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「過去未来報知社」第1話・第41回

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 わらわらとスタッフが集まっている商店街の隅に笑美は駆け寄った。
 画面上はアイドルが一人でふらついているように見えるが、
 その裏ではこれほど多くの人が動いているのか、と笑美は少し驚く。
「今日はご協力いただき、ありがとうございます!」
 キャップを逆に被った男性スタッフがぺこり、と頭を下げる。
 甲高い声と低い身長は、まるで少年のように見える。
 書類を挟んだバインダーを小脇に抱えて、やたらと笑顔で話しかけてくる。
「いや~、まだこんな商店街、商店街した商店街が残ってたんですね。
 助かりますよ、ほんと、昨今、すぐショッピングモールとかになっちゃってね」
「はあ、そうですよね。まあ、商人の町なんで」
 若詐欺から仕入れたばかりの情報でお茶を濁しつつ、笑美は後ろ頭を掻いた。
「それで、ですね。商店街もいいけど町並みもいいなぁ、なんて」
「はあ」
「住宅街での撮影許可、ちょちょっといただくことはできないでしょうか」
「はあ……って、ちょっと、ちょっと待ってくださいよ」
 軽いノリでつっこまれ頷きかけた笑美は、慌てて声を上げる。
「だだだ、ダメですよ。そんな簡単にとれません、無理、無理」
「え~、そう言わずに~」
 男性スタッフは細い身をよじって駄々っ子のように両手を振り回す。
「せっかくのロケーションなんですから、流しましょうよ、六合街」
「住宅街はプライバシーの問題とかけっこうあって、いきなりなんて無理ですよ!」
「そこをなんとか!」
「なんともなりません!」
「あら、いいじゃない。家なんてどお?」
「えび……じゃなかった、市子さん。話を進めないで下さい!」
 しなを作ってスタッフに媚びる市子を後ろに追いやって、笑美は眉を吊り上げる。
「撮りたいなら、もう一度申請してください。許可が出れば文句ありませんから」
「そうしたいのはやまやまですけど、
 アカシのスケジュールがそんなに取れないですって!」
「アカシ?」
 笑美と男性スタッフの声が聞こえたのか、
 酒屋の店先で甘酒を貰っていたアカシが振り返る。
 笑みを消した顔は鋭く、射抜くような視線が笑美をとらえた。
「きゃあ! アカシだ!」
 黄色い声が上がる。制服姿の女子高生たちが騒いでいる。
 くるり、とそちらを振り返ると、満面の笑みでアカシは女子高生達に手を降る。
(この人……)
「じゃ、じゃあ、あの大きなお邸! あそこだけ、どうですか?」
「お邸……?」
 男性スタッフが指差すほうを見た笑美は絶句した。
「だ……ダメですよ、あそこは、ダメダメ!」
 激しく拒否する笑美に男性スタッフはきょとんとする。
「な、なんですか」
「ダメです! あんなところが出たら、六合のイメージが!」
「あんなところ、がどうしました?」
 おっとりとした声に振り返ると、着物に割烹着を着て、
 腕に下げた籐の籠から長ネギをのぞかせたネコが立っている。
「ね……ねねねねねネコさん?!」
 飛び上がる笑美に反して、男性スタッフはぽーっとネコに見惚れている。
「うちでよろしければ、ご協力しますよ」
「あ! あのお邸の方ですか?」
 身を乗り出すスタッフににっこりとネコは頷いた。
「家主さんがOKなら、いいですよね?」
「あ、え、まぁ……」
「よし! 決まった!」
 飛び上がって他のスタッフの方へ走っていく男性スタッフ。
 笑美は恨めしそうな目をネコに向けた。
「なんでOK出したんですか」
「……長ネギ」
 微笑んだままネコは笑美に言う。
「長ネギ? はあ、立派なネギですね」
 籠から飛び出したネギを見る笑美。籠がフルフルと震えている。
「ネコさん?」
 微笑みながら震えているネコを笑美は怪訝な顔で見上げた。
「長ネギの入ってないすき焼きは食べないって」
「あ、大家さんですか。言いそうだな~。面倒くさそう」
「私も三宅さんも、長ネギは食べられないっていつも言ってるのに!」
「え? あ? はあ……」
 珍しく声を上げるネコの迫力に、笑美はたじたじと後退さる。
 肩をいからすと、ネコはスタッフの方へ歩いていく。
「さあ、笑美さん。皆さんを六合荘へご案内しますよ!」
「……ひょっとして、長ネギを買わされた鬱憤返し?」
「何か言いましたか?!」
「いえ! なんでも!」
 スタスタと歩くネコに笑美はすごすごとついていった。

>>第42回

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