創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」 41話 恋人たちはノマド .af(アフガニスタン4)
40話のあらすじ
23世紀のアフガニスタンへと、メタルクラッド飛行船に乗ってやって来たジョニーと絵美。ふたりを迎え、新たな守護者を呼び起こす儀式を行うガンベリ記念公園へと向かう運転手のガブリは詩の歌い合いに誘う。ジョニーはカカ・ムラドこと、中村医師のクナール川用水路建設を歌で称える。ふたりが見たものは、200年の月日をかけて、砂漠からひとびとが変えた緑野だった。
41話
場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)
記録者: 絵美(エミ) マイジェンダー: やや女性 19才
出身地: 日本 趣味: ネコとたわむれること
ふわぁー! つ、ついに回ってきたよ。即興で詩を歌う順番が。ガブリさんとジブリ―ルさま、そしてジョニーが歌った節回しは、一定の音程とリズムがあって、それを真似すればなんとかなりそうだけど。
歌詞! 直前だというのに、あたしの頭のなかは真っ白で、うまい歌詞がなんにも思いついていない!
こ、これはもう、辞退を……とも思うけど、旅先で勧められたお酒だとか、郷土の料理を断るのと同じくらい、きっと失礼なことになっちゃうよね。
よ、よーし。こうなったら!
「カカ・ムラド、ありがとう~」
最初の節回しはこれでなんとか、あたしに回ってきたのをこなすことができた。
「中村哲さん、ありがとう~」
これで次の節回しも。
「アフガニスタンのひとたちも、ありがとう~」
よし、みっつめの節をクリア!
「21世紀の時代から、生きものの緑の大地と、海とを残してくれた、活動を地球で続けてきたひとたちに、ありがとう~」
「絵美……」
ジョニーが歌詞を聞いて、あたしの目を見る。ドキッ。ほんとに即興というか行き当たりばったりもいいところだったのが、バレちゃった!?
「シンプルでいいね! 僕も歌おうかな?」
あ、褒めてくれたんだ! 良かった。
「カカ・ムラド、アフガニスタンのひとたち、地球で緑の大地と海とを残してくれたひとたちに、サンクスフォーエバ~」
ジョニーの、火星と地球の行き来をコールドスリープで6年眠っていたために、まだ声変わりをしていない高い響きがあたしと和する。
「ハハ、若い恋人たちはいいね! シュクラン~」
4WDのジープを操る運転手のガブリさんもあたしたちの歌にアラビア語の「ありがとう」で参じた。
「グラシアス~」
「メルシ~」
「ダンケシェーン」
「グラッツィエ~」
「オブリガード~」
「多謝」
「カムサハムニダ」
みんなであたしの歌の「ありがとう」のサビを、いろんなところの「ありがとう」に変えて、応用を効かせていく。うん! もうドッキドキの即興詩だったけど、こころよく受け入れてもらえてほんとに良かったよ。
『モタシャッケラム、スパース、テシュッキル・エデリム……』
大天使ジブリ―ルさまがジープの外で、スズメ柄の翼をはためかせながら続いて歌うのは、ペルシア語やクルド語などの「ありがとう」だ。さすがは言葉を司る大天使と伝わるジブリ―ルさま、いろんな地域の「ありがとう」をよく覚えていらっしゃるね。
「ジョニー、絵美。そろそろ到着だよ! 新しい守護者の誕生を見られるなんて、俺は何と幸運なんだろう!」
ガブリさんは感極まった様子で、歌うように熱っぽく言葉を紡いだ。
ガンベリ記念公園。約200年前、クナール川の用水路建設を祝して造られ、砂漠にバラの花が咲き、地域のひとびとが静かに愛でたと伝わっている。23世紀の今はアフガニスタンの緑野に満ちた場所のひとつとなった庭園がジープの窓の向こうに見えてきた。
車が止まる。穏やかな風が木々の葉を揺らし、地域のひとびとがぽつぽつと思い思いの木陰でくつろいでいる庭園、ガンベリ記念公園へと、あたしたちは到着した。
「ジブリ―ル、今回の儀式は……?」とジョニー。
『前回と同じです。ふたりで視線を交わす、ですよ』
ジブリ―ルさまが微笑んで答えた。良かった! それなら今回もぜんっぜん大丈夫だね!
(続く)
次回予告
ジョニーと絵美が呼び起こす、アフガニスタンの新たな守護者とは……。9月中旬の投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりダラズさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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