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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十八話「台湾へ」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

四十七話のあらすじ

偽司祭の悪鬼ファルソディオをなんとかしようと、大陸の五つの秘宝、大海の七つの秘宝を求め、澳門マカオの港から旅立とうとする信長公一行。海の女神、媽祖まそさまに加え、ポルトガルの守護聖人アントニオ氏も見送りに来ました。彼から渡された地図によって、ひとつめの秘宝は琉球、北の蝦夷の地、李朝りちょう(李氏朝鮮)そして台湾のよっつの地のどこかにある、と目星がつきます。澳門マカオから、ほど近い台湾に向けて、一行は船出をしたのでした。

四十八話

大陸と台湾とをへだてる海峡は、屈指くっしの難所である。小さな船では到底渡れないほどの波の荒さで有名だった。日本は戦国の世であり、大陸の東では明国の治世のこの時代、台湾の島々にはオーストロネシア語族と呼ばれる南方の海とつながりのあるひとびとが住んでいた。彼らははるかな地マダガスカル、太平洋の島々、ポリネシアやマレーなど、海を介して広範囲に文化を持っていたが、大航海時代のヨーロッパからは野蛮人とされ、また、明の国からも未開の地の者たちとされていた。

澳門マカオを出港してまもなくのこと。空も海も青々と広がり、まだ難所という雰囲気はない。信長たちは甲板に出ていた。

「蘭丸よ」

「はい、何でしょう、上様?」

信長の呼びかけに、ジョアンが小首をかしげる。

「これからわしらは台湾という大きな島を訪れるわけじゃが、おぬしの知るこの地は、どんなところじゃ?」

「そうですね、ポルトガルの船乗りが初めて島を見たときに『Ilha Formosa(麗しの島)』と感動して声をあげたので、僕たち西洋から来た人間はフォルモサ、と呼んでいます。一応、上陸も果たしてはいるんですけど……その、現地のひとたちと上手くいかないみたいで」

「アフリカでもどこでも、同じだ、ジョアン。銃を持って脅してきたのはあっちなのに、オレたち白人でない者はいつも奴隷か悪者にされる」

弥助が苦い表情を作る。

「ファルソディオみたいな船乗りも、少なくないのは確かです、弥助兄さん。ただ、それでも台湾の島は……首狩り、という風習があるそうで」

「首狩りとな?」と信長。

「はい。背後から襲われて、首を切られる船乗りが多発していて、なかなか島の奥へと進めないといううわさがあるんです、上様」

ジョアンの言葉を聞いて、元武将の棟梁は、かかか、と腹の底から笑い声をあげた。

「儂とて同じぞ、蘭丸。戦国の世に、いくつ敵将の首をあげたかのう。首をあげるという行為は、西洋のおぬしらには説明がしにくいやもしれぬ。面白い、台湾の島の者たちに会ってみとうなってきたわい」

「せやけど信春はん、大陸から台湾の島への海は荒すぎると言われてまっせ? それに島言うてもかなり大きいですやん、どないしまひょ。媽祖さまやアントニオはんのような、案内の方々がおられるとええんやけど」

助左衛門がそう思案していると、海と空の真っ青な景色の彼方から、小さな雲がやって来た。その雲には蓮華れんげの衣装を身にまとった少年が乗っている。

『あっ、哪吒なただッ!』

キャラック帆船「濃姫号」の帆柱にヒョイと腰を掛けて、それを見ていたゴブ太郎が声をあげた。

『はいはーい、媽祖姉さんに頼まれて、やって来たよ! ぼくは哪吒、台湾の島にはこのぼくが案内するねっ!』

少年神、哪吒は元気良く一行に告げた。

(続く)

※ 日の本の戦国時代である1582年の台湾は、フィリピン島のひとびとと強く言葉のつながりのある南方系のひとびとや、さまざまなオーストロネシア語族と呼ばれるひとびとが暮らしていました。彼らの守護をされている神さまがたのことは、次回以降に。

※ 哪吒さまはインドから中国へと物語が伝えられてきた古い時代からの神さま(仏さま??)です。ヒンドゥー教、仏教の伝播と道教とが合わさり、神話と仏教とが混在する物語が広く東洋に伝わります。澳門にも古くからの哪吒さまを祀る廟があり、台湾では広範囲に今も信仰されています。この物語では、西遊記に登場する哪吒さまの設定をお借りし、天帝の部下として孫悟空と敵対したのち、三蔵法師の一行を手助けしたように、信長公一行をフォローして頂く存在として描いています。大暴れした方のさまざまな伝説は、割愛かつあいということでお願いします(笑)

次回予告

哪吒さまの協力を得て、信長公一行は大陸と台湾のあいだの荒れた海を越えます。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより亜美さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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