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~神話・民話の世界からコンニチハ~ 13 世界の蛇エインガナさま


おはようございます。今日は梅雨の季節の貴重な青空になりそうです。

第十三回は、オーストラリアの先住民族、アボリジニの数ある部族のうちの一部に伝わる神話から。虹の蛇、世界の始祖の蛇と言われ、あらゆるものを飲み込み、そして体から出すことで世界の死と再生を司る女神の蛇エインガナさまのお話&エインガナさまの出産を助けた老人の精霊、バルライヤさんとのインタビューです。

今回のお話

それは世界の始まりの時代、一匹の大きな女の蛇の神さまがいました。それが始祖の蛇、エインガナと呼ばれる女神さまです。アボリジニたちは、エインガナさまを母と呼びます。エインガナさまは、水、石、木、人間など、すべてのものを造り出しました。すべての島、大こうもり、カンガルー、エミューを創造しました。エインガナさまは、あの原始時代の全生命をも身ごもっていたのです。

始祖の蛇の女神、エインガナさまは、あらゆるもの、そして生命を飲み込み、その母胎に宿していました。母胎にあらゆるもの、生命を連れて、水の中に入りました。そしてふたたび、水から浮かび上がりました。そして岸辺に這い上がりました。生命は、もう生まれそうでした。エインガナさまは、陣痛の苦しさに、地面の上を転げまわり、うめき声をあげました。すべての人間、すべての命、あらゆるものを腹に宿しての陣痛ですから、その苦しみは計り知れないものだったのです。

すると、その苦しみの声を聞いて、老いた精霊のバルライヤが現れました。バルライヤは旅の者で、あちこちを旅するあいだ、ずっとエインガナさまが陣痛により、転げまわって苦しみ、うめき声をあげるのを聞いていました。

バルライヤはエインガナさまの近くにそっと近寄りました。大蛇のエインガナさまは、痛みで地面を転げまわり、陣痛の痛みによる叫び声をあげています。バルライヤは投げ槍(やり)を準備し、エインガナさまをよく観察して、槍を投げる必要のある場所を見定めました。そして、エインガナさまの肛門のすこし前にある、命が出てくるところの入り口に槍を投げて当てました。そこからはおびただしい血が流れ、そのあとに、人間や、あらゆるものが出てきました。


……古代の帝王切開による、世界の出現だったんですね。世界の誕生については、地球のあちこちの地域で、さまざまな神話が語られていますが、アボリジニのひとびとのこのお話では、何も無かったところに世界が誕生するのではなく、世界の中に世界が誕生するという、始まりと終わりの無い時間感覚があるように感じます。時計が無く、日が昇り、日が沈み、その豊かであり、恐れでもある自然の世界のなかで狩りをしたり、祈りの踊りをしたり、絵を描いたりしながら、ずっとこれまでに続く長い生活をしてきた中での神話ということなのでしょう。それでは、老精霊バルライヤさんとのインタビューと参りましょう!

すー: バルライヤさん、よろしくお願い致します。世界のあちこちを旅していても、ずっと聞こえてくるエインガナさまの産みの苦しみのうめき声というのは、相当大きなものだったんでしょうか。

バルライヤ: 旅の者のわしが、手を添えて助けようと思うくらいにはな。あれはほんに大変じゃった。

すー: お話の中には、この世界の出産の後に蛇の女神さま、エインガナさまがどうなったかは無くて……。日本の神話だと、イザナミさまという、日本の国土と多くの神々をお産みになった女神さまがいらして、最後に火の神さまであるヒノカグツチさまをお産みになったとき、それで体を焼いてしまったために、亡くなってしまうというお話になっているんです。エインガナさまのお話も、出産という行為が、とても危険で苦しく、辛いものであることが強調されていますよね。そこに共通性を感じます。

バルライヤ: 精霊のわしらや、世界の女蛇エインガナさまが存在する、そなたら物質の三次元世界からすこしだけ遠い世界は、滅びが無い。始まりにあり、終わりに迎えに来る者……それがひとの生と死であれ、世界の生と死であれ、生み出し、また飲み込みにくる者がエインガナさまということじゃ。

すー: そこは、オニャンコポンさまやナナ・ブルクさまやアメノミナカヌシさまのように、始まりにあって、終わりが来るときまでは、今は身を潜めて世界を見守る存在、という現在性が強い神さまがたから一歩進んで、ひとびとと世界とが永続していくという、輪廻転生や、世界の各地に派生している世界の終末と再生の物語や、もろもろのことをまさに飲み込んで成り立つ神話ですね。アフリカの地にも永遠の蛇という伝説があり、巨大な蛇が世界を保っているという考え方が残っています。そして、北欧でも大きな蛇が自らのしっぽをくわえて大洋をぐるりと囲んで円環となっているために世界が保たれているという伝説があります。どうも、オロチ退治や竜退治の伝説が広まる前の私たちの歴史は、まさにこのアボリジニに伝わるエインガナさまのように、蛇を世界の根幹と見る考え方をしていたようです。日本では、龍神さまという水や風などの流れを司る神さまの考え方が強く残っていて、スピリチュアル的に龍神さまに守ってもらおう、という方法が本になったり、このnoteでもそうした龍使い、龍に加護を受けた方、という方をちらほらと見かけます。……その考え方でいけば、昔から氾濫を起こしてきた河川や、激しい雨と風の現象である竜巻というのは、蛇神さまの延長線上である龍神さまがたのお体そのもの、という認識もあながち間違いでは無いですよね。人間が制御することのできない自然の猛威。ドラゴン、というトカゲの親玉みたいな姿で火を吐くとも表されますけど、火山の噴火や自然の山火事をもそれが表現するのだとしたら、現在地球のあちこちで発生する火山活動や大雨や台風や、洪水、山火事などは、ドラゴン、竜、龍神さまがたの猛威と感じられます。最近の異常気象とは、適度な治水や里山のような森林の開発、管理によって人と自然との長い間バランスが取れていたのを、最近の私たちの技術や手軽な便利さに特化された文明が自然を荒らしすぎていることに対する、自然のぬしさまがたである彼らからの警鐘なのかもしれませんね。バルライヤさん、どうもありがとうございました。

十三回「~神話・民話の世界からコンニチハ~ 13 世界の蛇エインガナさま」は以上です。


今回はちょっと真面目なお話に寄りすぎたかもしれませんが、すこしでも楽しんで頂けたなら、それに勝る喜びはありません。

ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。

「~神話・民話の世界からコンニチハ~」終了のお知らせ

おかげさまでご好評を頂き、これまで掲載してきましたこの世界各地の神話・民話のご紹介&神さまがたとのインタビューですが、切よく、世界の永続のお話であるこの第十三回をもって、一旦終了と致します。

そして新しく、神話の時代と、未来とをつなぐ作品「ガーディアン・フィーリング **年後は孤独じゃなかった」という物語を新たに始めます!

ジャンルは一応、サイエンスファンタジー風味な創作神話。

時は2222年2月2日、にゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん、2が6つ揃うスペシャルなネコの日に、火星の自然創生コロニーというところでで生活する少女の記録から始まります。ガーディアン・フィーリングという、過去の地球のあらゆる神々や英雄や、仏陀やイエスなどの聖なる方々、歴史上の偉人、そして太陽や地球や月、シリウス、アルデバランなどの太陽系やその外の大きな存在の意識、昆虫や微生物、菌などの微小な存在の意識、鉱石、植物、動物、亡くなった先祖や家族、友人たちともコミュニケーションのとれる機械があり、その通信端末である「コミュニ・クリスタル」が出来ていて、それを頭部にアクセサリーのように身に付けることで、少女はひとりコロニーで生活していますが、それほど寂しくは無い人生を送っています。別のコロニーにいるボーイフレンドや、地球の家族、友人たちや、ホログラフ(立体映像)で立ち現れる幾多のガーディアンたちと話しながら……。そんな、未来の日々をつづるストーリーです。どうぞ、今後はこちらの作品をご愛顧頂ければ幸いです。

更新は、毎週土曜日。さっそく来週から掲載の予定です。

見出しの画像はみんなのフォトギャラリーから、よしつぐ峻平さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

※ 2020.10月 追記

一旦この回で終了しました「~神話・民話からコンニチハ~」ですが、ご好評のようなので、11月から再開します! 次回は最古の英雄譚のひとつとも言われるギルガメシュ叙事詩から、お話のあらましの紹介とインタビューを予定しています。どうぞ、お楽しみに~。

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