中根すあまの脳みその220

先日、友人と駄菓子屋に立ち寄った。
商業ビルの一角に押し込められた駄菓子たちがそれぞれに賑やかな声を上げているようで、それだけで胸が高なった。
意味もなく、カブトムシのおもちゃなんかほしくなっちゃうなーと友人に言うと、彼女は、違うこれはクワガタだ、と指摘する。
私は私なりに、信念を持ってカブトムシだと思っていたので、え?カブトムシだよ?と反論する。往復3回半。
観念して答え合わせをしてやるか、と携帯を開く、その0.5秒前。
それ、クワガタだよ。
聞こえてきたのは子どもの声。
隣で恐竜のフィギュアを物色していた男の子のものだった。
そんなのはもう、絶対にクワガタだ。
私は深く反省して、そっかクワガタか、ありがとうね。そしてごめんなさい。
男の子と友人に頭を下げた。

バイト先の古着屋は頓痴気な店だ。
レトロでお洒落なスーツのセットアップや、ハイブランドのネクタイなんかが1000円以下で買えたりする。
しかし、分かりやすいところには置いていない。ある程度の時間と忍耐を費やして店内を探し回らないと見つからない。まさに、宝探し。
これがまあ、みんな上手なのだ。
客たちはよく、店に8時間も缶詰になっている私ですら知らない、デザインも状態も良い洋服たちをレジへと運んでくるのでいつも、へーそれいいですね、と店員らしからぬ発言をしてしまう。
すると決まってみんな、得意げな、誇らしげな顔をするのだ。
その客もまた、綺麗な白のニットのセーター
(110円)(110円な訳がない)を、探し出してきた。ほう、と感心しながら会計をしようとすると、その女の人は
お願いします、は?
と、目線を下げて声をかける。
小さな女の子がそこにはいた。
小さな、と言ってもどうだろう、小学1年生くらいだろうか。
思えばそのニットは、子どものサイズだった。彼女が着るのだろう。
母親の言葉を受けて、その子どもの口から飛び出したのは、
おねがいちまちゅ。
という、漫画でしか遭遇したことのないような可愛らしいセリフであった。
舌っ足らずではない。明確な意図を持ったその発音に私は、いいキャラしてるな、とまた
感心する。
きっとこの子はいつもこうなのだろう。
母親は呆れながらもそれを愛おしく思って…いる様子ではなかった。
え?なにそれ?普通に喋って?
と娘に投げかける母親。
そこには戸惑いと恥じらいと若干の怒りが見て取れた。
娘のこのキャラ設定に初めて触れたようである。
ねえ?
母親がなぜか、私に同意を求める。
自然に湧き上がってくるおかしさをそのままにして、彼女と2人、笑い合った。
会計を済ませて商品を渡す。
お決まりのように母親が娘に、ひとこと。
ありがとう、は?
これはもう、完全に"フリ"だ。
お笑いが苦手な私にもわかる。
少し経って、下から聞こえる、
ありがとうござまちゅ。
期待を裏切らぬ展開に、また、笑う。
だからなにその話し方?!
と、瞬時にツッコミを入れる母親も踏まえて、彼女たちはいいコンビだと思った。

私は小学生の頃、地域の鼓笛隊に入っていた。この前その、発表会のようなものを見に行った。1年に1度の一世一代の舞台だ。
もう、私が知ってる子なんてひとりもいないのに、小さい子どもが大きな楽器を持って、一生懸命演奏する姿に、冗談抜きに涙が出た。
化粧が崩れる〜〜〜〜〜〜という気持ちで観ていた。
なんだかもう少し、子どもの心のようなきらきらしたものを、大切に生きていこうと、そう思うのだ。

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