通訳の「何」さんをめぐって考えた、中国においての名前の呼び方のいろいろ

中国で最初に働いた会社に、「何」さんという通訳の人がいました。

「何」さんはとても気が回る小柄な女性で、いつもテキパキと物事をこなす優秀な人でした。日本語も上手で、一生懸命勉強したのが伝わるような話し振りでした。

現地採用で一応「中国語ができる人」として入社した僕はお世話になることはほとんどありませんでしたが、上司の日本人がいつも厳しい言葉で部下たちを追及するのを、言いにくそうにしながらも意味が変わらないようになんとかマイルドに仕立て上げて伝えようとする「何」さんの姿が印象的でした。

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ところで、ここまでお読みの皆様はこの「何」という姓を、脳内でどう呼んでいたでしょうか?

普通の国語教育を受けてきた人であれば「か」さん、と読んだ人がほとんどかと思います。中国語に見識のある人の中には「hé」と普通話読みに変換して読んだ人もいらっしゃるかもしれません。

僕がその会社で違和感を持っていたのが、当時その会社にいた日本人の間で、その「何」さんの呼称が統一されていなかったことでした。

その会社には複数の日本人がいたのですが、ある人は彼女を「か」さんと呼び、またある人は普通話を元にした発音で「は」さんと呼び、さらに他の人は「ほ」さんと呼んでいる場合もありました(普通話の「e」(アとエとオの中間のような発音)の解釈による違い)。同じ人が日によって違う呼び方をしている時もありました。

あまりにもバラバラなので、はて結局僕はどう呼んでいいのか…? 統一しないのは失礼じゃないのかな、本人は混乱しないのかな、などと思っていました。

しかしある時本人に「いろんな呼ばれ方をされて、混乱しないですか?」と聞いてみたところ、本人は何を聞かれているのかよくわからないといった様子で「いや、別になんであろうと気にしていないです。分かれば一緒ですし」と淡々と答えられて、肩透かしを食らったような気分になりました。

そうか、本人がいいならいいのか。

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そもそも中国では、同姓の人がかなり多いからでしょうか、特に職場内の人であれば姓だけ、もしくは「姓+先生/女士」などでその人を呼ぶということはあまりない印象です。フルネームもしくは下の名前だけで呼んだり、「阿〇」「〇子」などの通称で通している人もたくさんいます(ちなみにその「何」さんも、中国人どうしではおおむねフルネームで呼ばれていました)。

「李司机」(李運転手)などのように肩書きがつけられることもありますが、これは敬意の現れであると同時に、何かよそよそしい印象があるようで、近しい人にはあまり適用されず、仲のいい人どうしならすぐに名前呼びなど、上述したような呼び方に移行するように思います。

そう思うと、日本人がよく使う「〇〇さん」という「さん付け」はかなりよそよそしい方に入るのかもな…と思ったりもします。よく日本人と関わる中国人のみなさんが「日本人は距離が遠く、心理的な壁が大きいような気がする」と嘆いているのを見聞きしますが、それには「〇〇さん」呼びが一般的な日本の習慣に対しての違和感も関係しているのかもしれません。

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さておき、個人的には同じ人を「か」だの「は」だの「ほ」だのと呼ぶことの違和感が拭えず、結局自分がその「何」さんを呼ぶ時には、中国語でフルネームを呼びかけるようにしていました。そしてそのまま中国語の会話が始まるという。向こうは日本語通訳として雇われているのに、何か違うような気はしていました。

名前をどう呼ぶかって結構大事だと思うんだけどなあ。デール・カーネギーの「人を動かす」にも、「まず名前を覚えましょう」みたいなことが書いてあった気がするし(うろ覚え)。

中国にお住まいの皆さん、ないしは中国人と関わりが多い方、この辺どうされているでしょうか。よろしければご意見お寄せください。

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