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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六話「ルイス・フロイスと会う」

登場人物紹介

織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人となって一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。

助左衛門(すけざえもん) 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。

五話のあらすじ

天使ナナシの啓示により、信長公たちが、イエズス会の実力者であるルイス・フロイスの協力をもらえるよう、司祭フランシスコは約束します。しかし京の町は、本能寺の変による臨戦態勢。およそ二週間が経ち、秀吉の大返しによって光秀側との山崎の戦いを終わったころ、ようやく会えることになったのでした。

六話

至急の要件にて、来られたし。

イエズス会の同士フランシスコから知らせを受け、ルイス・フロイスは京の都へとやって来た。本能寺の変から二週間が経っている。信長を裏切った明智光秀と、仇を討つべく西の地から飛んで戻ってきた羽柴秀吉との山崎の戦いが終わり、都はにわかに落ち着きを取り戻したようだ。

安土(あづち)の城下町にて、城と同じ瓦を用いてセミナリヨ(イエズス会によるカトリックの神学校)の建設すら認めてくれた信長が討たれた。そのことにルイス・フロイスは胸を痛めた。

ルイス・フロイスは、信長に対して苛烈な戦国の棟梁(とうりょう)のひとりではあるものの、新しい知識や技術を旺盛に吸収し、治世に活かそうとする姿を見て、常々(つねづね)好ましく思っていた。結果、日本についての彼の後(のち)の記述である「日本史」には、信長には終始好意的な描き方があり、神の教えについては興味も無く冷淡な光秀のことについてはさんざんな悪口で書いてしまっていることはご愛敬なのかもしれない。

本能寺近くの教会に着き、司祭フランシスコから「同士ルイス、私は奇跡を見たのです!」と息も荒く告白を受けて怪訝な気持ちになっていたルイス・フロイス。

そんな彼も今「奇跡」を目(ま)の当たりにしていた。

「……久しいのう」

教会の脇に作られた、生活の場として使われている簡素な食堂に通されたルイス・フロイス。そこで彼は、本能寺の変にて亡くなったはずのそのひとが、笑みを浮かべているのを確かに見たのだった。

アレルヤ!

信長と、その背後の宙に浮いている天使ナナシを目に留め、ルイス・フロイスはイエス・キリストに祈りを捧げた。

「十字架からの御身(おんみ)の復活がまことであったと、今ここに改めて信じます、主よ……!」

「うむ、おぬしらの言っておった天使に救われたのだ。のう、天使ナナシよ?」

『ええ。ルイス・フロイス、このことは周りに秘密にしておいてください。織田信長という人物は、確かに本能寺で亡くなったのです。ここにいるのは小田信春(おだのぶはる)という一介のひとですよ。彼はこれから弥助というここにいる黒人侍のために、アフリカへと向かうのです。その助力をと思い、わたくしの啓示によりあなたに来てもらいました』

「……天使のお告げとあれば了承致します! しかし天使よ、あなたは本当に天使なのですか? 奇跡がこのように起こるのならば、善人だけを選び取り、世界をすぐにイエス・キリストのもとにまとめることも出来ましょうに」

『あらゆる存在の、あらゆる意思をお認めになった上で、善人の献身と犠牲とをもって牛の歩みを往(ゆ)くところがこの世界なのです。イエス・キリストは茨(いばら)の道を選ぶ善人や献身を知る善人をを必ず天へと迎え、そして悪逆の徒にも再起の道を示します。彼はわたくしとの、弥助をアフリカへ送り届けるという約束を持って第二の人生を歩むこととなったのです』

「そうとあれば……助力致します。しかし、できれば、上様。あなたにはもっとこの日の本の地で活躍し、ゆくゆくは日の本の統一をして頂きたく思っていました」

すこし残念そうな顔をするルイス・フロイス。

「藤吉郎(羽柴秀吉)がすでに力を持ち、十兵衛(明智光秀)を討ったのだ。流れはそのほうへと向かおう。藤吉郎を頼るが良い。儂(わし)が天使に救われてここに在るのは、戦(いくさ)のためではのうてな。天使の言うたとおり、上様ではなく一介の名も無き者として、ここにいる黒人侍の弥助とともに航海の旅を始めるのだ」

「なんと。アフリカへの航海をしたいと……!?」

「そうじゃ。船で商売をしながら行こうと思うておる」

「ハハハッ、実に上様らしい」

ルイス・フロイスは、信長の変わらなさに微笑んでしまった。

「じゃから、上様ではもうないと言うておるに」

「私の中では、上様はずっと上様です。分かりました、アフリカへ行くまで、上様たちが私の書状を持ってポルトガル海上帝国の港で便宜を図れるように致しましょう」

「おお、感謝致すぞ、ルイス!」

「しかし、アフリカまで船での商売をしながらとなると……帆船や、商売の品物が必要になりますね」

「そうじゃな。……商売の品にはちと心当たりもあるが、アフリカまで行ける帆船をどうするかじゃのう。殿でもなくなった儂が、鉄甲船(てっこうせん)のように銭と人とを使って派手に作るわけにもいかぬしな」

『帆船ですか……それならば、こちら側の者たちのつながりで何とかなるかもしれません』

天使ナナシが玲瓏な声を発した。

『海坊主(うみぼうず)という妖怪が、堺(さかい)の街の南方、紀の国に住んでいます。彼が沈めた数々の船から、帆船のひとつくらい、直したものを譲り受けることは出来るかもしれませんよ』

「なんじゃ、ルイスの言う通り、儂を助ける奇跡を起こせるくらいなら、帆船のひとつもぱあっと出して見せれば良いのにのう!」

『いえいえ。あまりわたくしが介入しすぎても、公、あなたは面白くないはずです』

「ははは、確かにな! よく分かっておるわい。あい分かった、紀の国の海坊主に会いに行けば良いのだな。ルイス・フロイスよ、では儂らは帆船を得にそこへ行く」

「ならば上様、航海に必要な手はずを私はその間に整えます。堺の街でまたお会いしましょう。上様の、秘密の新たな人生に関われることを神に感謝して」

「まことにな。天使も妖怪も、戦国の辛(つら)き世ではおらんものと心得て、ウソの話に騙される者らを馬鹿にすらしておったがのう。こうも姿を確かに見せられ、奇跡を起こされては信じるほかあるまいて。この世界は、面白きものよ!」

「本当ですね……! ハハハ」

信長とルイス・フロイスは、心の底から笑い合った。

こうして、信長公の第二の人生、不思議な存在が確かにひしめく現世とすこし異なる世界での長き旅は、紀の国へという小さめなものながら、いよいよ始まるのだった。

(続く)

次回予告

七話は、紀の国の港へとやって来た信長公は、妖怪、海坊主の話を聞くことになります。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより長谷川 晃子 / happiness music stさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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