中根すあまの脳みその213

階段を上ることを拒否した両足はエレベーターの前で立ち止まる。最寄り駅にエスカレーターなどという気の利いたものはない。
エレベーターが来るのを待つという人生で最も空虚な時間を虚空を見つめることでやりすごす。いや、やりすごせているのかは分からない。過ぎ去るのを待っているだけだ。
気だるげに開かれる鉄の扉。
負けじと気だるげに乗り込む。
ぞろぞろと続く足音。
誰かが"閉じる"のボタンを押す。
だが、ドアは閉じない。
このエレベーターは万年反抗期である。
かなりの強さでボタンを押さないと分かってくれないのだ。
ボタンを押す強さで、その人がこの駅を日常的に使っている者かどうか見分けることが出来る。
この人は、違う。
私は反対側に設置された別の"閉じる"ボタンを、分からせてやる、とばかりに力強く押した。
ようやく動き出す鉄の箱。
到着したのは連絡通路。
そう、今どき珍しいレトロなつくりをしたこの駅は、1度連絡通路を経由しないと改札に辿り着かないのだ。
ホームと改札を繋ぐためだけに存在する空間。
まるで幻のようだ。
もはや、ないもののようである。
気だるげに開かれる鉄の扉。
負けじと気だるげに乗り込む。
ぞろぞろと続く足音。
誰かが"閉じる"のボタンを押す。
だが、ドアは閉じない。
このエレベーターは万年反抗期である。
かなりの強さでボタンを押さないと分かってくれないのだ。
ボタンを押す強さで、その人がこの駅を日常的に使っている者かどうか見分けることが出来る。
この人は、違う。
私は反対側に設置された別の"閉じる"ボタンを、分からせてやる、とばかりに力強く押した。
ようやく動き出す鉄の箱。
到着したのは改札前。
やれやれとカバンを探り、

コジロウさん!!!!

あ?
突如響いた女の声。
なんてことなさすぎて、ひとつの感情も浮かべていなかった幽霊のような我が身に突如魂が宿る。
その女の切実な声色は、どうにもドラマチックで、先程まであの退屈な鉄の箱に閉じ込められていた者のものとは思えない。
やむを得ずそちらを見る。
きっと、女とコジロウさんの感動の再会の現場が繰り広げられているはずだ。
0.1秒でつくりあげた感動ストーリーを期待しながら振り返ると、思った通りの感極まった女の顔。
コジロウさんは。
女の目線に己の目線を合わせると、そこには、
如何にも賢そうに、行儀よく座る、柴犬が、いた。
はっはっはっはっ、と息を弾ませている。
コジロウサアン…。
なにかで頭を殴られた。
なんだこれは、そうか、これは、癒し、というやつか。
にまにましながら帰路につく。
両足はいつのまにか元気になっていた。

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