中根すあまの脳みその95

雨で前髪が真っ直ぐになると心が落ち着かない。
今日は朝から強めの雨が降っていて、防御力皆無の私の前髪は、家を出てわずか1秒で白旗をあげてしまった。
今日はヘアスプレーで前髪を固めることはしなかった。今までは、あらかじめ天気が悪いと分かっている時には、まるで”壁”のようにがっちがちに前髪を固めてから家を出ていたのだが、いくら頑丈に固定しても私の前髪が雨や湿気に勝つことはないという悲しい事実を、嫌というほど思い知らされたので無駄な抵抗はやめることにした。それに、中途半端にスプレーが残ると、髪の毛がぎしぎしになってさらに厄介なことになる。はじめから負けを認めた方が楽なのだ。

それにしてもこの絶望はなんだろう。
前髪がしんなりすると、私の心もしんなりする。1日を頑張ろうと思っていた気力の全てが、雨に流されてしまったような気持ちだ。
たかが前髪がうまいこといっていないというだけで、まるで人権が剥奪されたかのように、哀れな人間になる。
こんなに辛いと分かっているのに、人間というのは呑気な生き物で、この気持ちをすぐに忘れてしまう。一体何度、雨の日は携帯用のヘアアイロンを持って行こう、と反省したことか。出かける前にその思考に思い至っても、まあ今日は平気っしょ、と馬鹿みたいに舐めたことを思ってしまう。もう何回も、何十回も、何百回も同じことで悔やみ、涙をのんでいる。前髪が真っ直ぐになったまま過ごす1日なんて、もう無いのと同じなのだ。嗚呼、私はまた、1日をゴミ箱に捨ててしまった。

沈んだ気持ちで教室へ行くと、そこには同じく沈んだ雰囲気を纏った友人がいた。事情を聞くと、雨で髪の毛が広がってしまったらしい。たしかに、いつもより若干髪の毛がボリューミーな気がする。私は、何も言わずに、しょぼくれた友人の肩を叩く。
雨と戦っているのが私だけではないということがわかり、少しだけ心強い気持ちになった。 雨に負けない、強い心を持っていたい。


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