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¦神様の暇つぶし¦

作品名 神様の暇つぶし
著者名 千早茜
出版社名 文藝春秋

導入¦千早茜が書く、『日常的な非現実的世界観』のとりこになり好んで彼女の作品を読むようになった。
この話は主人公の視点でストーリーが書かれているため、一人の日記を読むようなあるいは一人の記憶をのぞいているような感覚で本を読み進めることができる。その日記をめくる感覚こそが「日常的」であり、記憶をのぞく感覚こそが「非現実的世界観」の正体である。絶対に忘れられないひと夏の記憶を、あなたも覗いてみてはどうだろうか。

本の内容¦「神様の暇つぶし」というタイトルでありながらジャンルは恋愛小説。そして暇つぶしと言いつつ全く暇つぶされない。重すぎる。
父を突然の事故で亡くした二十歳の大学生、柏木藤子。ある夏の夜、彼女のもとに訪ねてきたのは左腕を鋭利な刃物で切り裂かれ血まみれになっていた男だった。「でかくなったなぁ」と呑気な声で笑った男は、死んだ父よりも年の離れた写真家、廣瀬全(ひろせぜん)だということに気が付く。二人で夏を過ごしていくうちに藤子の世界が変わっていく...
恋愛なんて似合わない、そう昔から思ってきた彼女に初めての恋を与え、そして奪っていった男、全。あのひとを知らなかった日々にはもう戻れない、恋と呼べないひと夏の記憶。

本の魅力¦この本の魅力は3つある。1つ目は食べ物の描写が非常に多く魅力的な点だ。藤子の父のセリフに「泣きたくなったら食べればいい。泣きながらでも飲み込めば、食べた分だけ確実に力になる。」というものがある。藤子はその言葉通り全さんにつれられて様々な食べ物を食べている。苦しんでは食べ、悩んでは食べ、悲しさや切なさ、怒り、傷、様々なものを飲み込んで生きる力に変えて進む姿が印象的。
2つ目は物語の密度が大きい点だ。この話は最初から最後まで息の詰まるような想いになる内容になっている。藤子が出会う様々な人、様々な出来事1つ1つが暗くて苦くて何度も本をとじては読むのをあきらめかけた。しかし、その辛さがあるからこそ引き立つ情景の描写、藤子の心情が綺麗で映画を見ているような気分になった。
3つ目は「生と性」が両立された話であるという点だ。作中で藤子が「恋で人は変わるだろうか。」と問う場面がある。全さんとの出会い、ひと夏の出来事を経験した彼女はその問いにどう答えるのだろうか。生きているから望む、望むために生きる、望んでも叶わない恋、突然迎える終わり。恋と死が絡みあう人生において本当の神様とは誰だったのか、最後まで動く物語の行方から目が離せない。

作者について¦千早茜。北海道江別市出身の作家。国語の先生の母を持ち、小学1年生~4年生までのザンビア移住中も毎日日記をつけていた。2008年魚神(いおがみ)」で第21回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。翌年、同作で第37回泉鏡花文学賞を、13年「あとかた」で第20回島清恋愛大学賞を受賞している。同年に「あとかた」翌年に「男ともだち」で直木賞候補に選出されている。普遍性を大事にしており、18年にはクリープハイプのボーカル「尾崎世界観」との合作「犬も食わない」を出版している。

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