見出し画像

創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」42話 恋人たちはノマド .af(アフガニスタン5)

41話のあらすじ

アフガニスタンの東部、200年よりも前に中村哲氏と彼を支える日本と現地のひとびとが力を合わせ、砂漠を緑の大地に変えたところにある、ガンベリ記念公園。そこへと向かうあいだ、運転手のガブリに誘われてジョニーと絵美は即興の詩を口ずさむ。絵美はシンプルに、20世紀の末に無医村へ赴任し、医者としてひとびとを見捨てておけないと、35年の歩みを通して、用水路の建設まで至った中村哲医師へ「ありがとう」の歌を贈る。そして彼を支えともに用水路を作った現地のアフガニスタンのひとびと、今日の23世紀までを、地球の各地で緑の大地と豊かな海を守るために奮闘したひとびとへも「ありがとう」を歌い、ジョニーやガブリや、大天使ジブリールらが世界の「ありがとう」の言葉で和したのだった。

42話

場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 18才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること

中村哲医師が始め、2022年には現地のアフガニスタンのひとびとの力をもって建設をできるようになった、用水路。そのひとつ、真珠を意味するマルワリード用水路は今もガンベリ沙漠を流れ、緑の大地を不毛の山のふもとに保たせている。

ガンベリ記念公園は、2019年12月に何者かによって銃撃され、現地のアフガニスタンスタッフたちとともに命を失った、中村哲医師をしのんで作られた記念塔が建っている。

公園のなかでは木々は梢を風に揺らし、バラは咲き、公園にも来ている水場では子どもたちが遊んでいる。木の陰で大人たちは憩い、この地が200年前には飢餓や病気で苦しみ、争いをしなければ生きていけなかった土地だとは、とても思えなかった。

『こちらですよ、ジョニー、絵美』

大天使ジブリ―ルがはばたき、記念塔の前に舞い降りた。

「えっと、アラブ首長国連邦のときとおなじで、視線を交わす、でしたよね」と僕。

「なんだ、それだけで我らのアフガニスタンを護る、新たなガーディアンが来てくれるのかい!?」と、ここまで4WDのジープで僕らを連れてきてくれた運転手のガブリさんが驚いた。

「それだけじゃもったいないよ! そうだ、歌と踊りを付けよう!」
「え、ガブリさん! あたしたちはそんな、急に歌とか踊りとかは無理かも」と絵美が遠慮をしている。
「だってガーディアンをお迎えするんだよ!? 視線を交わすだけじゃ恐れ多いじゃないか」とガブリさん。

んん? なんだかちょっと、ハイな方向に話が向かってきたぞ。

「……やってみるかい、絵美? 歌なら、絵美がさっき作った素敵な『ありがとう』の歌があるじゃないか」と、僕もガブリさんのノリに応じてみた。

「ええ、歌に合わせて、踊りも!? 日本人はそんな、盆踊りとかがごくたまーにあるだけで、ダンスはプロのひとと、レッスンを受ける熱心なひとがやる趣味教養みたいなものだから……21世紀にはTikTokっていうスマホのアプリで踊る子も増えたっていう話は聞くけど、あたしは……」

恐縮する絵美。

「大丈夫、大丈夫! 歌はさっき絵美が作った節回しで、じゃあ、踊るのはオレがやろう! 絵美は手をたたいて楽器の代わりをしてくれたらいいよ。ジョニー、君は踊れるのかい?」とガブリさんが笑った。

「ダンススクールにすこし通った経験はあります、ガブリさん」
「なら決まりだ! オレの動きを真似てくれ。そんなに難しいのはやらないから」

ガブリさんはそう言うと、ガンベリ記念公園のなかで、手拍子をとって足踏みをし始めた。どことなく、ガブリさんの故郷エジプトがある、アフリカを感じさせるリズム。絵美が遠慮がちに、手拍子を始めた。

僕もガブリさんの足さばきを真似て、なんとかついていく。

「さあ、絵美、さっきの歌を! 中村哲さん、ありがとう~♪」と、踊りながらガブリさんが歌う。なんという身体能力と、歌と踊りへの慣れだろう。

「アフガニスタンのひとたちも、ありがとう~」と、手拍子を打ちながら絵美が続いた。

「21世紀の時代から、生きものの緑の大地と、海とを残してくれた、活動を地球で続けてきたひとたちに、サンクスフォーエバー♪」

うん、歌と踊りも、このくらいなら僕にもなんとかなるぞ。なんだろう、ハートが高揚するこの感じ。歌を合わせて、踊りを合わせていると、言葉にならない……それこそ、三次元世界の向こうの無形無音の大いなるひとつの神さまに、自分のハートやみんなのハート、そして世界がつながっているって、感じられるような。

かつてのアラブの地域にあった最古の神話、ギルガメシュ叙事詩も形は歌だし、インドの古い物語も。日本の神話でも、歌は特別なものとして扱われている。もしかすると、その時代ごとに信じられる神々、あるいは無音無形の大いなるひとつの神さま、地域によっては仏さま、と移ろいゆくなかで、ひとびとは歌や踊りのなかに感じられるこのハートの高揚をこそ、信じてきたのかもしれない。それなら、神さま嫌いがなかなか治っていない僕にも理解が出来そうだ。

「絵美……!」

僕は、高ぶる気持ちのなか、絵美の瞳を見つめた。絵美がうなずいてにっこりと笑い、視線を返してくれる。

すると、ガンベリ記念公園に咲くバラの花の甘い香りが強くなり、水滴がさあっと水場から上空に向かって吹き上がり始めた。中村哲さんの記念塔にその水滴で虹がかかり、その向こうから……伝統の美しいアラビアの衣装とスカーフを身にまとった女性が現れた。印象的な強い力を帯びた瞳が、顔を覆うスカーフのなかから僕らを見つめる。

『……私はナーゾ。ナーゾ・アナー。アフガニスタンの母』

女性は柔らかな声で、僕らにそう告げた。

(続く)

※ ナーゾ・アナー、アフガニスタンの母と呼ばれる彼女は、パシュトゥンの女流詩人です。留守中に攻めてきた敵に対し、自ら戦い、守り通した勇敢な戦士であったとも伝わります。

次回予告

新たな守護者ガーディアンであるアフガニスタンの母、ナーゾ・アナーと、ジョニーと絵美たちは用水路の地域に中村哲医師が建て、現地のひとびとに運営を任せたと伝わるマドラサ・モスクへ。10月中旬ごろの投稿を予定しております。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりT_GAIさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。



いいなと思ったら応援しよう!