世界の国々を試す2種類のリスクと、中国に関する発信者としての自分ができることの話
日経ビジネスに、神戸大学教授の梶谷懐先生へのインタビューが掲載されていました。
梶谷先生といえば「幸福な監視国家・中国」(共著は高口康太さん)や「中国経済講義」の著者で、中国経済の専門家のなかでもフラットかつ確かな見地から現代中国に関する研究を行なっている方です。
ちなみにインタビュアーである記者の石井大智さんは、ご就職される前にもさまざまな形で主に香港・中国に関する発信をされており、なんと生配信のトークにこの僕を読んでくださったこともあります(さりげない自慢)(というか後にちゃんとした記者になるような人が、なんで僕みたいな素性のわからない怪しい人間を呼んでくれたのかいまだに謎です)。
上掲の記事も、新型コロナウイルスの抑え込みに成功した中国の姿を冷静に見つめるもので、大変興味深かったです。僕含む素人目には「抑え込みの成功」=「経済への影響も最小」という単純な図式が見えてしまっていますが、やはりそれほど事態は簡単ではありません。むしろ今は大きく話題になった恒大集団の問題を含め、さまざまなバランスを見ながら慎重に手綱を取っている状態でもあるようです。
また、さまざまな規制が進む最近の中国で起こっていることは、これまでの資本主義的な発展を見直すための動きではないのか……という見方への疑問など、長きにわたって中国経済を見てきた人ならではの視点が見えて新鮮でした。
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個別事項の面白さについては記事そのものを読んでいただくとして、自分にとって印象深かったのは、自然災害などの環境によるリスクと人間社会からもたらされるリスクという、異なる2種類のリスクに関する部分です。
コロナ禍への対応において、日本を含む民主主義先進国は軒並み苦戦を強いられました。それは自然による脅威に立ち向かいながら、私権の制限や民主的な手続きにかかる時間の問題など、人間社会のリスクへの対処を同時に行なってきたからでもあります。対して中国は、さまざまな手続きよりも自然環境によるリスク(=コロナ)への対策の方にリソースを全振りしたため、より「効率の良い」対応ができた側面があります。
これはどちらが優れているとか劣っているとかの話ではなく、環境によるリスクと人間社会のリスク、どちらに対して重点的に対応するかという違いです。
民主主義先進国のスピード感のなさに苛立ちや焦りを覚えたり、逆に中国のやり方を単なる人権侵害や強権による無茶な押さえ込みだと短絡的に評価するのではなく、まずは両者がある程度トレードオフの関係にあることを理解し、その上で最適解を探っていく必要があります。
これはコロナに限らず、どのような問題が起きたときにでも持っておくべき視点だと思いました。今後世界を覆うような大きな問題が起きたときに、それが環境によるリスクなのか人間社会によるリスクなのかを見極め、その上で対応を評価する必要があります。
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もう一つ、個人的に気になった部分はこちらです。
ここにあるように中国は国の成り立ちや制度、社会の面で日本とは大きく異なっており、そこで起こっている現象を評価することが難しい国です。そのくせ歴史的なゴタゴタだったり、もっといえば感情の問題もあって、冷静な分析ができる人は多くありません。
そんな現状なので、中国の現状を踏まえた上で地に足のついた言葉を発信できる人は確かに多くないように思います。おそらく各分野に関してのエキスパートはたくさんいるのでしょうが、その声はあまり広範囲に届きません。結果、SNSなどにはよく考えずに結論を急いだまま中国を礼賛するか悪罵するかの、極端な人が悪目立ちします。
そんななか、自分自身は中国に関することを発信する者として何ができるかと考えてしまいます。僕は中国に関わり始めた年齢も遅く、大した専門性もなければ語学力の中途半端で、現状ではただ「中国に住んでいる人」ということしかありません。
しかし、それでも中国という前提についてある程度理解し、直に触れてきた(これからも触れていくであろう)人間としては、中国についての言葉を持つ人たちの考えていることをや言っていることを、よりわかりやすく、広く伝えるためのお手伝いをしていければいいのかなと思いました。
せっかく皆様には現象の言語化能力を誉めていただけているので、中国で起こっている諸々を、僕よりも鋭く豊かな視点を持った人々の言葉を借りながらより多くの人に届く言葉にして伝えるような役割をしていければ、と思います。
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と、今後のnoteの指針のようなことを考えさせられる記事でした。
僕の御託はいいので、とりあえずこの記事にスキをつけたら、ぜひ今日取り上げた記事を見に行ってみてください。
それではまた。
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