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さらばパチミレー。そして、ありがとう。

月初で購読者が伸びやすい大事な時に書く話題ではない気もするのですが、僕にとってはアイデンティティに関わる重大なニュースが飛び込んできたので、緊急でnoteの編集画面を開き、キーボードを叩いております。

そのニュースとはこれです。

とある中国のお菓子メーカーが製造した、「日式(日本式)」をうたうビスケットが批判を受け、メーカーが声明を出したという話です。

批判としては、「国内のメーカーなのに、「日式」と表示するとはなにごとだ」「日本のものだったら買わない」というものがあったようです。もちろん、先日から続く日本の福島第一原発の処理水放出問題をうけての反応でしょう。

それに対してメーカーは、「同商品は単に日本風というだけで、原料は中国産だし製造も国内で行なっている。なんなら商品名を「中式ビスケット」に変えてもいい」という、言い訳なのか何なのかよくわからない、苦しい回答をした模様です。

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これだけならただ単に中国のB級ニュースということになるのですが、問題はその対象となった商品のデザインです。

上の記事では触れられていませんが、これは明らかに数年前の中国でにわかに流行した、日本の高知県の名産である「ミレービスケット」のデザインを模倣したものの一つです。

https://nomura-net.co.jp/より引用

今回問題になったメーカーのものに限らず、中国では無数のミレービスケットのパッケージ模倣品が出回っています。

きっかけは2019年の終わり頃、ライブコマースでとあるインフルエンサーがこのミレービスケットの正規品を紹介し、同商品が爆売れしたことであり、その後それにあやかろうと各メーカーがこぞってその模倣品を作り、ある種の群雄割拠の様相すら呈していたのです。

なぜ僕がそんなにこのミレービスケットの模倣品、いわゆる「パチミレー」について詳しく、今回のニュースにも強く反応するのか。

それは、僕がおそらくは日本人として初めてこのブームに気づき、それを日本に紹介した人間だからです。

初めてこの現象に気付いた時、僕はそこに描かれていたあまりに脱力感のある日本語の数々に衝撃を受け、夢中になってECサイトで商品画像をかき集めました。

もともと怪しい日本語(怪レい日语)のことは大好きで、ずっと追いかけていたのですが、この時ばかりはとんでもない鉱脈を見つけたと思い、興奮したことをよく覚えています。

画像だけでは飽き足らず、実際に買ってみて食べ比べをしたこともあります。

こうした活動(?)は、僕にとって初めてのバズりとなり、当時のTwitter空間で大いに面白がっていただきました。フォロワーさんも大きく増え、いろいろな人に認知していただけるようになったのです。

そして直後に中国ではコロナ禍が本格的なものとなり、僕は持て余した時間をnoteに費やすようになりました。そこでも多くの縁に恵まれ、たくさんの人にnoteを読んでいただけるようになりましたが、そのための助走として前述のパチミレーによるバズがあったことは疑いようがありません。

つまり僕は、パチミレーのおかげでいまここに立ち、みなさんに文章をお届けできているといっても過言ではないのです。

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その後も定期的にパチミレーを発見してはTwitterに画像をアップロードしたり、noteにその名作選を発表する(上の記事、読んだ人はもれなく爆笑してくれているのでぜひ読んでください)などの活動を続けてきましたが、しかしそういった努力も虚しくパチミレー・ブームは下火になり、新しいパチミレーは供給されなくなっていきました。

そしてその後、定期的に盛り上がる「日本叩き」のなかで数々の日本「風」ブランドが攻撃対象となり、その日本的な「匂い」を消臭せざるを得なくなる事態が数々起きました。雑貨チェーンの「メイソウ」は日本語の看板を店頭から外し、ティードリンク大手の「奈雪の茶」は「奈雪的茶」と名前を変えました。

パチミレーに関してはまだそのような「愛国式日本臭ウォッシュ」の波は来ておらず、細々と街のお菓子コーナーの棚に並ぶ日々が続いていたのですが、今回のことでひょっとしたらそれも終わりを迎えるかもしれません。

前述のように、今回叩きにあったメーカー以外からもパチミレーは無数に出ています。しかしこういうことが起きた以上、今後は各メーカー側や小売側がパチミレーを扱いづらくなることは避けられないでしょう。

いままさに、ひとつの時代が終わりを迎えようとしています。

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悲しんでばかりはいられません。時代は移ろいゆくものです。

僕がパチミレーの虜になったあの日から、さまざまなことが変わりました。コロナ禍がやってきて去り、ロシアのウクライナへの侵攻が世界を驚愕させ、TwitterはXと名前を変えました。

僕自身もコロナ禍で仕事環境が大きく変わるなか、定期購読マガジンを始め、中国について語ることを生きる糧の一つとして選ぶようになりました。

きっとこれからの僕は、パチミレーが繋いでくれた縁と恵みをもとに、さらに前に進んでいかなくてはならないのでしょう。あの時に得たものを、もっと大きくして人々に、社会に還元するために。

さようならパチミレー。そして、ありがとう。

これからは君たちにもらったものを、もっと素敵なえにしへと繋いでいけますように。

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