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月経関連片頭痛の予防に対する鍼治療:多施設ランダム化比較試験

背景

 女性片頭痛患者の約20%は月経時片頭痛であり、その大半は前兆のない片頭痛である。月経時片頭痛は以下の2つに分類される;pure menstrual migraine(純粋月経時片頭痛)とmenstruation-related migraine(月経関連片頭痛;以下MRM)だが、大半はMRMに属する。

国際頭痛分類Ⅱ〜Ⅲでは、MRMは前兆のない/ある片頭痛の診断基準を満たし、発作は月経3周期中2周期以上で開始日(Day1)±2日(すなわち月経開始2日前から3日目まで)に生じる。

国際頭痛分類では付録に定義

 MRMの医学的管理は困難(Challenging)である。月経周期に関連して起こる片頭痛発作はその他の時期に起こる発作よりもより痛みが強く、持続する傾向があり、日常生活に多大な影響を与える。加えて、それら発作はその他の時期の発作よりも薬物治療に対する反応性が低い。MRMの治療は通常の片頭痛治療に準ずるが、NSAIDsは月経痛に対しても高い効果を発揮するため、first lineとして短期的投与が行われることもある。しかし、副作用やMedication Overuse Headache(MOH)を引き起こす可能性もあり、低リスクで有効な治療介入が少ないのが現状である。
 鍼治療は片頭痛に対する補完代替治療として広く受け入れられているが、MRMに対しての研究は過去に1件のみである。そこで今回、多施設共同ランダム化比較試験を行い、MRMに対する予防的治療としての鍼灸治療の有効性を検討した。


方法

本研究は、前向き・多施設共同・ダブルダミー・被験者盲検化・ランダム化コントロール研究である。
今回の研究では以下の3つのphaseを対象とする;

  • ベースライン期間(-3サイクルから0サイクル)

  • 治療介入期間(1サイクルから3サイクル)

  • フォローアップ期間(4サイクルから6サイクル)

(月経周期に関連する研究なので、cycleを基準!なるほど)


【介入基準】

  • ICHD-ⅡによりMRMと診断される

  • 正常な月経周期を持つ(25〜35日)

  • 月経関連性片頭痛発作の3日以内に月経開始することが予想できる

  • 片頭痛発作をなん度も経験し、非月経時片頭痛の頻度が月1回以上

  • インフォームドコンセントを取得できる


【除外基準】

  • 慢性片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などその他の一次性頭痛や二次性頭痛、その他神経原性疾患を持つ

  • 重度の身体性疾患(心血管障害、急性感染性疾患、血液疾患、内分泌疾患、アレルギー)

  • 耳鼻科疾患もしくは頭蓋内病変により頭痛を起こしている

  • 経口避妊薬を服用している、妊娠中、授乳中

  • 過去3ヶ月間で片頭痛の予防薬を服用していた

  • その他の臨床試験に参加している


【研究内容】
鍼治療群:経穴に鍼+プラセボのナプロキセン
薬物治療群:効果のない経穴(non-effective)にSham鍼+ナプロキセン
被験者は急性期薬の使用は許可されており、服薬したら記載とした。


【評価】
頭痛ダイアリーに、頭痛が始まった時間、強度、頻度、頭痛の場所(前頭・側頭・頭頂・後頭)、頭痛の原因、頭痛の随伴症状を記載した。
 また急性期薬を内服した場合、名前、量(錠)、内服時間、痛みが治まった時間、副作用を記載した。
 参加者には副作用の報告を求めた。因果関係や鍼灸治療または治験薬との関連性は、治験の臨床医によって判断された。

【介入】
鍼治療の介入については、両群ともに20年以上の臨床経験のある鍼灸師が行なった。
 鍼は使い捨てのものを10本;頭部は0.25×0.25 mm、四肢・腹部は0.3×40 mmを使用し、全てのPointに10~15mm刺入し、得気あり。鍼治療は週2回、月経開始10日前は少なくとも3回とし、3周期治療した。治療時間は30分。


標準経穴は以下の通り;GV20(百会)、GV24(神庭)、GB13(本神)、GB8(率谷)、TE20(角孫)、GB20(風池)

追加経穴は以下の通り;
少陽経頭痛では、TE5(外関)、GB34(陽稜泉)
陽明経頭痛では、LI4(合谷)、ST44(内庭)
太陽経頭痛では、BL60(崑崙)、SI3(後渓)
厥陰経頭痛では、LR3(太衝)、GB40(丘墟)
悪心・嘔吐には、PC6(内関)、怒りやすい人には、LR3(太衝)
月経前に体調を整える目的として、KI12(大赫)、CV3(中極)、ST29(帰来)を選択した。

薬物治療群の介入については、sham鍼治療+ナプロキセン(250 mg/錠)とした。
sham鍼の介入については、鍼治療群と同じプロトコルだが、non-effective acupointとした。non-effective acupointは先行研究から選定し、膝・肘周囲の経穴から15ヶ所とし、頭・手足・体幹の経穴は除外した。


【評価】
Primary Outcome:ベースラインとの比較で、月経1~3周期の平均片頭痛日数
Secondary Outcome:月経前周期以外の片頭痛日数、片頭痛の持続時間、VAS、50% responder、1-3周期および4-6周期の急性期薬使用の割合



結果

192名の研究参加があり、うち170名(鍼治療群86名、薬物治療群84名)が対象となった。治療期間に13名が脱落した。平均年齢は35.81歳で53.53%が35歳以上であった。平均月経周期は28.99日で平均月経期間は5.51日である。

【Primary Outcome】
 平均片頭痛日数は、鍼治療群では1.83(95%CI, 1.68-1.99)から0.89(95%CI, 0.74-1.05)、薬物治療群では1.67(95%CI, 1.55-1.79)から1.06(95%CI, 0.95-1.17)である。ベースラインからの片頭痛日数の減少率は、鍼治療群の方が多かった(P<0.001)。


【Secondary Outcome】
 鍼治療群では、月経周期前後以外の片頭痛日数、平均片頭痛時間が薬物治療群よりも有意に減少していた。
 鍼治療群は、薬物治療群に比べ、4~6周期の月経前後VASの平均値の減少が大きかった;月経周期前後以外のVASは群間差0.36(P=0.15)。
 50% responderは治療終了後では鍼治療群62.8%、薬物治療群42.9%、フォローアップ終了後ではそれぞれ58.1%、38.1%だった。
 1~3周期の月経前後においては、ベースラインの平均VASからの変化は、両群間で差はなかった。1-3周期と4-6周期に急性期薬を使用した割合にも群間差はなかった。


【安全性】
 22名(12.94%)が少なくとも1つの有害事象を経験したが、いずれも特別な医療介入を必要としなかった。鍼治療群では8名(9.30%)、薬物治療群では14名(16.67%)に発生し、鍼治療関連では主に皮膚出血、しびれ、倦怠感が、薬物治療関連では吐き気、動悸、消化不良、上腹部痛、胸やけ、眠気、めまい、発汗などが見られた。発生率は、鍼治療群と薬物治療群で概ね同じだった(P = 0.15)。


考察

 鍼治療群は薬物治療群に比べ、ベースラインからの片頭痛日数および時間の減少が有意に大きく、50% responderが50%以上であることが示された。治療介入期(1-3サイクル)とフォローアップ期(4-6サイクル)で、鍼治療群は薬物治療群に比べ、フォローアップ期で頭痛強度の緩和が比較的良好であった。さらに、鍼治療群は薬物治療群に比べ、頭痛強度が治療介入期間よりもフォローアップ期間で緩和されていた。しかし、急性期薬を使用した割合は、両群間で差はなかった。

 鍼治療群において月経前後の片頭痛日数の減少は、治療介入・フォローアップ期間のいづれも臨床的に有意義な最小限の差(MCID)である0.5日を上回っていた。しかし、二群間の差では1-3周期で0.33日、4-6周期で0.41日であり、MCIDを満たしていない。このことから、鍼治療群と薬物治療群の片頭痛日数の減少の差は、統計的に有意であっても、月経周期の片頭痛頻度の改善において臨床的に意味のある差を示すものではない
 しかし1~3周期、4~6周期の月経周期前後以外の片頭痛日数の群間差は、MCIDの0.5日よりも大きく、この結果から、鍼治療は月経6周期にわたって月経周期以外の片頭痛の頻度を減少させることにより、統計的に有意かつ臨床的に意味のある予防効果を発揮する可能性があると考えられる。

(素晴らしくわかりやすい考察!なんでもかんでも”有意差あった!効いた!”ではだめだよねえ)

 
本結果は先行研究と矛盾している。この相違が出たのは以下の原因が考えられる。

  • 対象者数(本研究の方が大規模)

  • 使用する経穴が違う


本研究にはいくつかの限界もある。

  • 片頭痛のベースラインの日数が少ない(ベースラインの月経前後の平均片頭痛日数は鍼治療群1.83日、薬物治療群1.67日、月経前後以外の平均片頭痛日数は鍼治療群2.07日、薬物治療群1.81日)

  • 全参加者が中国人であり、単民族である

  • 治療への期待度や治療満足度などの情報の欠如

  • その他片頭痛に特化した評価表などの使用がない

  • より良いSham鍼を検討する必要がある

  • 十分な時間と資金があれば、2×2(鍼+ナプロキセン、鍼+偽薬、sham鍼+ナプロキセン、sham鍼+偽薬)にするつもりだった


***自分メモ***

  • 月経関連のものはcycleで表すのは"なるほどなあ〜"と勉強になった。

  • 標準経穴群に神庭・本神が入るのは、意外に珍しいし、自分の臨床では全然使わなかった経穴。本当になんとなくだけど、"神"推しする理由があったりするのかな?

  • 月経前のコンディショニングには先行研究からKI12(大赫)とあるけど、なんでこの経穴なんだろう?

  • どこかで使いたい良い論文



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