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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」 46話 恋人たちはノマド.af(アフガニスタン9)

45話のあらすじ

ジョニーと絵美が語った火星の体験をじかに聞いて、火星へ行きたい、あるいは地球のなかで、地元アフガニスタンにいながら宇宙や地球の別の場所のひとびととつながってみたい、とさまざまな夢を持つ子どもたち。絵美たちは、彼らの望みが叶うようにと、ひそかな祈りを捧げたのだった。

夜になり、闇と無数の星々の浮かぶ空、そのひとつの小さな星として輝く火星を見つめて、ジョニーと絵美はお互いの好意を確かめた。気づいた運転手のガブリは、男女の戒律に厳しいイスラムのひとびとへそのことがバレないよう、歌を歌ってくれた……。

46話

場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 18才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること

中村哲さんが建てたと伝わるイスラムの学び、マドラサでアフガニスタンの子どもたちや、大人のひとたちに僕らの火星滞在体験の話を伝える仕事は終わった。

ガブリさんの運転する4WDの車に乗って、でこぼこの道を僕らはカブールのみやこまで戻ってきた。

ヒマラヤ山脈にもつながる、7000メートル級の山々がそびえる高地から、はるか彼方かなたの地でインダス川と合流する大河川、カブール川。アフガニスタンの首都カブールは、その流域にある。

23世紀の今は、カブールもそうだけれど、地球のあちこちに川の下流域のひとびとが洪水に見舞われそうなときには水路によって町の地下へ水を引いて貯め、渇水かっすいの時期には貯めた水を放出する巨大な地下貯水池がある。そして、そこへ流れる地上の水路には無数の水車が回っている。

水車はそれで町の発電の一部を担っていて、23世紀までにたくさん建てられた植物工場ビル、世界樹ビルでの作物栽培の動力のひとつともなっている。

世界樹ビルの屋上では360度どこからの風からでも発電できる風力発電、太陽に向かった一部の壁面では太陽光発電。そして世界樹ビルの足元の水路に回る水車によっての水力発電、これらによって冬場のきつい寒さのなかでも、人間と動物と植物とが快適に暮らせる空間が、このカブールの町に保たれている。

僕と絵美は、仕事終わりのオフタイムを、カブールの町散策に当てることにした。21世紀のアメリカ軍撤退のあとの大混乱と、干ばつや洪水、大寒波によってひとびとが次々に餓死や病死をしていく当時の様子はもう、まったく無くなっている。

きらきらと太陽の光を受けて透明な植物樹脂の壁が輝く、世界樹ビルが林立した、水路の巡る美しい町を絵美と歩く。道ですれ違う地元アフガニスタンのひとびとの表情も明るい。

「ひよこ豆のスープはいかがかね~? 我がアフガニスタンの、カブール発祥ともウワサのカブリ豆だよ~!」

道の脇で露天商をしているおじさんが、気さくな笑顔を浮かべて声をかけてきた。

「おなかがすいたね、ジョニー」と絵美。
「うん、じゃあお昼はひよこ豆のスープにしよう。おじさん、ふたつください」
「はいよ! リサイクルカップとスプーン、お土産用のカップとスプーン、どっちがいいかね」とおじさん。

リサイクルカップ、そしてスプーンというのは大地に素早く還元できるようになった可食プラスティックという、生きものが食べても無害な素材のカップとスプーンだ。だからポイ捨てしても微生物や小さな生きものたちのエサになって海や川や土地が肥えるくらいなんだけど……。

大地に還元中の可食プラスティックであっても、危険な形になってしまった破片をそこそこ大きめな生きものが飲みこんでしまったら胃や腸を痛めて死んでしまう問題は残っている。

そして、ポイ捨てのゴミが散乱するのは町の景観も悪くなるから、売ったお店によってリサイクルカップとスプーンを回収する仕組みが、23世紀の地球のテイクアウト飲食を提供する、こうしたちいさな露店に至るまで、すべてで採用されている。

お土産用のカップとスプーンは、その土地の素材と文化を活用した食器だ。世界中の観光地に行って、それぞれの土地のカップやスプーンをコレクションするひとたちもいるらしい。

「絵美、どっちがいい?」
「ふふ、あたしはお土産用のカップとスプーンがいいな! このお仕事を終えたときにだって、アフガニスタンのカブール、世界樹ビルの町へ行ったふたりの思い出を残せるもん」
「確かに」

アセンション島、アンドラ、アラブ首長国連邦、そしてアフガニスタン。始まったばかりの旅の地でこの調子だと、僕らの乗るメタルクラッド飛行船がお土産でいっぱいになっちゃいそうだ、とも思うけど。そのときは、グレイ宅急便にお願いして、UFOの3分配送をしてもらおう。

そのうち世界のお土産用カップとスプーンを飾ったコレクションハウスを作る……なんていうのも、面白いかもしれない。そのとき、コレクションハウスを運営するのは僕と絵美の夫婦……。

……ふたりの甘い思い出を形にして残したい気持ちは僕も同じだよ、絵美。

「おじさん、お土産用のカップとスプーンをお願いします」
「はいよ~」

僕らはスープを受け取った。スープの入ったカップは、イスラム様式の模様が施された立派なものだ。スプーンだって、その立体的な装飾が美しい。

「いただきます!」
「いただきます」

僕と絵美はベンチに座り、カブールの町の水路にくるくると回る水車をふたりで眺めながらひよこ豆のスープをスプーンで口に運んだ。

……絵美とふたりでの食事はやっぱり、おいしいな。

(続く)

次回予告

メタルクラッド飛行船のあるカブール空港へ、ふたりは戻る……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりおかのくらさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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