわからないひらがなの羅列を一発ですらっと読むというのはたしかに難しそうだ。ひらがなが続くと読みにくいからね。
わたしの芸名が、初対面の人に間違われやすいのにはきっとそういった要因があるのだろう。
最近は特に「あすま」と読まれることが多い。ただ、「あすま」は個人的に全然かわいくないので、全国民が「中根」と「すあま」をセットで覚えてくれるように、知名度アップに努めたいと思う。


わたしとすあまのいちばん最初の出会いはおそらく小学校低学年くらいの頃。家族と行ったスーパーで「和菓子バイキング」なるものが催されていた。それは、ひとくちサイズの様々な種類の和菓子がバイキング形式で売られる、というようなもので、くいしんぼうな中根家は、みんなでひとつずつ、好きな物を買おうということになった。そのときわたしは、桜もちを選んだ。母親は確か柏もちを選んでいたと思う。父親が選んだのが、すあまだった。
当時のわたしはすあまがどのようなものか知らなかったので、その謎のかまぼこのような風貌になんの魅力も感じなかったのだが、家に帰って、いざ和菓子を食べようというときに、父親が、「すあまがいちばん大きいし、食べごたえがあるんだよねー」と言った。たしかに、中にあんこが入っている桜もちや、柏もちより、中身が入っていないすあまのほうがいくらか大きかった(コストの問題?)。ふたくち半くらいで食べ終えてしまった桜もちを名残惜しく思っていると、横で得意げにすあまを食べている父親の顔が目に入った。そのときにわたしは、次こそは絶対にすあまを食べてやる、と心に誓ったのだ。
その後はじめてすあまを食べたとき、その上品な甘さの虜になった。主張しすぎない、その奥ゆかしい甘さ、弾力。そして見た目のかわいらしさ。「これはいいお菓子だ」とまだ幼いわたしは思ったのである。


わたしは、幼い頃からなんとなく人の前に立つ仕事に就きたいなあと考えていて、それはとても漠然とした夢だったのだが、そうじゃないと有り得ないと思うようなきっぱりとした気持ちもあって、とにかくずっとそういう世界に憧れている部分があった。
それは、バンドマンだったり、声優だったり、役者だったり、飽きっぽいわたしの気持ちの移ろいに合わせてちょこちょこと変わっていたのだが、あるひとつの要素に関しては、飽きずにずっと変わらなかった。
それが、芸名だった。
バンドマンになりたいときも、声優になりたいときも、役者になりたいとにも、思い描くわたしの姿はいつも「中根すあま」だった。
それは芸人をやっている今も。

もし、なにかの活動をするにあたって芸名を決めるとしたら?
小学校高学年くらいの頃にそんなことを考えて、「すあまがいい!」と思ってから、わたしはずっと「中根すあま」だ。


和菓子のすあまは漢字で、「素甘」と書く。
素材の「素」に「甘」い。「そのままでも魅力的だよ」って感じがして好きだ。
ピンク色で、かわいらしい見た目をしているが、そのピンク色は「コチニール色素」という、カイガラムシという昆虫が原料の、あまりよろしくない着色料でつけられている。
かわいい見た目して、実は毒々しいところも好きだ。
定番のかまぼこ型だけでなく、小さくてまんまるの形のもの、ピンクと白の2色使いのものなど、実はたくさんの種類がある。
型にはまらず、様々な姿に変身できるところも好きだ。
「すあま」と発音した時の、なんとも愛嬌のある響きや、ひらがな3文字の丸みを帯びたフォルムも好きだ。
わたしはわたしがつけた名前に、結構満足している。


最近は本名で呼ばれることよりも芸名で呼ばれることのほうが多かったり、「中根すあま」として知り合った人が増えてきたりして、「ああ、わたし、すあまなんだなあ」としみじみ思ったりする。
和菓子のすあまを食べたことがない方には、ぜひ一度食べてみてほしい。
もし、すあまが気に入ったら、芸人の中根すあまのライブにも来てみてほしい。
わたしとすあまは、一蓮托生なのだからね。


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