中根すあまの脳みその206

まだ小学校にも通っていなかった頃、私が憧れていたのは、花屋でも、アイドルでも、プリティでキュアキュアな女戦士でもなく、忍者、であった。
なにかきっかけがあったのだろうか。
さすがに思い出せないが、私の幼少期には忍者に憧れていた期間が確かに存在した。
今思うと、現代を生きていて忍者について知るタイミングというのはあまりないような気がするのだが、そこは、じゃぱにーずとらでぃしょなるひーろー、忍者。何かしらの機会が用意されていたのだろう。

忍者走りなるものが流行った。
私が知っているのは2種類あって、ひとつは、両手を後ろに広げて走るというもの。もうひとつは、片手を顔の前に、片手を腰あたりに持っていった状態で走るというもの。伝わっているだろうか。実際にやって見せられないのがなんとも歯がゆい。想像して見てほしい。
初めに知ったのは、ひとつめの走り方だった。しかし、幼心にこれのどこが”忍者”なのかという疑念を持っていた私は、あまり進んでこの走り方をしなかった。それどころか、忍者だ!とはしゃぎながら走っている同級生たちを、若干見下していた記憶がある。嫌な子どもだ。
そんなときに、幼稚園の園庭で年上の子たちが第二の忍者走りをしているのを目撃した。衝撃が走った。これは紛れもなく”忍者”だ。そして、なにより超カッコいい。
みんなに伝えなくては。
慌てて同級生たちの元に駆け寄り実演を交えて説明したが、いまいち響かず納得のいかない気持ちになったのを覚えている。

なぜ急に、忍者に憧れていたあの頃を思い返すに至ったのか。
それは”子ども忍者呼吸教室”の前を通りかかったからだ。
耳を(この場合は目を、か)疑うだろうが、本当に存在するのだ”子ども忍者呼吸教室”が。

小学生になって、歯の矯正を始めた。
しかし、この頃から強靭な鋼の意思を持つ私は、矯正器具がもたらす息苦しさに耐えられず、矯正の継続を拒否した。それっきりである。その妙な教室は、その時に通っていた歯科クリニックの隣に唐突に出現したのだ、
おそらくクリニックの院長が始めたものだろう。朧げな記憶しかないが、どうにもつかみどころのない、不思議な人だった。
彼であれば”子ども忍者呼吸教室”を始めてもおかしくはない。…という事にしておこう。

あまりのインパクトに、前を通りかかるたびになにかおかしな世界にきてしまったのかと疑うが、ほっぺを何回つねってみても、ちゃんと痛い。現実だ。
だいたい、忍者呼吸ってなんなんだよ。
その存在を前提に話を進めないでくれよ。

とどのつまり、私は忍者呼吸を習いたい。
折り紙で手裏剣をつくって、それを横向きに投げるだけで胸が高なったあの頃の気持ちを取り戻したい。
院長にはぜひ、”大人忍者呼吸教室”も開講してほしいと切に願っている。

それにしても、忍者呼吸ってなんなんだろう。

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