中根すあまの脳みその94

今、私が何よりも腹を立てているのは、大切な用事がある日に限って化粧が上手くいかない現象だ。これはどうにも許し難い。私の、日頃の行いが悪い(夜中に卵かけご飯を食べたりする)のを見兼ねた神様が、化粧の邪魔をしているのだろうか。もしそうならば、別の罰に変えてほしい。歩く度に靴紐がほどける、などにしてほしい。
人間にはどうしても見栄をはりたい場面がある。私の場合、写真や動画を撮られるような用があるときには、ある程度自分の顔面に納得がいくようにしたい。でないと、撮られた自分の姿をあとで見た際に、目の形が変だとか、眉毛がなんかちょっと太いとか、ほんの些細なことがとんでもなく気になってしまって、考えすぎ地獄に陥るからだ。諦めがつくまでずーーっとその事ばかりを考えてしまい、他のことが手につかない。自分が世にも醜い顔面をしているような気がして仕方がない。目の形なんて一緒だよと、他人には全く理解されないのだが、自分にとっては極めて重大なことなのである。そんな事態を避けるために、大切な用がある日の朝はいつもより早く起きて(起きられない時もある)、落ち着いてゆっくりと化粧をする。
神様の悪戯などと適当なことを言うのはやめて真剣に原因を考えると、おそらく肩に力が入りすぎているのだろう。自覚がないほどのわずかな緊張が繊細な作業を行う手先に影響しているのだ。しかし、これは自分ではコントロールできない。リラックス効果のある音楽をかけても、ストレッチをしてみても、自分の無意識の範囲で起こっていることというのはどうにも制御出来ないのだ。たとえ全ての手順が無事に終わったとしても、まじまじと鏡を見るとなんだか不自然な顔をしている。なんというか、顔全体が強ばっているような、かたまっているような印象を受けるのだ。納得がいかない。
まったく人生とは難しいぜ。私はやれやれと首を振る。
この逆の現象も非常に腹立たしいものである。どうでもいい日に限って、目を疑うほど上手に化粧ができるのだ。気の抜けた手の動きでお手本のようなアイラインがひけたりする。そんなときは、鏡の中の無駄に整った自分の顔をみて、心が踊る反面、誰にも見せずにこの完璧な化粧を落とさなくてはならない事実に心の底から悲しくなる。
化粧なんていってみりゃギャンブルのようなもので、うまくいくかは天の気まぐれなのだ。それを毎日繰り返している私のような人間はかなりのギャンブラーなのかもしれない。天を味方につけるために、とりあえず深夜の卵かけご飯をやめようと思う。

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