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BioNTech, Moderna - COVID-19関連の思考整理

皆さまこんにちは。
バイオ、ヘルスケア関連について分析する記事を書いているしゅー(@SU_pharma)です。

今回のnoteでは、目まぐるしく情報が更新されたCOVID-19ワクチン関連の情報を整理し、頭の整理として書いてみることにしました。

Disclaimer:
本記事は特定の株式に対して購入を進めることは目的としていません。  株式投資をする場合は自己責任でお願い致します。

それでは、COVID-19の疫学から確認します。

1. COVID-19の各国の状況

COVID-19の状況はworldmetersで確認しました。

まずは、世界のコロナウィルス感染者は1.4億人を、死者は300万人を突破しました。
改めてすごいパンデミックであることを感じます。

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1日あたりの感染者数は約750万人程度で推移しており、増加傾向が続いています。

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ぼくの投資対象であるアメリカでの状況を見てみましょう。
アメリカの資料はCDCのHPからデータを取っています。
1日の感染者数は5万人程度で推移しています。
年末と比べると1/4程度まで減少しているものの、下げ止まっているようにも見えます。

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ワクチンの接種は最近は1日あたり300万doseぐらいの接種が行われているようです。
J&Jのワクチンでさらに勢いを、というところでしたが、どうなるのでしょうか。

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また変異株としては、B1.1.7(イギリス株)が44%と半数近くとなっています。
アメリカは最も変異株についてしっかりとトレースしている国だと思いますが、かなり多くの変異株があります。
このことは、ワクチンも変異株に対応するものが近い将来必要となることが推察されます。

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2. 4種類のCOVID-19ワクチンの各国のニュース

ワクチン関連のニュースは多すぎてなかなか整理が難しいのですが、五月雨式に見ていきます。

2-1-1. アメリカ

アメリカでは、4/13にJ&Jのワクチンについて血栓のリスクがあることから、CDCおよびFDAから投与を推奨しないというアナウンスがありました。

700万人の投与されたデータを見ると、6件の血栓の症例(1例は死亡)が見つかったとのことです。

J&Jワクチンの判断は1週間程度延期されることが決まり、少し先になることが決まっています。

また、イギリスではメインとして使用されているAstraZenecaのワクチンですが、アメリカではまだ承認されていません。
したがって、J&Jワクチンの判断が決まるまではしばらくはPfizer/BioNTech, ModernaのmRNAワクチンの供給に頼ることになりそうです。

2-1-2. イギリス

AstraZenecaのお膝元であるイギリスではAstraZeneca製のワクチンが最も多くの方が投与してきたワクチンになります。

AstraZenecaのワクチンの血栓についてのデータとしては、2000万人に投与し、79例の血栓、19例の死亡が認められ、2/3が女性、3例が30歳未満でした。

このデータにより、イギリスでは30歳未満については、AstraZeneca製以外のワクチンの使用を提供するアナウンスが出ました。

2-1-3. デンマーク

デンマークは世界ではじめてAstraZeneca製のワクチンの使用を中止する国になりました。
またJ&Jのワクチンについても血栓についての調査が終わるまで使用を一時停止することを決定しました。

2-1-4. チリ

人口1800万人のチリではすでに1回目のワクチン接種が終わっている患者数が1200万人を超え、ワクチン接種率としては、最も進んでいる国の一つになっています。

しかしながら、ロックダウンの解除等で感染者数が1日9,000人を超え、ICUがひっ迫した状況になりました。

この理由の一つに中国製のワクチンの有効性が低いからではないか、ということも言われています。

2-1-5. ベルギー(ワクチンの価格のお話)

ワクチンの価格交渉のニュースはなかなか出てこないのですが、ベルギーの首相がお話したこのニュースはとても興味深いです。

Pfizerのワクチンの価格は12ユーロだったが、その後15.5ユーロに上がった。今、2022年と2023年には欧州連合で9億本のワクチンの契約が結ばれているが、すでに19.5ユーロの価格になっている

血栓の原因は?

現在、mRNAワクチン(Pfizer/BioNTech, Moderna)では血栓リスクの上昇は認められず、DNAワクチン(AstraZeneca, J&J)でのみ報告されています。

まだこの血栓の原因はわかっていません。
Natureの記事によると、AZとJ&Jのワクチンとの関連性が指摘されている血栓は、脳や腹部などの異常な部位に発生し、血小板の量が少ないという特徴があるようです。これは、抗凝固薬であるヘパリンを服用した人に見られることがあるまれな副作用です。

ヘパリンの場合はヘパリンが血小板第4因子(PF4)と呼ばれるタンパク質と結合することによって引き起こされると考えられています。これにより、PF4に対する抗体の産生を含む免疫反応が引き起こされ、最終的には血小板が破壊され、血栓促進物質が放出されることになります。謎なのは、ヘパリンが存在しない場合に、何がこの症候群の引き金になるのかということです。

この記事には専門家より以下のような意見が述べられています。

Vector(アデノウィルス)が原因かもしれないし、スパイクタンパクが原因かもしれないし、Vectorに含まれる汚染物質が原因かもしれません

個人的にはスパイクタンパクが原因であれば、mRNAワクチンでも同様のことが起こることが考えられ、この可能性は低いのではないかと思います。

この記事では、以下のようなことも書かれています。

トリガーを特定することは、将来のワクチンにとって重要であると彼は言う。"アデノウイルス・ワクチンに頼るのか、それともmRNAワクチンに頼る必要があるのか」。"それが近い将来の重要な問題となるでしょう」。

3. 各種ワクチンのエビデンスとニュース

最近も特にmRNAワクチンの会社から多くのデータが出てきていますので、Pfizer/BioNTechそしてModernaの情報を少し整理します。

3-1. Pfizer/BioNTech

3-1-1. イスラエルのreal world evidence
Pfizer/BioNTechのワクチン投与が進んでいるイスラエルにおいて、非常に強力なワクチンの効果が実臨床でも明らかになりました。
・ワクチンを接種していない人が症候性COVID-19を発症する可能性は44倍、COVID-19により死亡する可能性は29倍であった
・2回目のワクチン接種から2週間後の予防効果(症状のある病気、重症・重篤な病気、死亡を予防)は97%以上

3-1-2. 安定性試験のアップデート
EMAは新たに提出したデータに基づきPfizer/BioNTechのワクチンの保存について-25°Cから-15°Cで2週間保存という条件を承認しました。
これで、通常の冷凍庫での2週間の保存が可能となりました。

3-1-3. 青年期および小児への有効性
12-15歳の青年期では100%, 小児では91.3%と成人と同様のワクチンの有効性がそれぞれの試験で明らかになりました。

現在、変異株が小児、青年期を介して感染が広がっているとも言われているので、非常に重要なデータだと思います。

3-1-4. 6カ月の有効性
第3相臨床試験に参加された被験者を用いた6カ月の有効性として、91.3%のワクチンの有効性が認められ、CDCの重症例の定義では100%, FDAの重症例の定義では95.3%の有効性が確認された。南アフリカの変異株についての有効性も100%であった。

3-2. Moderna

3-2-1. 小児試験の開始
6カ月-12歳を対象としたKidCOVE試験が3/16に開始されました。
おそらく秋にアメリカで承認され、使用されるイメージだと思います。

この試験とは別に12-17歳を対象としたPhase2/3試験TeenCOVE試験も実施しています。

3-2-2.mRNA-1283(次世代)Phase1開始
mRNA-1283は冷蔵保存可能、かつ変異株にも対応している次世代COVID-19ワクチンとなります。
Pfizerは凍結乾燥で冷蔵保存を狙っていると思われますが、ModernaもmRNA-1283でさらなる保存の簡便性を狙った製剤を開発しています。

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3-2-3. mRNA-1273.351(多価ワクチン)Phase2開始
mRNA-1273.351は南アフリカ株を含む多価ワクチンでブースター投与用に開発を進めています。

3-2-4. mRNA-1273の有効性が6カ月維持されるデータがNEJMへ掲載

mRNA-1273のPhase1に参加された33名のデータとして6カ月後の抗体価が3種類の試験によって維持されているということが確認されました。
ただし、中和抗体の半減期が試験によってデータが異なりますが、68-202日となり、しっかりと低下することも明らかとなりました。また高齢者で特に抗体価の低下が認められました。
この結果より、個人的にはブースター投与は最低でも1年に一度は実施しなければならないのでは、という感想を持ちました。

4. 今後の想定される展開

ここ数週間でのニュースを可能な限りまとめてみました。
では、ここから想定される展開を考えてみたいと思います。

4-1. 生き残るワクチンの条件

Pfizer/BioNTech, そしてModernaのmRNAワクチンは確実にメインプレイヤーとして今後も世界中で投与されることはほぼ確実になってきていると感じます。
この2つのワクチンでDNAワクチン(AstraZeneca, J&J)よりも優れている点は以下のものです。

1. 強い免疫反応
2. 大規模な投与経験に基づく安全性
3. 変異株への対応力

一つ一つ見ていきます。
1.の強い免疫反応は、現在のワクチンで変異株、特に南アフリカの変異株への有効性を示すための指標となると考えられています。
AstraZenecaのワクチンは残念ながら南アフリカ変異株に対してほとんど有効性を示さない(有効性は21.9%で有意差なし)という結果が得られましたが、これは免疫反応の強さによるものであると推察されています。

変異株へ対応できるワクチンを変異株が流行している地域へ供給することが最も良い対応であることは間違いありませんが、まずは、現状のワクチンで強い免疫反応を引き起こし、変異株へも有効性の示されているワクチンが求められるでしょう。

2. の大規模な投与経験に基づく安全性については、Pfizer/BioNTech, Modernaは世界各国そしてアカデミアと情報共有しながら変異株の状況や副反応の情報を密に交換しています。
この後でmRNAを投与した患者でDNAワクチンで認められた血栓のようなものが見つかる可能性は極めて低く、安全性という意味ではかなり大きなアドバンテージを持っているといえます。

3. の変異株への対応力はmRNAワクチンの設計から製造までに非常に短い時間でできるというmodalityとしての利点が考えられます。
BioNTechの資料を見ると、このタイムラインがなんと6週間と書かれていました。
また、同じmRNAの技術の場合は、数百人程度のブリッジング試験で臨床試験をクリアできることがFDAのガイドラインでは示されており、他のDNAワクチンやタンパクベースのワクチンと比較しても利があるように思われます。

また中国においてもBioNTechのワクチンが承認されるのではないかという情報も入ってきました。

中国は自国のワクチンを4つも開発しているにも関わらず、最終的にはBioNTechのワクチンも承認しようという判断がされたようです。

今後は、中国の安いワクチンを輸入していた国々もチリの状況を見ると、mRNAワクチンがほしいというようになり、さらに需要が増すことが期待されます。


では、今年秋以降に実施されるであろうブースター投与についても考えてみたいと思います。

ブースター投与にもいくつかニュースがあります。

まずはPfizer CEOのAlbert Bourlaは2回目の投与後12カ月以内にブースター投与が必要と思われると発言をしています。

また、Moderna CEOのStéphane Bancelは3つの候補ブースターのうちどれになるかはわからないが、秋以降ブースター投与が必要になるだろうと話をしています。
これは、先ほどのNEJMのデータ(半年での有効性)に基づく推察と考えられます。


また、DNAワクチンの場合は、もともと毎年投与するようなワクチンとしてはやや分が悪いことが知られています。
それは、アデノウィルス自体に抗体ができ、この抗体のせいで有効性が最初よりも低くなる可能性が指摘されているからです。

一方で、mRNAワクチンの場合はLipid Nano Particle (LNP)という脂質で覆われています。脂質は分子量がとても小さいため、抗体ができにくく、再投与に適していることが理論的には考えられています。

これらのことからも、今年の秋以降のブースター投与についてもmRNAワクチンの優位性がとても高いと考えられます。

5. 株価、バリュエーションと将来性

5-1. BioNTech

株価:151.54(4/16終値)
予想売上高:$11B
予想EPS: $23.04
予想PER: 6.58
チャート: ATHを今週更新

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5-2. Moderna

株価:170.81(4/16終値)
予想売上高:$17.05B
予想EPS: $22.59
予想PER: 7.56
チャート: 3月末に$120まで下げた後、大きな上昇を見せ、ATHである$189へ迫る勢い

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PERとしては、2021年の予想EPSで計算すると、超割安銘柄に見えます。
一方でこれは、2021年以降、2022年、2023年は2021年と同様の売上、利益は出ないのではないか、という予測に基づく市場の判断と理解しています。

簡単な例ですと、ブースター投与は年に1回投与の臨床試験が実施されています。
つまり、2021年度の最初の投与では2回投与するものの、今後は年に1回だけの投与になる、つまり必要量が半分になることが想定されています。
しかし、値段もベルギーの例のように大きく改定されることが考えられます。

さらに、2022年にはおそらくPfizer/BioNTechはインフルエンザワクチンもmRNAワクチンとして上市し、COVID-19/インフルエンザ多価ワクチンような形で提供される可能性が高いと推測されます。

Modernaのインフルエンザワクチンはさらに1-2年遅れると予想されますが、CMVワクチンの上市が成功すれば、別の収入源を手に入れられることになり、さらにRSVウィルスなどいわゆる呼吸器疾患に関わる様々なワクチンを開発していくことが期待されます。

また別の記事にしようと思いますが、BioNTechは主に癌領域とワクチンで、Modernaはより広範なワクチン、希少疾病、癌領域で多くのパイプラインを持っています。
これらの進展によって、株価の大きな変動があると思われます。
2021年度は癌領域でPhase1, 2試験の結果が両社から発表されるでしょう。

今回はもう一つのワクチンプレイヤーであるNovavaxについては触れませんでしたが、おそらくNovavaxが供給できる生産量には限界があり、mRNAワクチンを押しのけて多く使用されることはあまり想定していません。
株式投資という観点からはNovavaxも非常に面白い会社ではないかと思います。

6. まとめ

1. Pfizer/BioNTech, ModernaのmRNAワクチンは強い有効性および安全性プロファイルが確認されており、ブースター投与も含め、今後長期に渡り使用される可能性が高くなってきた

2. AstraZeneca, J&JのDNAワクチンは、稀に起こる血栓の有害事象が懸念として残り、その投与を中止し始めている国や年齢を制限している国が出始めている

3. ワクチン投与半年の結果を踏まえると、mRNAワクチンの効果は徐々に弱くなることから、年に1回のブースター投与をする可能性が高くなってきた

4. ブースター投与を考えた際には、免疫反応の出にくいmRNAワクチンがベターである

以上となります。
今週はModernaについてたくさんツイートをしましたので、もしご興味のある方は見ていただけますとうれしいです。

おすすめはこのあたりです。

では、今回のnoteはここまでにしたいと思います。

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では、次の記事でまたお会いしましょう!

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