中根すあまの脳みその146
あなたの、いちばん好きな食べ物はなんだろうか。
世の中に存在するすべての食べ物の中で、たったひとつ、選ぶとしたら。
人と関わる上で、つい気になってしまう問いである。なぜならこの問いには、その人の食に対する認識、食にかける思いが伺い知れるからである。
瞬時に答えられなかった場合。
その人は今まで、己の舌が最も魅力的に感じ、食の喜びに打ち震える"味"とは、果たしてどの食材、料理の持つものなのか、じっくりと考えたことがないということだ。
簡単な問いのようでいて、実は、ひとつの解を導き出すことは極めて難しい。そして、その作業は、己の本質を知るためのものであるといっても過言ではない。
好きな味に理由などない。己がなぜその味に惹かれるのか、的確に表現出来る者など存在しないのだ。"味"の正体がなんなのか、説明することすらできないのに。そう、食への思いというものは紛れもなく、人間の本能なのだ。従って、いちばん好きな食べ物を知れば、その人の中に眠る、本能の部分に触れることが出来るのだ。
私のこの問いへの答えは、「かつ丼」である。何年もかけて丁寧に見極め、その末に辿り着いた、最適解である。かつ丼を前にすると、どうにも抗えない、問答無用の引力のようなものを感じる。蕎麦屋に行っても、とんかつ屋にいっても、結局私は、かつ丼の魅力に打ち勝つことが出来ない。
先日、友人にこの問いを投げかけてみた。
以前から、食に対する熱意の片鱗を度々みせてくる友人である。
昼休み後の授業を一緒に受けたとき、売店で買ったかりんとうとミニドーナツの袋をこちらに向けてきてくれたことがあった。愛嬌に満ちていてながら、どこか哀愁漂う素敵なチョイスと、授業が終わるまでずっと袋をこちらに向けたままにしてくれたその心意気に私は大層感心した。
その日も、昼休み後の授業。
彼女はドトールコーヒーの紙袋を手に、教室に現れた。中身は抹茶ラテ。たまらず私は例の問いを投げかける。
「おすし」と、彼女は即答した。
そして「すし飯がすきだから」と、即座に付け足した。海鮮丼は普通のご飯だから違う。ちらし寿司はすし飯だから好き。湯水の如く、寿司への思いが溢れ出してくる様に私は軽い感動を覚える。
それならばとこちらも体制を整え、2問目を繰り出す。
その次に好きな食べ物は?
ちなみに、私は「餃子」である。
"包む"という行為で食材の旨味を閉じ込める、発想そのものが好きだ。また、形も魅力的だ。狂おしいほどに愛らしい。それを友人に伝えると彼女は、「あんまんもかわいい」と言う。私は首を縦に1億回振った。
そして、2つめの問いに対する彼女の答えは、ドトールコーヒーのミラノサンド。紙袋と抹茶ラテの伏線を鮮やかに回収してきた。
確かに、ミラノサンドは旨い。時間潰しにふらっと入ったドトールでも、ついつい口を滑らせて注文してしまう。
彼女は言う。ドトールコーヒーのミラノサンドは3種類。Aがハム、Bがサーモンやエビなどの海鮮系、Cがチキンなどの肉系であること。そして、その中で自分はいつも、Bを選んでしまうこと。今日はAにしよう、Cにしようと、何度決意したことか。それでも私はどうしても、Bを選んでしまうのだ、と。
彼女は抗えないのだ、Bの魅力に。
そしてそれは、同じ海鮮系であるという点で、ナンバーワンである寿司ともつながりが見える。非の打ち所のない返答であった。
私は彼女に提案した。
「今度私がA頼むから、半分こしようよ」と。
すると彼女は言う。
「半分…にはしたくないかも」
私はなんだか、彼女の本質の部分に近づけたような気がする。
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