中根すあまの脳みその53
今こそ全人類に問いかけたい。
「すいかっておいしい?」と。
水のペットボトルと汗拭きタオルがなければ生きてゆけない、まさに夏、といった今日この頃。ときめき半分、憎さ半分、という気持ちでやり過ごす日々である。
「夏と言えば?」
そういった類の話題になると、必ず5番目以内にはその名が呼ばれるであろう“あの”果物。
深い緑に、不気味な黒の稲妻模様。球体。目が覚めるような赤を湛えた中身。
考えれば考えるほどへんちくりんな姿はそう、すいかだ。
全国のすいかloverの皆々様には大変申し訳ないのだが、私はすいかを食べて美味しいと思ったことがない。あれを美味しいと思う心が分からない。
冷静に考えてみてほしい。冷静に、頭と舌の先とを連動させて、あのへんちくりん果物の味を思い出してみてほしい。
すかすかでへにゃへにゃ、なんともやる気のない食感。甘い、のか?しょっぱい、のか?首をかしげたくなるようなどっちつかずな態度。そして何より、食べられることを拒否しているかのような、邪魔で不親切な種。どっかりとその場に居座っている、黒光りした、種。
彼らに食べられる気はあるのだろうか。関心意欲態度Dマイナスだ。
しかし、なぜなのかは分からないが、人間は彼らに対してものすごく丁寧に、手厚く対応する。VIP待遇だ。
夏休み。おばあちゃんち。照り付ける日差し。蝉の声、蝉の声。外で遊びまわる私。おやつの時間になり、汗だくのまま帰る。扉を開けると、体内をツンと通り抜けるクーラーの冷気。
おばあちゃんが運んでくる涼しげなガラスの器。透けて映る緑と赤。
近所の夏祭り。朝から手伝う屋台の準備。かつぐこども神輿。汗でべたべたの体。近所のおじさんが抱える大きな緑色の球。手拭いで無理やり目隠しされ、やがて聞こえるのはみんなの声。力いっぱい振り落とす太い木の枝。目隠しを外すと、視界に広がる透き通る赤。
仲間と河原でバーベキュー。気になるあの子は遠くで笑っている。炭の匂い。焦げた肉。とうもろこし。味の薄い焼きそば。こちらに伸びる白い腕。差し出される赤い三角。「塩かけると甘いんだって」そういって笑うあの子。
絶対うまい。こんなもん絶対うまい。
雰囲気100点、シチュエーション100点。
すいかを食べる瞬間、その場に流れる空気は「夏」以外の何物でもなく、へんちくりんなその姿はもはや輝きでしかなく。
これ以上ないくらいに恵まれた環境、「おいしい」以外ありえない状況。
ときめきに胸を高鳴らせながら齧る、透き通った赤色の果肉。
期待値はメモリを振り切っている。ゆっくりと咀嚼し、その味を確かめる。
うま!!!!!!!!!!!! …いのか?
おいし!!!!!!!!!!! …いのか?
正直かわいそうだと思う。
だって彼らは別に、まずいわけではない。それなのに、人々が彼らを特別扱いしすぎるせいで、なんとなく期待外れな感じになってしまう。
そして、夏という季節はあまりにも魅力的だ。夏の思い出とともに登場する彼らはどうしても輝きすぎていて、本来の実力と釣り合わない感じになっている。夏の日差しの輝きによって彼らは、“盛れ”すぎているのだ。
その効果はプリクラ並みだ。
おいしいはずだった。おいしいと思いたかった。
毎年すいかを食べるたびに、切ないような、腹立たしいような、もどかしいような、そんな気持ちになる。
今年のすいかはおいしいだろうか。今年こそ、おいしいだろうか。
答えは分かっているのに今年もまた、すいかに幻想を抱いてしまうのだろう。
夏のせい、すべては夏のせいなのだ。
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