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エッセイ|浅瀬の硝子Ⅲ_好きな色

恋人が、出かけたついでにお菓子を買ってきてくれた。三駅先のショッピングモールに入っている洋菓子店のギモーヴとケーキ。おやつの時間に、さっそくギモーヴを開けた。
立方体のギモーヴが並び、ピンクやベビーブルーなど、それぞれに淡い春の色をしていた。

好きな色は何か、と問われたら、少し迷ってしまうような気がする。
たぶん最初に出てくる答えはおそらく白で、でももう少し考えると青緑も好きだったことを思い出すと思う。
名前に入っている青は、好きな色には挙がらないけれど、憎からず近しく思っているような感じ。

私は小学校に入る前から五年生の頃までピアノを習っていて、毎年秋に区民ホールで発表会があった。発表会が近づくと母は毎年「今年の花束は何色がいい?」と聞いてくれて、自分の番の演奏を終えた私に手渡してくれていた。最後の年にリクエストしたのは、たしか白と紫だったと思う。普通じゃないことを好む子どもだった私は、ある歳を越えてからは「ピンクが好き」なんて言わなかった。
ピンクが女の子にあてがわれている色でなかったら、私はピンクが好きだったのだろうか。赤も? よくわからない。

五つのギモーヴの中から、ライム味とパッションフルーツ味を食べた。ベビーブルーとレモンイエローだった。
ムースのようにしっとりしているのに軽く、優雅に甘く、とても美味しかった。
一気に食べてしまうのは惜しいから、あとの三つは残しておいた。ピンクのフランボワーズ、ペールグリーンの青りんご、ライトオレンジのマンゴー。春の陽の差す明るい日に食べたい。

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