中根すあまの脳みその242

脚本が完成しない。
公演と公演の期間を狭めたくて、気が緩まぬよう意識していたここ3ヶ月だが、一方で様々な要因により生き方も環境もガラッと変わってしまい、それに適応することに長い時間を要してしまった。
この時間が必要なものだったと、笑顔で言い切る自分が見たいと心底思う。

予定のない日は休むことに必死になってしまう。朝から、睡眠、睡眠、食事、睡眠、睡眠、飲酒、睡眠、といったこの世の終わりのような時間割を貫いている私だから、その日に台詞を書き綴ることはまず無理だ。罪悪感はもちろんある。もうそれさえ捨ててしまえば楽なのにと思う。そうすると、進められるのは朝から晩まで働く日の束の間の休憩時間だけだ。
40分間と20分間。
細かく区切られたスケジュールの中で与えられる、たったそれだけの自由。その中でいくつの言葉が生まれるか、それが勝負である。

脚本を書くためだけに使っているごてごてでぼろぼろのパソコンを毎日リュックに入れて運ぶ。いざ始めようと電源ボタンを押すと、うんともすんとも言わない、何度も押してようやく気づく、ああ充電がない、そんな悲劇を何度も繰り返している私は、嵩張ることこの上ない、充電用のコードを差した上で持ち運ぶことを心に決めている。重い。まるで私の、想いのように。しかし、やる気と共に意気揚々と持ち運ぶそれは意外と、重さを感じなかったりする。そもそも私が、リュックに単行本を10冊近く入れていても重さをあまり感じない特異体質だから、というのもあるかもしれないが。

ある日、いつものようにリュックにパソコンを入れて駅を歩いていた。改札を通ろうと財布を取り出す。
ない。
がさごそと中を探る。
昨日の鞄から今日の鞄に移し替えたときの記憶を辿る。
背中をつたう嫌な汗。
少しの可能性を信じて、道の端に寄り、本腰を入れて中を探る。
…ないですね。
つい口をついて出たその一言は、絶望に満ちていた。 

パソコンと、その充電用のコードまで持っているのに、最も重要で、かつ、日常的な財布がないなんて、滑稽だ。滑稽すぎる。
テストで、誰も解けない意地悪な応用問題は解けているのに、名前が書いていないようなものだ。
こう言うことがよくあるが、
きっともう、私はそういう人間なんだろう。
可愛いでしょ、と言い張って生きていこうと思う。
あと、財布、首からかけよう。

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