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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」16話 絵美とジョニーと周りのひとびと

15話のあらすじ

ジョニーの支援者であるマッシモは、感染症を脱し、家に戻ったジョニーの両親、ザックとナターシャの様子を見に行った。すると、ザックが自殺をしようとしていた。それをなだめすかして止め、マッシモはザックとポーカーをやりながら、自分の過去、マフィアのファミリーであったことを打ち明けた。同じ元犯罪者仲間としての信頼を、ザックはマッシモへ寄せるようになった。そしてジョニーは、疎んじていた父親のザックと話すことになった……。ここからはジョニーの記録。

16話

日時: 2222年2月27日 冬の恋人の日(火星自然創生コロニーにて)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 15才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること


「なんだ、その……今まですまんかった」

地球の故郷から届いた、父のホログラフがそう告げた。

マッシモさんから、感染症から復帰した父と母の様子を見に行ったら、父が自殺未遂を起こしていたということをさっき聞いた。なにやら、今までつるんでいたギャンブル仲間や住んでいる集合住宅の隣人たちに病原菌扱いされて、思い余っての行動だったという。

マッシモさんが何とかそれを止めて、説得に成功し、事なきを得た。そして、父はすこし心を入れ替えて、僕に謝りたくなったのだそうだ。

……今まですまなかった。

目の前の父が放ったその言葉を、僕は心のなかで反芻(はんすう)した。

僕は……。僕は、その一言(ひとこと)を、ずっと待っていたのかもしれない。さんざん僕のことを馬鹿にして、デザイナーベイビーであるにも関わらずなんでそんなに出来損ないなのかと言われ続けた心のわだかまりは、消えたわけじゃない。だけど、父が自殺をしないでくれて良かったと思っているのも確かだ。あの尊大な父が、謝ったというこの事実に対して、僕はどう反応して良いのか、感情を持て余していた。

長い沈黙を破って、僕はそっと答えた。

「……父さんが死なないでいてくれて、良かったよ」

「本当か」

「うん。せっかく病気が治ったのにさ。もう自殺なんかしないでほしいな。僕が火星から帰還するのを、楽しみに待っててくれないか、父さん」

驚くほど、素直な気持ちが、口から洩(も)れた。

「分かった。そのときは、お前のガールフレンドも連れて来いよ? アマビエとかいう、よく効くアートセラピーを教えてくれたことに礼を言わなけりゃならん」

「うん。彼女が僕の恋人になってくれたら、だけどね。だけど父さん、彼女にお金をせびったりしないでくれよ」

「任せとけ! 今日はな、金を賭(か)けずにポーカーをやってるんだ」

「そうなんだ! 進歩したんだね」

人はこんなにも変わるものなんだと、僕は改めて思った。病気で父さんと母さんが死ななくて、そして父さんが飛び降り自殺に至らなくて、本当に良かった。死んでからも万能通信アイテムである「コミュニ・クリスタル」を使えばコミュニケーションはとれるだろうけど、お互いの無理解を乗り越えて実際に抱き合ったり、握手したり、そうしたふれあいが出来て、それをしあわせと感じられるようになるこの物質の三次元世界を、僕は、初めて愛しいと思った。

……地球の故郷に帰って、父にじかに触れたい、と感じたんだ。

「じゃあな。元気でいろよ、ジョニー」

「……うん」

火星の僕と、地球の父さんとの連絡はそれで終わった。あれほど帰りたくないと思っていた故郷ロンドンの街並みが、ひどく懐かしく思える。そうだ!そして、僕は何を言ってしまった? 絵美が僕の恋人になってくれたら。つい口をすべらせてしまったけど。それが一番の難関じゃないか!

このバレンタインデーの前後で、絵美が共用コロニーのパサージュエリアにあるレストランの料理をおごってくれたり、僕からのメッセージカードをバレンタインデーにグレイ宅急便を使って届けたり、そしてドリームゲームで絵美とVR(仮想現実)の火星を飛び回ってデートをしたりして、僕らの仲はだいぶ近づいたように思う。

今日は「冬の恋人の日」だ。バレンタインデーと、日本の風習であるホワイトデーの真ん中にあるこの日は、恋人たちが仲を温める日らしい。もうひと押しの告白には、ちょうど良くないか?

「ニャーオ」

僕の足元で飼いネコのキャシーが鳴く。

「キャシー。お前も、今日が告白に最適だと思うかい?」

「ナーオ」

キャシーが古代のスフィンクスのように謎めいた瞳で僕を見る。チャンスに動かないの? とでも言いたげだ。

……よし。今日は、久しぶりに父さんと話すことが出来た運のいい日だ。勇気を出して、言ってみよう。

僕は、腕時計型の万能通信アイテム「コミュニ・クリスタル」に設定している、僕のアバターの姿をまず変えた。シルクハットをかぶり、ジャケットをはおったネズミから、僕自身の姿にする。

そして、そのあともすこし迷ったけれど、ついに絵美に、連絡を取った。

「やあ、絵美!」

「ジョニー! あれっ、今日はネズミじゃないんだね」

「うん。ほんとの姿で、絵美に話をしたくてさ」

「なになに」

「うん、えっと、あのさ……」

「んん?」

勇気を出せ、僕!

「絵美。ガールフレンドは今日までにして、これからは僕の恋人になってくれませんか?」

僕の言葉を聞いて、絵美は大きく目を見開いた。

(続く)


次回予告

17話は、絵美の記録。ジョニーからの愛の告白を受け、彼女の答えは……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからNana🌈家族も自分も大切にしたいワーママが集まる場所さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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