中根すあまの脳みその195

公園で酒を飲んでいた。
その日は劇団の公演で使う(はからずも、公園と公演を同じタイミングで使った。携帯の変換はなぜかいつも、私の意図と違う方の漢字を変換してくる。それが少し、いや、かなり嫌だ)衣装の買い出しに、その衣装の制作をしてくれる友人とともに出かけたのだった。
無事に買い物がすんで、祝杯の一つや二つあげようと腰を落ち着けたのが、その公園であった。

その日は、ちょっとこちらが戸惑ってしまうほどに心地の良い気温で、寒くもなく、暑くもなく、というか、これが言葉の意味そのまま”適温”で間違いないだろうというくらいの、”適温”ぶりだったのだ。
それ故に、公園には先客がいた。
ベンチに横並びに座る、若い男の3人組。
机と椅子がセットになっている贅沢すぎるスペースに陣取る、若い男の4人組。
そのふたつの集団だ。
彼らの足元、机上には空き瓶や空き缶が散乱していて、随分前からそこで飲んでいたことが分かる。

解放的な空間に会話も弾み、こちらの酒もそこそこ進んだ頃、机のほうの男のひとりが、くしゃみを連発し始めた。連発に次ぐ、連発。たとえ、最大級の”適温”であっても、さすがに何時間も居座って冷たい酒を飲んでいたら体も冷えるだろう。はじめはそのくらいに思っていたが、あまりの連発ぶりに、その場にいる全員が少し、訝しげな視線を向ける。アレルギーだろうか。鼻に虫でも入ったのだろうか。思わず友人と顔を見合わせる。
とりあえずことの成り行きを見守ろうと、一旦缶に口をつけたところで聞こえてきたのは、別の人間による別のくしゃみ。
視線を向けると、新たなくしゃみの主は、ベンチに座っていた男たちの中にいた。

まるで、くしゃみのやまびこ。
左側からくしゃみが聞こえ、それに応えるように右側からくしゃみが聞こえる。
いや、くしゃみのやまびこってなんだ。

さすがにこれには、口角が緩んでしまう。
缶を口に運ぶことで誤魔化そうと試みるが、隣の友人の肩もまた、震えていたのであった。
一体何度くしゃみが行き交っただろうか。
さすがにお互いがお互いを意識せざるを得ない状況である。
興味深い展開。
そこで繰り広げられる、酔っ払いたちの感情とは。

答えは、怒り、であった。
机の男が、おい!!!真似すんなよ!!!というようなことを叫んでいる。
酔っ払いの解答としてあまりにも正解だった。
聞けばわかる、ベンチの男のくしゃみもまた、本物なのだ。
それを真似と決めつけてしまうあたりが酔っ払いだ。
酔っ払いには、奇跡は受け入れられないということが分かった。

酔っ払いだ、酔っ払いだ、と冷静ぶって分析じみたことをしていた私もまた、その数時間後にはその男たち以上の酔っ払いに成り下がっていたことは、言うまでもない。

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