中根すあまの脳みその71

私の通っていた高校の購買は、しょぼかった。
一般的な高校の購買がどれくらいの規模でどれくらいの品ぞろえなのかよく知らないが、「店」というものの定義にのっとって考えると、あれはしょぼかったと判断してもいいのではないかと思う。

基本的には、パン、おにぎり、お菓子。それぞれ種類はあまり多くなく、特にお菓子は思わず首をかしげてしまうような変なラインナップだった。
普段スーパーやコンビニで自分で選んで買うような定番のお菓子といったらチップスターくらいで、その他は、なんというか特殊だったのだ。

購買で初めてその存在を知った、謎のコーンスナック「エアリアル」。
このお菓子はメジャーなのだろうか。コンビニやスーパーにも売っているのに、買ったことも注目したことも一切なかった、なんとも不思議なお菓子である。軽い食感でとてもおいしいが、「エアリアル」という名前が口に馴染んでなさすぎて、「エアリアルください」というのがなんかちょっと気恥ずかしかった。
食べると、口の中の水分を徹底的に持っていかれる、チョコチップクッキー。
クッキーというよりはスコーンに近い食べ応え。飲み物を持っていないと、午後の授業に支障をきたすので注意だ。言ってしまえばかなり食べづらいお菓子なのだが、定期的に食べたくなる、よくわからない魅力のあるお菓子だった。
そして、芋けんぴ。
高校生、キラキラしたい盛りの若者には些か渋すぎる、昔ながらの素朴なお菓子だ。そんな芋けんぴが熱いブームを巻き起こすことになるとは、入学したての私には知る由もないのだった。

1年生の初めの頃、例えしょぼくとも、輝いて見えた購買の存在。
4時間目の授業が終わると、みんなが嬉々としておやつの調達に向かった。そんなある日、ある男の子が芋けんぴを買ってきた。私の後ろの席の男の子だ。芋けんぴの美味しさは何となく知っていた私だったが、高校の購買に芋けんぴが売っている(そしてそれを選んで買ってきた)という事実が何だか可笑しくて、ついつい突っ込んでしまう。
「芋けんぴなんて売ってんだ。チョイスが渋いね」
男の子は、なんかきになって~とかなんとか言いながら袋を開ける。そして、黄金色に輝く芋けんぴを口に入れた。その時の彼の表情は忘れられない。驚きに目を見開き、動揺を隠せない様子で、それでも芋けんぴを咀嚼する口、次の1本を掴む手の動きはとめないでいる。
「え、どしたの」
私は思わずそう聞いた。彼はなにか恐ろしい物を見てしまったかのように、こう言った。
「芋けんぴって物凄く、うまいんだな」
ごくり。私は生唾を飲み込む。そして耐え切れずに、購買へ走った。

その日の放課後。なんとなくTwitterを見ていると、あるツイートが目に留まる。
『やばい。芋けんぴにハマった』
後ろの彼のツイートだ。彼はまんまと芋けんぴの魅力にやられてしまったのだ。
そうなってからは早かった。
昼休みのたびに、芋けんぴの魅力に憑りつかれる者、俗にいう「芋けんぴ中毒者」が増えていく。カリっとした食感と、さつまいもの優しい甘さ、表面にかけられた蜜に歯が当たった時の、何とも言えない感触。それらの織りなすハーモニーが、袋を開けてしまったら最後まで食べざるを得ない、強力な中毒性を生み出している。

芋けんぴ中毒の蔓延した1年3組では、
・宿題を友達に見せた時
・掃除当番を代わりにやった時
・何かの賭けに勝った時
・テストの点数争いに勝った時
などに、芋けんぴを要求するようになった。ジュースやアイスではない。芋けんぴでなきゃいけないのだ。
かく言う私も、どっぷり沼に浸かっていた。
昼休み学校で食べるだけでは飽き足らず、帰り道にひとりでコンビニに寄って、家に帰るや否やバッキバキの目で芋けんぴを摂取していた。

あの熱い芋けんぴブームのことを、芋けんぴ中毒から抜け出すことに成功した今でもふと思い出す。夢中で芋けんぴを食らっていたあの頃、芋けんぴさえあれば、未来に不安なんてなかった。
芋けんぴこそが、私の青春だったのかもしれない。

とりあえず今からコンビニに行こうと思う。


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