創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」 43話 恋人たちはノマド .af(アフガニスタン6)
42話のあらすじ
大天使ジブリ―ルや運転手ガブリの見守るなかで、ジョニーたちはアフガニスタンの新たな守護者を儀式によって呼び出す。現れたのはアラビアの衣装をまとい、スカーフで顔と髪を覆った一人の女性。彼女はナーゾ・アナー、アフガニスタンの母とされる女流詩人だった。
43話
場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)
記録者: 絵美(エミ) マイジェンダー: やや女性 19才
出身地: 日本 趣味: ネコとたわむれること
『あれ見よ、楽園に入れていただいたひとびとは、今日、楽しむことに忙しい。妻たちもいっしょに、涼しい木陰に置かれた美しい寝台に身をもたせかけて。あそこでは果物は食べ放題、欲しいものならなんでもある。平安あれと、慈悲深いアッラーからお声がかかる……』
真っ青な空のもとで、ナーゾ・アナーさんがコーランの一節を歌う。女性のなかではハスキーな、芯の通った綺麗な声。日本だと、ドリームゲームで聞いたことのある中島みゆきさんな感じの、雰囲気とトーンだ。
すっごーい! コーランは、23世紀の今からすると、1000年以上も昔の書物だよね。そこに書かれたひとつの節が、23世紀のガンベリ記念公園と、アフガニスタンの地のことをちゃんと表しているんだもん。
ううん、今はため池や自然に負荷をかけない水路の作り方が地球の各地で採用されて、実りの多い地域が21世紀よりも確実に増えているから、世界の予言みたいなもの。1999年7の月、とかのヒドイ未来を伝える書物やひとの言葉は、ことごとく外れて、23世紀の今ここを表した内容がコーランにある。ほんとに大いなるひとつの神さまってもしかしたら時を超えていて、詩というのは、それを直感で、詩人がどこかの時代につないでいくのかも。そう思えちゃう。
ナーゾ・アナーさんが歌い終わり、スカーフのむこうの強い力を持った瞳があたしたちを、そしてこの緑野に代わったガンベリ記念公園と大地を見て、ふっと緩んだ。
『……何千年と、戦と飢えとの苦しみに、奪い合いをしていた我らの地が、このように豊かな緑を持ち、食べ物がそこかしこに実る時代を迎えられた、なんと喜ばしきことだろう。ジョニー。絵美。200年のあいだ、その方向へと努力をしたこのアフガニスタンの地のことを、そして世界中の自然を守り、海と陸との実りを護ったひとびとのことを決して忘れないでほしい。戦争も自爆テロもない。ひとびとが奪い合い、戦い合わずに済む時代を迎えた、このときのことを』
ナーゾ・アナーさんの言葉は、どこか詩的な感じだ。
「はい、ずっとずっと、忘れません! こんにちは、アフガニスタンの新たな守護者のナーゾ・アナーさま」
あたしはペコリと頭を下げて挨拶をした。
『ははは、絵美、私はナーゾと呼んでくれればいい』
そのふるまいや雰囲気には、確かに戦士のような凛々しさも。ナーゾさんは詩人でもあるけれど、彼女がこの第三次元世界に生存していたとき、敵が夫の留守中に攻めてきたときには、自ら武装して戦った、と伝わる勇敢な戦士。その雰囲気をお話ししていると、強く感じる。
「ナーゾ! 我らがアフガニスタンの母に平安あれ!」と、ガブリさんが感極まった様子で祈りの姿を彼女の前に見せた。イスラムのモスクで、みんながいっせいに行う、あのかたち。
『祈りが今も、この地に続いていることを祝福しよう。ガブリよ、貴方にも祝福を』とナーゾさん。
「アッラーに、この出会いの見届けを出来たことへの感謝を」
ガブリさんは、神さまへの思いを口にした。
「ナーゾ・アナー。ハ、ハロー、僕はジョニーです。よろしくお願い致します」と、どことなく緊張気味のジョニーが次に挨拶をした。
『ジョニー。そんなにも緊張をしているのは、なぜかな?』
ナーゾさんが問う。
「過去にアフガニスタンを苦しめた大国のひとつ、大英帝国の末裔でもあるので」と、苦い表情のジョニーが答える。
『慈悲深く慈愛あまねきアッラー、そのお方が、罪びととなった者の子どもも同罪、と決めたことはない。ジョニー、君の来訪をこころから歓迎しよう、旅人をもてなすパシュトゥンの者として』
「……ありがとうございます」
ジョニーは淡く微笑み、ナーゾさんにお礼を言った。
『さて、行こうか。中村哲、かの誉れ高き天の道を歩んだ男が、我らが大地のひとびとのために建設したマドラサ・モスクへ』
ナーゾさんがそう言って、あたしたちはアフガニスタンの子どもたちが待つイスラムの祈りの場であるモスク、その近くによく作られる学びの場のマドラサへとガブリさんの運転する4WDジープを使って移動することになった。
(続く)
※ マドラサは、イスラムの学び舎です。コーランを中心に、さまざまな学問を出来るところだそうです。
次回予告
マドラサで、ジョニーと絵美は子どもたちへ火星滞在の経験を伝えます……。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより円10(えんどう)さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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