[短編小説]マスクの奥から 4話

堀岡さんがいじめられていた。
そんな衝撃の事実を本人の口から聞くことになるとは思ってもいなかったが、堀岡さんのこの発言から様々な疑問や分かったことがあった。

まず、堀岡さんがこのマスクが透けるという能力を持ち始めたが、れんに助けられて精神が回復したあとだということ。
もしこの能力を得る所以が、堀岡さんが言っているように心が回復したから、ということなのであれば、なぜ僕はこの能力を持ったのか。
れんが亡くなって、鬱にすらなっているかのような状態なのに。

そして、もう一つ。
れんがこの能力で堀岡さんの精神状態に気づいたとするなら、れんは堀岡さんのマスクが透けていなかったということになる。
じゃあなぜれんは、この能力を使ってもマスクが透けない人は何かしら問題がある人だと知っていたのか。

このことについて、堀岡さんと話しあってていたが一向に糸口が見えなかった。
そんな矢先、突然担任の鈴木先生が僕たちの目の前に現れた。

「どうしたんですか。」
堀岡さんが先生に尋ねた。

「ごめんな、実はさっきから話聞いててさ、、、れんのことについて田中と堀岡の二人にも話しておいた方がいいと思って。」

いつも陽気な先生しか見たことがなかったので、こんなにも深刻な顔をしている先生を見るのは初めてだ。

「れんのこと、、?」

「そう、、、」


れんが亡くなる二日前。
れんは学校が終わると放課後、いつも通り家に帰った。
だが、20分くらいするとすぐに学校に戻ってきたのだ。しかも、校門の前で息切れしている。走って帰ってきたのだろう。
そんなれんのことを見て何かあったのだと思った担任の鈴木先生は、すぐにれんのもとへ行った。
案の上、れんは酸欠を起こしていて立っているのがやっとの状態。
そんな状況のなかでもれんは必死な顔して伝えた。

「お母さんがお父さんに、、、」
「お母さんがお父さんにどうしたんだ。」
「、、、なぐ、ら、れよる。」

上手く聞き取れないほどの息切れだったが
事の詳細を先生は理解した。
れんは全力で助けを求めに来た、
この一瞬でそういうメッセージを察した。

れんの家庭環境は決していいと呼べるものではない。
父親のDVで母親とれんは暴力を受け続ける日々。
そんな日々に危機感を覚え、家を出て二人で生活を送るようになるが、母親は夫から受けていたDVがトラウマで、重度の精神疾患。
そんな家庭環境なので、れんはいつも母親を支えていた。
精神の面でもお金の面でも。

れんと母親は、苦しい生活を送りながらも、二人三脚でそれなりに楽しく過ごしていた。
父親とも完全に縁を切り、家を出てから会うことはなかった。
なのに、そのときはれんが家に帰ると父親がいたのだ。

警察沙汰にもなり、
父親は署に行き
母親は病院で治療。
そんな形でこの出来事はいったんおさまった。

その日の夜、れんは母親が眠る横で泣いた。
ただただ恐ろしい。
明日の朝はもう見たくない。
もう生きたくない。
めったに弱音を吐かないがゆえに、こんなれんは見たことがない。

ただただ泣いて泣いて泣いて。
一晩中泣きじゃくりながら
倒れるように寝た。

恐ろしい悪夢とともに
夜は明けた。
泣いて赤くなった目。
寝不足で頭は鈍り、悪夢で気分は最悪。

そんななかでも
なんとか体だけは起こそうとしたそのとき。
お母さんが首をつっているのが見えた。



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