中根すあまの脳みその245

買ったものを両手いっぱい、胸いっぱいに抱えた人間が、コンビニの自動ドアから出てきた。
続いて出てきた人間、リュックを開ける。
そこに、抱えたものたちをひとつひとつ入れてゆく、人間。
なんとも言えぬ愛おしい共同作業であった。
私はうまれてはじめて、1枚3円のビニール袋に感謝した。

ものすごい勢いで横切る、少年。
右から左へサイドステップ。
左から右へはスキップ。
風を切る、少年。
しばらくして、よろよろと彼に続く母親のような女性。
ふたりからは日常の香りがした。

まるでなにかの武器のような立派の木の枝をくわえて歩く、嬉々として歩く、立派な犬。
飼い主がそれを離すように促すが、犬にその意図は伝わらない。犬はいつまでも笑顔で枝をくわえていた。飼い主の呆れた八の字眉が可愛い。可笑しい。

己の人生から目をそらすようにそれらを眺めては、深呼吸をする。
ききたい音楽が分からなくて、両耳に突っ込まれたイヤホンが仕方なく沈黙を貫いている。2000円の有線イヤホンにノイズをキャンセルする機能などあるはずもなく、ただただ無意味に耳を塞いでいるだけだ。
イントロを数秒聞いてスキップをする作業、その末にたどり着いたその曲は、私を違う世界に連れていくほどの効力は持ち合わせておらず、現実と音の狭間で私は反復横跳びをする。
少し肌寒い。
さっきまで、歩くだけで汗ばんでいたのに。
夏になるまでの過程をいくつかスキップしてしまったような日だ。
もう大概夜なのに、まだ空の青に明るさがある。
そういえば春なんてものはあったっけ。
怒涛の勢いで過ぎる日々の中で、季節は極めて曖昧である。
季節に敏感でいたい、などという言葉が、好きな曲の歌詞にあったような気がする。

辛うじて最後まできくことのできたその曲が終わったとき、携帯の画面の左上の小さな数字はぴったりを示していた。
私はふたたび雑踏に目を向ける。
たくさんの足。
さっきの少年が、母親らしき女性と手を繋いで歩いている。今度はちゃんと、右足と左足を交互に出して。
私はそんな彼の代わりにこっそり、こっそり少しだけ、サイドステップで進んだ。

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