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片頭痛予防においてfMRIから見た鍼治療の潜在的機序のエビデンス

背景

 多くの国で、鍼灸治療は広く受け入れられており、片頭痛の治療に最もよく使われる代替・補完医療(TCM)療法の1つである。
 
 2016年の鍼治療のコクランレビューでは、片頭痛予防としての鍼治療は偽鍼よりも有効で、予防薬と同等の効果があるが、効果量が少ないとの記載である。特記すべきは、2009年のコクランレビューでは鍼が偽鍼より有効という明確なエビデンスはないという記載だったのが、いくつかの新しい研究結果により改定されている点である。しかしまだ偽鍼やTradicitonal acupuncture theoryの議論は尽きない。

 近年、神経画像研究が鍼治療の分野でも広がりを見せ、鍼治療が中枢メカニズムに与える影響が報告されている。
 本レビューでは、片頭痛の病態生理と鍼治療の作用機序の簡単な説明に続いて、片頭痛予防のための鍼治療の潜在的機序を調べた臨床神経画像研究からのエビデンスを批判的に評価することにした。


片頭痛の病態生理

 片頭痛の病態は完全には明らかになっていないが、現在のところ、遺伝的、環境的、内因的な要因に影響され、感覚刺激の強さを増幅する皮質および皮質下ネットワークの反応性を高める脳の感覚処理の変化をもたらす複雑な疾患であることが現在知られている。


 片頭痛発作には4つの病期がある;

  1. premonitory phase:headache phase前から視床下部と特定の脳幹核との機能的接続の変化

  2. headache phase:末梢性・中枢性のTrigeminovascular pathwayの活動からpain matrixへ影響

  3. postdromal phase

  4. 1/3にaura phase:cortical spreading depression(CSD;神経細胞やグリア細胞の脱分極と過分極がゆっくりと伝播する現象)は前兆症状の生理学的要因と考えられている



鍼治療の作用機序の可能性について

 鍼治療は3000年以上の歴史があるが、正確なメカニズムは明らかでない。これには様々な手技・得気の有無・研究デザインなど統一性がないことが問題と考えるが、現在のところ鍼治療はプラセボ効果だけではなく、末梢性・中枢性への生理学的メカニズムが認められている。
 
近年、Neuroimaging技術が進歩し、ヒトを対象とした臨床研究により鍼治療の機序を明らかにする研究が散見される。

  • 鍼治療 vs Sham鍼治療

 fMRIはBOLDシグナルの変化を脳活動の変化の指標として用いる脳機能評価として重要なツールである。またAmplitude of low frwquency(ALFF)とregional homogeneity(ReHo)は脳局所神経活動の評価に欠かせないツールである。

 Liらは、片頭痛と健常者を対象に、ALFFにて検討している。片頭痛では、健常者と比較してRVM/TCCのALFFの低下が見られ、さらに4週間Trueの鍼治療を受けることで同部位のALFFが増加(正常化)し、sham鍼では同部位のALFFの低下が見られた。これら結果からTrue/sham鍼ではRVM/TCCに対して異なる効果があり、同部位のアンバランスを正常化させるのはSham鍼ではないことが示唆された。

 Zhaoらは、8週間の鍼治療(Active acupoint)とSham鍼(inactive acupoint)の治療を行い、rsfMRIで検討した。Shamと比較して、鍼治療は様々なネットワークにおいて顕著かつ広範囲な変化が見られた。VASは有意に有意に帯状回前部(ACC)のReHo値との相関が見られた。過去の神経画像研究では、ACCはPETやfMRIによる片頭痛研究で、最も一貫して不活性化する領域であり、灰白質の減少が見られた。この研究では、鍼治療は疼痛強度を低下させ、ACCの平均ReHo値の上昇と負の相関があることが示された。このことは、鍼治療の効果が片頭痛の影響を受ける機能障害領域をある程度調節することによって達成されていることを示している。

 Tuらは、前兆のない片頭痛(MWoA)にコネクトーム解析を行い、治療反応性を診断する試みを報告している。4週間の鍼灸治療(Trueまたはsham)を受けた片頭痛患者、または待機患者、健常者が対象である。片頭痛では様々なネットワークに機能異常が認められ、鍼治療は、片頭痛に関連するコネクトームを調節したが、sham鍼治療では見られなかった。

上記の研究結果は、鍼治療と偽鍼治療が異なる脳領域/ネットワークに影響を与えるという結果と一致している。


  • 片頭痛 vs 健常者

 近年、鍼灸治療中の単一の脳領域の変化に注目するのではなく、脳領域の機能的結合(FC)間の関係に注目し、鍼灸治療の効果の中心的メカニズムを検討する論文が増えている。

 Liらは、健常者と比較して片頭痛ではright frontoparietal network(RFPN)のFCが有意に減少し、それら減少したFCが4週間の鍼治療で回復が見られたことが報告され、鍼治療がFCを増加させ、VASを減少させることを明らかにした。

 Zhangらの検討でも、同じように健常者と比較して異常が見られた領域が鍼治療後回復する傾向を示している。


  • 片頭痛とその他の慢性疼痛疾患への鍼治療効果の比較

近年慢性疼痛に対する縦断的研究が進んでおり、鍼治療が脳の異常な可塑性を回復(reversing)させるという肯定的な知見が報告されている。

変形性膝関節症:PAG、前部前頭前皮質、ACC、腹側線条体のFCを活性化
慢性腰痛:背外側前頭前野、内側前頭前野、前帯状回、および楔前部で低下したDMNを回復
手根管症候群:前頭前野やS1などの脳活動活性化

などなど。
これら結果から、鍼灸が複数の皮質および皮質下の脳領域における機能的接続を変化させることができることが示される。


今後の展望

 さらに厳密な鍼灸研究を行うには、次のような目的を考慮する必要がある:
(1)広範で顕著な大脳の反応によって引き出される鍼治療の長期的な治療効果を検出すること、
(2)鍼治療と偽鍼治療の間の効果の違いを検出し、経穴の特異性を確認すること、
(3)鍼治療の効果に大きく寄与すると考えられている得気感覚を定量的に評価すること、
(4)異なる経穴や疾患依存・独立経絡間の差異を検出すること、
(5)片頭痛患者と健常ボランティア間の差異を検出すること、
(6)機能的結合性の変化と片頭痛軽減の正の相関を検出すること


***自分メモ***

・Reviewを読んでいて、8割くらいは読んだことのある論文になってきた
・今後の展望の⑶が難しいんだよねえ、これだけでないのは日本の鍼灸の方法のいいところだから、やっぱり大きな研究したい
・画像解析ももっと細かいところやらないとかな、脳幹





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