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「犬狩り」で分断される中国

ここ数日中国では、犬に関わるトピックが注目を集めています。

といってもそれはハートフルな話題ではなく、全国的に犬の捕獲・殺処分活動が展開されているという、いかんともしがたい文脈においてです。

きっかけとなったのは、四川省の崇州市というところで、2歳の女の子が同じ小区(団地)の住人の飼っている犬に噛まれ、ケガを負ったという事件です。

この事件が広く注目され、人々の義憤を集めたことが、全国的なキャンペーンの展開につながったようです。個人や私的団体が暴走しているのではなく、ある程度公的なレイヤー(小規模な自治体レベル)で捕獲・殺処分活動が行われています。

表向きには人々に危険をもたらす野良犬の処理ということになっていますが、実際にはこれに乗じて飼い犬が難癖をつけられて処分の対象になったり、野良犬がまるで見せしめのように無惨な方法で「処理」されるなどしているのが実態のようです。さながら犬を対象とした粛清の様相で、SNSには正視に耐えないような画像・動画なども出回っています。

身近な範囲では大きな動きや、実際に犬猫がどうこうされたという話は聞かないのですが、外でペットを連れ歩いている人がほとんどいなくなった印象です。

知り合いのペットを飼っている人に聞くと、やはりいまペットを連れているのを見られると何があるかわからないから怖い、ということでした。

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この件をめぐって、いま中国はネットを中心に大きく2つに割れています。

殺処分などについて「なぜそんなひどいことをするのか」という怒りの声が多いのですが、極端なやり方に疑問を呈しつつ処分自体は仕方がない、と考える人も少なくありません。

中国においてはペット産業が著しい勢いで成長していますが、法律の整備の遅れや飼い主のマナー・モラルによる問題も起きており、ペット文化自体に反発する人も同時に増えています。そういう人はいまの流れを積極的に支持はしないまでも、まあやってくれりゃいいんじゃない、くらいに考えています。

また、中国においては何が何でも子どもの安全を守らないとならない、と考える親がほとんどです。そんなの何人だろうと親なら当たり前だろうと言われそうですが、「ソト」への信用が低く警戒心の強い中国においては、そのための行動はしばしば過激化します。

そんな社会で、子どもが犬に噛まれたとあっては、強引な方法であっても野良犬(あるいは、きちんと管理されていない飼い犬)を「退治」してくれたほうが安心して暮らせる、と考える人が多くてもおかしくはありません。

また、近年では中国でもネットを中心に動物愛護の声が高まっているものの、そうした声のうち急進的な思想や極端な行動が注目され、忌避されているというのも否めないようです。

そうした反・動物愛護主義とて決して主流の人々ではありませんが、動物愛護について確たる主張のない人が悪目立ちする動物愛護主義者を見て、「なんかあの人たち怖い」となり、一般社会からもうっすらと嫌われるようになっている面があります。

環境保護を訴えて名画にトマトスープをぶっかける若者や、思想的に先鋭化し過ぎてSNSなどで鼻つまみものになっている「フェ」で始まる団体の人々などと似たようなもの、と考えてもらえればわかりやすいでしょう。

事実、動物愛護主義者を指す「动保」という略称が、揶揄のためのスラングとしても機能している部分があります。このへんも「フェ」で始まる何かに似ています。

ある意味で中国は、動物やペットに対する態度によって思想的分断が生まれているのです。

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以下、個人的な雑感です。

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