第一話 濡羽を纏う吟遊詩人
ここに一人の吟遊詩人がいる
かつて日本という国の民族楽器
三味線を手に世界の現状を
知るべくして桃源京を旅立つ
世界は、人間と半機人とで
二分割されて共存している
特区外の半機人たちの暮らす
各地を放浪する旅の最中
そこで目の当たりにしたのは
互いの正義という旗を掲げ
思想を巡り、領地を巡り
いまだに人々の争いは絶えず
生き物や自然を犠牲にして
必要以上のもので溢れかえる
人間だけが欲を満たす世界
半機人たちの暮らす世界は
あらゆるものが人工物で代替され
人々も機械を身体の一部に取り込み
生きながらえていた
そんな人間たちのエゴは
やがて纏う衣へと映し出される
本来は、透き通るような羽衣は
まるで鴉の濡羽の如く黒ずんでしまう
それに大層と思い悩み
心までをも閉ざしてしまいます
ある月夜の晩、
もう歌うことも弾くことも
しなくなってしまった吟遊詩人は
碧い湖のほとりで
ひとり坐り佇んでいた
するとそこへ
毛皮の頭巾を被った少女が現れて
こちらの様子をうかがっている
少女は無言でそっと近づくと
ひとつの絵を差し出し
すぐにその場を立ち去ります
吟遊詩人は、その絵を眺めて
しばらくするとポツポツと涙を落としました
そこに描かれていたものは
吟遊詩人が放浪で見てきた
目を塞ぎたくなるような
悲痛な心情の描写の数々
今まで目を背けてきたものが
絵としてそこへ写し出されると
ここで我に立ち帰ります
この絵を差し出した少女に
いくつかの問いを投げかけようにも
そこにもう姿はありません
吟遊詩人は、彼女の影を追って
再び立ち上がるのです
つづく