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これまでの家づくりのメリット・デメリットと アフターコロナの注文住宅の考え方(12)

リノベか、新築か。それが問題だ

これからの時代、建築業界でも非常に重要になっているのが「脱炭素」への取り組みです。
2021年12月から2022年3月にかけて、東京大学大学院新領域創成科学研究科と武蔵野大学、そして住友不動産が協力して、戸建ての新築物件と大規模なリノベ工事で排出される二酸化炭素の比較調査を行いました。
その調査によると、大規模なリノベ工事では同程度の戸建住宅への建て替え時と比較して、「解体・廃棄物処理」で75%、「基礎・構造材・外壁」で59%、「内装・設備等」で25%、「施工等」で45%、全体で47%二酸化炭素が削減されることが分かったそうです。
つまり、古い住宅を解体して新築住宅を建築する建て替え工事よりも、リノベーションの方が二酸化炭素を削減できるということですね。
ただし、これを長期的なスパンで見るとどうなるか。
というのも古くて寿命の短い家をリノベしたとしても、結局何十年か先に取り壊さないといけない。それならば長寿命の、つまり基本性能が高くて省エネな家に建て替えたほうが結果的には二酸化炭素排出の削減につながることもあるわけです。
さらにアスベスト関連法令の改正を受けて2022年4月から、床面積合計80㎡以上、請負代金合計(材料費および消費税含む)が100万円以上などの一定規模の工事を行う場合は、「石綿含有建材の有無にかかわらず」、アスベストの調査と報告が義務化されることになりました。さらにさらに2023年10月からは、一般建築物石綿含有建材調査者や特定建築物石綿含有建材調査者などの資格を持つ人しか、アスベストの調査もできなくなります。
建物の解体費は年々高くなっていますが、こうした法律の改正によって、将来的にはさらにコストがかさむようになるでしょう。今の時点で解体しておいた方が結果的に良かった、という物件も少なくないのです。
ですからやはり、活かすべき物件とそうでない物件を見極めるのが非常に大切だ、ということですね。

基本性能のしっかりした中古物件はリノベなどで活かすべきだが、そうではない場合は新築にしたほうが良い。その方が経済的で結果的に環境にも良いし、なによりも本当に住みやすくて自分らしい家づくりが可能になるのです。
確かに新築で戸建住宅を建てるよりも、中古物件を購入してリノベした方が安くつくかもしれません。しかし安いものには安いなりの理由がちゃんとあるという真理は、この場合も当てはまります。中古物件&リノベの課題点をしっかりと銘記した上で、新築か、リノベかの判断を下すことが大切になります。

<中古物件購入&リノベの課題>

● 断熱・耐震性能などにコストがかかる
● 資産価値としての評価は上がらない
● 中古購入&リノベのワンストップ・サービスを提供している会社が、中立的な立場で新築を提案することはほとんど無い

もちろん私は、中古物件を買ってリノベーションするという考え方を全否定するつもりはありません。
築浅でしっかりした性能の家を安く購入して、自分好みにリノベできるのであれば、十分に満足できる家づくりと言えるでしょう。
しかし実際は、そうした物件はなかなか出てこない。
仕方がないので築古で安い戸建住宅を買ってリノベーションしようと思っても、先々のことを考えると断熱や耐震の性能はマストになります。
昭和の時代に建てられた戸建住宅には断熱性能という考え方がそもそもなく、サッシなどの性能も今とは比べ物になりません。断熱や耐震などの基準は年々厳しくなってきています。逆に言うと、それだけ家の基本的な性能がグッと上がってきているのです。その基準に合わせて古い戸建住宅をリノベーションしようとすると、かなりのコストを見込まなければなりません。
それならば、最初から躯体と内装を分ける家づくりでシンブルだけど基本性能の高い家を建てるほうが、心地よくて住みやすい。資産価値も高い。けれどもローコスト。ということになるのです。

もう一つの問題が、家の耐用年数です。
諸外国に比べて、日本は家の耐用年数、つまり家の寿命が極端に短い。

<住宅平均耐用年数の比較>

● イギリス:141年
● アメリカ:103年
● フランス:86年
● ドイツ:79年
● 日本:26~30年

どうして日本は、ここまで家の耐用年数が低いのでしょうか?それには日本人の気質や時代的な背景、社会的な構造などが密接に関わっているのですが、そもそも国がそれを許しているというのが大きい。家は30年持てば良い、むしろ住宅メーカーからするとスクラップ&ビルドで家はどんどん建て替えた方が儲かりますし、国もそれを積極的か消極的かどうかは別として、そうした状況を許してきた。
しかし、時代は大きく変わりつつあります。先に紹介した国の新しい提言にもある通り、国としてもこれまでの政策から大きくかじを切り、基本性能の高い家に長く住むという考え方にシフトしています。
しかし今リフォームすべきかどうか考えている家は、基本的には耐用年数が尽きている、もしくは間近に迫っていると考えるべき。では、そうした家をわざわざリフォームすべきでしょうか?
アフターコロナで資源や人材も限られている中、寿命の短い家を無理してリフォームするのではなく、欧米のような長寿命な住宅を新しく建てるべき。私は、そう考えています。

ここまで読んでいただけたならば、私が「躯体と内装を分ける」というアフターコロナの新しい家づくりを提唱する理由をご理解いただけたと思います。
では、躯体と内装を分ける家づくりの実際の様子はどんな感じなのでしょうか?

次の章では、私が実際に手掛けた物件をもとにご説明したいと思います。

次回につづく

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