中根すあまの脳みその230

ワイヤレスのイヤホンなど使いこなせないということを、もうさすがに分かりきっている私は、その便利なようで不便な文明の利器の存在を無視し、ため息が出るほどにシンプルで飾り気のない、携帯を買った時についてくる付属の白いイヤホンを何度も買い替えて使っている。
ワイヤレスのイヤホンはまず、充電するのを忘れる。
そして、酔っ払って行方が分からなくなる。
何故かいつも片方ずつ、行方をくらますのだ。
分かっている。
己が悪いのであってワイヤレスイヤホン自体に罪はない。しかし、持ち主との相性というのも、重要な要素だろう。

しかしまあ、イヤホンのコードというのはよく絡まる。
綺麗にしまったつもりでも、数時間後に取り出すと、まるで、地獄の底から這い出た罪人の様相だ。
地獄の底から這い出た罪人のことを、私は深く知らないのだが、たぶんこんな感じだろう。
仕方がないので絡まりを解く。
解く、解く、解く、
しかし、実際は解くつもりで絡めている。
絡める、絡める、絡める、
埒が明かないとはこのことで。
仕方がないので、一度、生活するのをやめて、コードの絡まりを解くことに全ての意識を集中させる。
歩く足を止めて。
ページを追う目を止めて。
脳内を駆け巡る思考を止めて。

その時の己を顧みたとき、
こんなにも間抜けな人間の姿があるかと思う。
全てをやめてまで、解きたいものなのだろうか、イヤホンのコードというのは。
その難解で複雑な絡まりに指を迷わせていくうちに、徐々に、この行為の目的が忘れ去られてゆくのを感じる。
指が白い線に吸い込まれていく。それだけの、時間。

結論、
イヤホンのコードの絡まりを解く時、人間は無力だ。
とても無防備だ。
その隙に脇腹を刺されてもきっと気づかない。

ワイヤレスイヤホンを買おう。
もう、酔っ払ってなくしたりしないから。

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