『デート・ア・ライブ』概論⑧
1.はじめに
本稿は『デート・ア・ライブ』概論の第8回目となる。
今回は第7巻の『美九トゥルース』について見ていく。
今回もネタバレを含む内容となるため、未読者は十分に注意されたい。
2.『美九トゥルース』あらすじ
狂三が美九の「声」の影響を受けていないことを知った主人公 五河士道は狂三の手を貸すということばを信用できずにいたが、これが唯一の打開策だと思い、狂三の提案に乗る。
狂三のほうもDEM社に別件でなにやら思惑があるようであった。
士道と狂三は美九の暴挙を止めるために、美九の家へ侵入する。
そこで狂三は対象の過去を伝える弾<十の弾(ユッド)>を使って、美九の家にあったCDを貫き、美九の過去を知る。
美九はもともと人間で、琴里と同じく<ファントム>にセフィラを与えられて精霊となった存在であった。
元々は人間のアイドルとして活動していた美九だったが、身に覚えのないスキャンダルによってそれまでファンと信じていた人々からひどい裏切りにあい、人間不信になってしまったという経緯であった。
狂三は<時喰みの城>によって周囲の操られた人々の動きを止め、堂々と正面から美九のいるアリーナへと乗り込む。
そして、闇の中へと美九を引きずり込み、士道と再び二人で対話する機会を設けた。
そこで士道はDEM社によって連れ去られた十香を助けにいくと宣言する。
美九は危険を冒してまで十香を助けに行こうとする士道の姿勢に心が揺らぐ。
そうして、美九は他の精霊とともにDEM社に乗り込んだ士道と共闘する。
美九の人を操る「声」の力でIDカードを手に入れた士道は十香が幽閉されている中枢部にまで到達する。
そこにはDEM社の業務執行取締役であるアイザック・ウェストコットの姿があった。
ウェストコットは十香の目の前で士道を殺すと宣言し、十香を煽ることで、反転した力を顕現させることが真の目的であった。
3.セフィラの反転
セフィロトの樹とセフィラについては本概論で何度も出てきているが、『デート・ア・ライブ』においてはセフィラに「霊結晶」という漢字が当てられている。
以下引用。
(<フラクシナス>艦内)
「か、カテゴリー・E…...霊力値がマイナスを示しています......!?」
(琴里)
「霊結晶(セフィラ)の......反転......ッ!」
(ウェストコット)
「<王国>が、反転した。さあ、控えろ人類」
セフィロトの樹において、十香は十番目のセフィラ「マルクト」を象徴していた。(『デート・ア・ライブ』概論②参照)
「マルクト」は日本語では図の下に書いてある通り「王国」と訳される。
ウェストコットの言う<王国>とは十番目のセフィラ「マルクト」のことであると考えてまず間違いない。
そこで、今回登場する反転現象である。
セフィロトの樹は生命の樹であるが、その逆にクリフォトの樹あるいは邪悪の樹と呼ばれるものがある。
クリフォトとはユダヤの神秘主義思想カバラにおいて悪の勢力および不均衡な諸力を表す概念である。
クリフォトの樹はセフィロトの樹と完全に対極を成しており、セフィロトの樹では守護天使がそれぞれいるが、クリフォトの樹ではそれぞれに悪魔が存在する。
例えば、六番目のセフィラである「美」と訳される「ティファレト」では、守護天使はミカエルであるが、クリフォトの樹においては、「醜悪」と訳される「カイツール」となり、悪魔はベルフェゴールである。
また、セフィロトの樹をタロットカードと結びつけたように、クリフォトの樹と結びつけた「シャドウ・タロット」と呼ばれるものが存在する。
十番目のセフィラである「マルクト」のクリフォトの樹における対極は、「物質主義」の「キムラヌート」であり、悪魔はナへマーである。
十香の反転体(後に天香と名付けられる;天=ten(10)に起因するものと考えられる)は、サンダルフォンの代わりに<暴虐公(ナへマー)>を操る。
黒い閃光とともにあらゆる物質を消滅させる【終焉の剣(ペイヴァーシュヘレヴ)】は「マルクト」の象徴する物質世界を消し去るという点で対照的である。
4.まとめ
今回は第7巻である『美九トゥルース』について見た。
反転現象とクリフォトの樹という新たな概念と、DEM社の思惑の片鱗が垣間見える巻であった。
→第8巻へ続く
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