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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 十四話「焼き物の割れを防ぐ信長公のアイデア」

登場人物紹介

織田信長(おだのぶなが): みなさんご存知、尾張(おわり)生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人となって一番のお気に入りだった黒人侍弥助(やすけ)をアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助(やすけ): 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発(た)つ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。

助左衛門(すけざえもん): 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久(いまいそうきゅう)の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋(なや)または呂宋(るそん)助左衛門。

十三話のあらすじ

海坊主の恩返しによって西洋帆船を手に入れた信長公は、積み荷を焼き物に定めました。公はかつての勢力圏であった尾張三河の焼き物を手に入れるため、秀吉公、家康公のところへ行き、なんとか協力を得ることが出来ました。

十四話

信長は尾張三河の地に赴(おもむ)き、焼き物集めの協力を秀吉、家康にこっそりと取り付けて堺の街に戻ってきた。すると宗久が屋敷のなかで、茶人として名を馳せている千宗易(せんのそうえき、のちの千利休氏)とともに、数ある茶器などの焼き物を前にして、ああでもない、こうでもないと盛んにとある問題について話していた。

「あっ、のぶな……いえ信春はん。お戻りになられたんやな」

「信春はん。久方ぶりでございますな。生きてふたたびお目にかかれるとは思いまへんでしたわ」

信長がそこへ参じると、宗久と宗易がぺこりと頭を下げた。

「宗久、宗易、ご苦労なことである。さて、今おぬしたちは何を悩んでおったのじゃ?」

「いやあ~。焼き物をとにかく集めたはええんやけど、運んでくるまでに商品がすこし割れてしもうたんですわ。ひとが大事に運んでこれやで、信春はんのお船に載せて海を越えるのはほんまに出来るんか、って思うて」

宗久ががっかりした様子で肩を落とした。

「宗久はんは、そうやって完全なかたちの焼き物をお求めにならはりますが、私はそうして欠けたり、すこし割れたりしたほうが、好きや」

宗易は、そう言葉をはさむ。

「宗易はんのワビサビとやらには、そのほうが面白いんやろうけどな。一般の商品としては、傷のないほうが無難やで! そうでっしゃろ、信春はん?」

「そうじゃなあ。古くは唐(から)より昔の時代から作られてきた儂ら日の本の地の焼き物でも、割れた茶碗を良しとはしてこなかったのう、宗易。そなたの茶器に対する審美眼(しんびがん)は確かであり、また新しい数寄(すき、風流)としては、多少そのような美しい欠け方、割れ方をした焼き物というものも受け入れられる場合はあるかもしれぬとは思うが……。すべての品物を割れものとしてしまっては、商売として信頼されなくなってしまうじゃろうな」

「……どうしたものでっしゃろ、信春はん」

「……そうじゃ!」

信長はフッと何かを思いついた。

「天使ナナシよ、すこし我慢せい」

『公、何をなさるおつもりですか』

怪訝な顔をする天使ナナシに近づき、信長は、ぷちっとその羽根を何枚かむしり取った。

『……痛いです、公!』

天使ナナシのブーイングをものともせず、信長は手の中の羽根を宗久と宗易に見せた。

「おや、鴉(からす)の羽根どすか? 急にいったいどこから」と宗易。

「もしかして、信春はんを助けた天使とやらのものでっか!?」と宗久が驚いた。

「……よし、おぬしらにも見える、ちゃんとした羽根になっているようじゃな。これをのう、ゴブ太郎よ。そなたが自分を増やせるように、この羽根も増やすことは出来ようか?」

『もちろん出来るヨ! お菓子をくれたら働くサ!』

「では、宗久に先ほど出してもろうた茶菓子の饅頭(まんじゅう)をくれてやろう」

『わーい! じゃあこの羽根をたくさん増やせばいいんだネ!』

信長から餡(あん)の入った饅頭を受け取ってモグモグとほおばったあと、ゴブ太郎はたちまちのうちに羽根を信長たちのいる奥の間をわさわさと埋め尽くしそうなほどの数に増やした。

「ひぇえ、何の手品でっか、信春はん!」

「……分かりましたで。この羽根を使って、船のなかで焼き物がぎょうさん動いても割れないように緩衝材(かんしょうざい)とするんやな」

宗易が信長の意図を見抜いた。

「そうじゃ。この羽根を袋に詰めて、焼き物のためのふわりとした枕にしてやれば、そう簡単に割れることも無くなろう」

「はあー。信春はんは、ご商売でも新しいやり方をぽんぽん思いつきはるんやな。いや、商人として素晴らしゅう思いまっせ」

宗久が感心した様子で、信長の顔を見た。

『良かったです、公。私の羽根をすべてよこせとおっしゃらなくて』

天使ナナシがほっと息をついていた。

「割れたものにも、風雅なとこはおますけどなあ」

「宗易、そう言うな。海の外の常識は、おそらく日の本とは異なる。まずは茶器というよりも、椀(わん)としてちゃんと使える形を売った方が無難だろうて」

「信春はんがええなら、よろしゅうおます」

「良かったで、宗易はん。信春はんのおかげで悩みが解決や!」

「そうやなあ。……悩みと言えば、そうそう、信春はん。私のところに茶人の弟子としてときどき来はる信春はんの弟はん、長益(ながます、のちの織田有楽斎)はんのことやけど」

「む。源五(げんご)がいかが致した」

「本能寺の変で、命からがら岐阜へ逃げはったはええけど、京の都の口さがない連中からは、信春はんの御子はん、信忠はんを自害させ、自分だけ逃げた言うてさんざんにくさされてはるんどす。岐阜で意気消沈(いきしょうちん)されてはると聞いておりますえ。この際やから、信春はんが生きていたことをこっそり伝えて、長益はんもこの茶器集めへの参加をしてもろて、気分を上げてもろうたらええやないかと思うて」

「そうか……今の儂は、天使ナナシとの約束により、商人小田信春としての第二の生を授かったと思い、織田家には関わらぬつもりであったが。天使ナナシよ、いかがいたそう?」

『弥助をアフリカへと帰す約束を守ってくださるのでしたら、日の本の天下取りにふたたび戻ることのないよう気を付けて頂ければ大丈夫ですよ』

「よし、あいわかった。宗久、宗易、おぬしらにこの茶器が割れぬように致す梱包(こんぽう)は任せる。ゴブ太郎よ、存分に羽根を増やすのだぞ。そのあいだに、源五に会いに行ってくるとしよう」

こうして、宗久と宗易が悩んでいた焼き物の梱包に関わる難題を天使ナナシとゴブ太郎の助力によって解決し、信長は弟、長益に会いにいくことになったのだった。

(続く)

次回予告

信長公は、弟の長益氏に会いに行き、本能寺の変で自分だけ逃げたことから評判を落とした彼を慰(なぐさ)めます。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより喜業家つぼたこうすけ/エンジェル投資家/感護師さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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