中根すあまの脳みその54
蝉。
脳がいかれてしまいそうな程の爆音の叫びは人々の体感温度を上昇させ、夏の訪れを実感させる。木にへばりついた抜け殻は、何とも言えない哀愁と共に、そう長くはない季節の儚さを感じさせる。近づくと猛烈な勢いで騒ぎだす偽物の死骸は、生と死をなんとなく他人事に捉えがちな人間という生き物に、生きること、死ぬこととは何たるかを物語る。
彼らの存在感は凄まじい。その小さな体からは想像できないほどの大声で叫び、羽を目一杯に震わせて飛ぶ。ひたむきに生きて、ひたむきに死んでゆく。7日間という短い命を生きる彼らは、その一瞬一瞬を燃やし続けているのだ。
蝉と聞けば夏。夏と聞けば蝉。
多くの日本人がそう認識しているといっても過言ではないだろう。それくらい「夏」と「蝉」には密接な関係がある。では、それはなぜなのだろうか。
今回は、蝉としての人生1678回目。蝉として産まれ、蝉として死んでゆくことを自ら望んで繰り返している、ベテラン蝉のSEMI☆ZOUさんにインタビューをさせていただいた。
蝉にとって、夏とはどのような季節なのか。そして、蝉として生きることの喜びとは何なのか。蝉界のスーパースター、SEMI☆ZOUさんにじっくりと語っていただいた。
※尚、今回はインタビューをスムーズに進めるため、SEMI☆ZOUさんには予め、こんにゃ
く型翻訳機を食していただいている。
―本日はよろしくお願いします。
おう、よろしく。昨日、羽化したんだ。これで1678回目かな。ちょいとまだヨロヨロしているが、問題はない。よろしく頼むよ。
―初歩的な質問になるのですが、なぜ毎回蝉に転生することを選ばれるのですか?
答えはひとつ、風流だからだ。蝉という存在がな。
蝉はたった7日間しか生きられない。飛べるようになってから、あっという間に死んじまう。だからこそ、命を燃やすんだ。あと少ししか生きられない、その事実が俺を熱くさせる。こんな生き方、蝉にしかできないだろう?
―蝉として生きることの最大の魅力は、どんなところですか?
夏という季節の、一部になれることだな。さっきも言ったが、俺たちには一分一秒が重要なんだ。だから、全身に力をいれて叫び続ける。どうだ、熱いだろう?
俺たちの暑苦しい生き方と、夏という季節が、これがもうピッタリ相性がよくてね。俺たちの叫ぶ声、羽のこすれる音が、夏を盛り上げるんだ。暑い夏をもっともっとアツくする。
それがね、バッチバチに伝わるんだよ。あ、俺、今、この国の夏を盛り上げてるなってね。
夏という季節を引き立てる役者になる。それが俺たち蝉の使命でもあるんだ。
―なるほど。だから、「夏」と「蝉」は切っても切り離せない関係なんですね。
おうよ。きっかけは、たまたま羽化する季節が夏だったってだけなんだけどよ、俺たち蝉と夏は、どうにも縁が深くってね。
夏っていう季節はなんていうか、あっという間だろ?すこぶる楽しいのに一瞬で終わってしまう。だから、夏にはこう、儚くて切ないイメージがある。
そして、蝉の命もあっという間だ。すこぶる元気だが一瞬で終わってしまう。そう、夏と同じ切なさがあるんだよ。そんなところもまた、俺たちと夏を仲良しにしてるんだろうな。
―たしかに、木にしがみついて鳴いている蝉を見つけるとなんとなく切なくなります。
短いからこそ、フルパワーというか、そういうところが似ていますね。
まさにそうだ。夏は他の季節と比べて、印象的な出来事が多いだろう。花火のクライマックスみたいに、怒涛の勢いで楽しいことがやってくる。人間、楽しい時間は短く感じてしまう悲しい生き物だ。それを経験上知ってるからこそ、夏は儚く、切ないんだよな。
蝉の命が7日間だということは、だいたいの人間が知っている。だから、終わりを想像して悲しくなるんだ。夏に伴う切なさと、蝉に伴う切なさは、同じ種類なんだよ。
―とても納得しました。
それは良かった(笑)。
蝉になる前、俺は人間だった。代わり映えしない日々に、心が冷え切っちまってたよ。
だからこそ、蝉の生き様に惹かれた。
人間たちには、俺ら蝉の必死な姿を見て、熱い心を取り戻してほしいと思ってるよ。そして、夏を楽しみ、悲しんでほしい。俺らと一緒にな。
8月も終わりに近づいている。
蝉の声に思いを馳せながら、夏を思い切り感じる、今日この頃である。
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