海と私
海は、波は、ずっと変わらずそこにある。
おしてひいて、
おしてひいて、
おしてひいて―。
ずうっとその繰り返し。
何も変わらないでいてくれるのはあなただけだね。
波は地球の鼓動なのを、わたしは知っている。
つらくて、苦しくて、おしつぶされそうなとき、わたしは海へと向かった。
わたしよりおおきくて、つめたくて、あたたかなそのリズムが、わたしの背中をざぶんと押した。
夏の夕暮れ。
海の端っこはわたしの足元でやさしく泳ぎ、たまに、ゆるい温度で甲を撫でた。
海は誰よりもやさしかった。
わたしが涙をおとすと、海はそれをすくうようにさらって、さっさと自分のものにした。
わたしの孤独なんて、ほら、おしまい。
海は何よりもおおきかった。
わたしは地球表面の7割に自分を溶かした。
すると、
気づいたら、
私も揺るぎないリズムの一部となっていて、
おしてひいて、
おしてひいて、
おしてひいて_。
ああ海よ、どうかわたしをはなさないで。
ああ波よ、どうかわたしを受け入れて。
ひとつのリズムを疑うことなく、疑う余地もなく、
自分の輪郭を必死にとどめてようとして溺れることもない。
ああ海よ、わたしはあなたになりたい。
すると、
わたしの鼓動が大きくなって、
わたしの涙は揺れ始め、
おしてひいて、
おしてひいて、
おしてひいて_。
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