スクリーンショット_2019-11-02_14

「"みんなの○○係"、やっちゃいなよ!」とムチャぶりあう。そんな「beの肩書き」ワークショップver2.0のレシピ

こんにちは、勉強家の兼松佳宏です。

ここ最近、勉強家のワークショップシリーズとして「MOYAMOYA研究」「リソースフルすごろく」をご紹介しましたが、今回は原点でもある「beの肩書き」についての記事になります。

書籍『beの肩書き』の発売は2018年12月でしたが(2,000冊完売感謝&ただいま増刷準備中!)、その後も食べ物編道具編などメタファーのバリエーションに挑戦するなど、ワークの内容をさらにブラッシュアップしてきました。

今回は2019年10月30日(木)に開催させていただいた、OSAKAしごとフィールドでのワークショップのスライドをもとに、最新版をみなさんと共有してみます。


ちなみに"ソーシャルデザイン曼荼羅"でいうと、beの肩書きは「本来の自分」(≒being)を見つけるためのワークになります。



大幅なバージョンアップとなった2019夏

おかげさまで、これまで100回以上実施してきたbeの肩書きワークショップ。その手法はオープンソースで公開されているので、Twitter経由で全国各地で「やってみました!」の声が届いてきています。

ありがたいのは、本の内容そのままではなく、それぞれの文脈に合わせてカスタマイズしていただいていること。発起者である僕自身も学ばせていただきながら、少しずつ手直しをしてきました。

大きな変化があったのは2019年の夏休みに入ってからで、8月の「秋田・ソーシャルデザインの学校 2019」で初めて「まちの○○係」というモチーフを導入し、東北プロボノプロジェクトとのイベント川上村のふるさとワーホリでブラッシュアップし、9月の岐阜のかがやきロッジTEDxkobe、10月の信州大学での体験版を経て、ひとつの型が出来上がりました。書籍の内容がver1.0だとすれば、今回のものはver2.0になります。


パーパス型とアイデンティティ型、2つの"beの肩書き"

バージョンアップの背景にあったのは、「beの肩書き」には、アイデンティティ型とパーパス型の2種類あるなあ、と気づいたことでした。

"ほしい未来"がビジョンだとすれば、"beの肩書き"はミッションなのか、それともパーパスなのか、と悩んでいたのですが、そのときに目にしたのがハーバード・ビジネス・レビュー2019年3月号の「パーパス特集」に掲載されていた佐宗邦威さんの論文です。

ミッションとは、理想と現状のギャップをつなげるベクトルだとすると、そのベクトルは二つある。「自分たちは社会に何を働きかけたいのか」と外側にある終点に重心が置かれたものと、「自分たちは社会の中でどうありたいのか?」と内側に重心が置かれたものだ。前者がパーパスであり、後者がアイデンティティ(identity)である。
ハーバード・ビジネスレビュー2019年3月号「PURPOSE パーパス ~会社は何のために存在するのか、あなたはなぜそこで働くのか?」(p40)

beの肩書きがそっくりそのままミッションといえるかどうかはまだ吟味が必要ですが、ミッションに「パーパス型ミッション」と「アイデンティティ型ミッション」の2種類あるとすれば、beの肩書きでも2つに分類できるのではないか。

「アイデンティティ型beの肩書き」は、「私は〜〜な人です」あるいは「私は〜〜を大切にしている人です」というように、ありのままの存在を表現するもの。上記でいうと、内側に重心が置かれたものです。(例:勉強家することが大好きな「勉強家」のような人)

一方の「パーパス型beの肩書き」は、「私は〜〜という自分らしさをいかしてほしい未来をつくる人です」というように、存在からの貢献を明確に打ち出したもの。こちらは上記でいうと、外側に重心が置かれたもの。(例:何でもかんでもオモシロ教材にする「みんなのEテレがかり」)

どちらも大切なのですが、なぜこの2つを分類する必要があったのかといえば、もともとbeの肩書きはソーシャルデザインのプロジェクトをつくる一連のワークのひとつとしてデザインしたものだったからです。

一回限りの場合はアイデンティティ型でも完結するのですが、数回連続する授業や講座の初回に位置づけた場合、パーパス型の方がフィットする可能性が高いのかも... そう判断したのでした。(例えば、食べ物をモチーフにしたいいbeの肩書きと出会っても、「じゃあ、それで何しよう...」と壁にぶつかってしまうケースもあったりなど)


パーパスを深める3つの問い

書籍(ver1.0)の内容はアイデンティティ型とパーパス型が混在しています。そこでパーパス型に振り切ったのが今回のver2.0になります。(もちろんすべてをプロジェクトにする必要はないので、本来のあり方をとにかく大切にするアイデンティティ型に振り切ったバージョンも、いつか整えてみたいと思います)

と、なんだか込み入ってきたと感じた方もいるかもしれませんが、パーパス型とアイデンティティ型の最大の違いは、①モチーフを整えること、②問いを絞ること、の2つだけです。

①は「みんなの○○がかり」に統一すること。そのあたりの背景は、こちらの記事にまとめていますが、自分では気づいていない社会的な役割を「やっちゃいなよ!」と愛のあるムチャブリをしてあげる、そんなイメージです。

②は、パーパスにつながる問いを以下の3つに絞ることにしました。難しいとは思うのですが、その分、事前に思い出す作業を丁寧にすることで、なんとかたどり着けるようにしたいと思っています。

ア. 自分では当たり前でも、周りから「すごいね」といわれることは、書籍にも掲載されている問いです。ドラゴン桜の桜木建二さんも「当たり前にできること=得意なこと」だと、発想を転換してくれ。と力説してくれています◎

イ. 「○○のやり方」「○○の基本」というテーマで、教えられそうなこと、教えてみたいことは、受け手から贈り手への転換を意味しています。プロではなくても、情報量の差さえあれば誰でも誰かの先生になれるのです。(というか、誰かに教える機会がなければ暗黙知を整理することもできないですよね)

ウ. 何かを頼まれたときに、「これならお役に立てそう」「力を発揮できそう」と思うことの背景にあるのは、ガードナーの多重知能理論です。何かを頼まれたときこそ、私たちのポテンシャルが引き出される最大の機会ですが、そのとき、言語的知能、論理数学的知能、音楽的知能、身体運動的知能、空間的知能、対人的知能、内省的知能、博物的知能という領域に分けて自分の能力を見極めようというのは、とても効果的だと思います。(というか小学校の教科そのものですね)

ちなみに、アイデンティティ型の場合は、次のスライドのように書籍に掲載されている残りの問いがおすすめです。モチーフは食べ物編のときのように「○○のような人」とします。

ということで、あまり複雑にならないように、①モチーフと②問いを変えるだけで、パーパス型とアイデンティティ型を使い分けることができるようにしたいと思っています。


〈「beの肩書き」ワークショップver2.0のレシピ〉

長くなってしまいましたが、いよいよここから、10月31日(木)のワークショップのレシピを共有していきます。基本は一緒ですが、偏愛マップ(上級編)を新たに導入しています。

①チェックイン
②レクチャー
③偏愛マップ(上級編)

④ストーリーテリング + フィードバック + メッセージカード + 贈呈式
⑤チェックアウト


①チェックイン

今回はいつもより30分長めの2時間半にしていただいたので、グループ分けもじっくりと、「いま、心の中はどんな色?」をイメージしていただいて、赤→オレンジ→黄色→黄緑→緑→青→紫と、七色で一列になってその順番に3人組に分かれる「虹色ロマンチック」方式にしました。

チェックインのお題は、お名前は?/どちらから? 楽しみにしていることは?くらいで。


②レクチャー

今回のレクチャーも30分ほどで。

beの肩書きとは? → 勉強家に至るまで → コメディアンとしてのバス運転手 → ユーダイモニア → リフレーミング → メタファー → 係活動 → 「ことばで遊ぶ」くらいの軽い気持ちで

みんなの○○係の例が増えてきたので、「"みんなのブラックホール係"は、どんな係でしょうか?」「正解はどんな悩みも吸い込んでくれるでした!」みたいにクイズを挟んでも楽しいかもしれません。


③偏愛マップ(上級編)

休憩を挟んで最初のワークは偏愛マップです。通常は「好きな飲み物、食べ物」や「好きな映画、ドラマ」といった大カテゴリーで進んでいくと思いますが、中級編ではいきなり「好きな髪型」や「好きなフォント」というふうにニッチなものも上げてもらいます。

こうして5分ほど自分の中の"引き出し"を覗き見したら、上級編に切り替えます。上級編のテーマはまだまだありそうですが、よりいっそう特別に大切にしているものを挙げてもらう問いです。このスライドに、のちほどワークショップで使うア、イ、ウの3つの問いも、あらかじめ入れておきます。

終わったら、グループで共有していきます。とはいっても、いきなり自分の偏愛を話してくださいと言われても、どれから話していいか、押し付けにならないか不安なので、3人組がAさん、Bさん、Cさんとして、AさんがいったんBさんに渡して「Bさんが話を聞いてみたいこと」にできるだけたくさん印を付けてもらい、その後、(Bさんの印が付いているAさんの紙を)Cさんに渡し、Bさんが印を付けたものの中から「Cさんも話を聞いてみたいこと」をひとつ印を付けて、Aさんに返します。

そうすると、自分に戻ってきた時点で、他者が自分の偏愛の中でどのようなテーマに興味をもってもらえるのかがわかったり、何を話せばいいのかが決まって安心できる、そんな流れになっています。そして自分の偏愛について2分ずつ、大いに語っていただきます。


④ストーリーテリング + フィードバック + メッセージカード + 贈呈式

つづいてストーリーテリングです。語り手がスライドで指示された言葉の通りに語りをはじめるオープン・センテンスという手法を用います。

最初に語り手、聞き手、メモ係に分かれます。

語り手はゆっくり思い出しながら、自由に話をしてOK。聞き手は相槌をうつ、言葉を繰り返すなど傾聴することに集中し、メモはメモ係にまかせます。メモ係は白い紙とペンを持って、話のすべてではなく、大切なキーワードや表情が変わった瞬間をメモしていきますが、基本的に質問は聞き手にまかせて気配を消します。

このときはひとりあたり語る時間を4分とし、残り半分、あと30秒のアナウンスをするようにしました。終わりの合図が来たら語り手に拍手をし、黒子に徹していたメモ係さんから、語り手に「キーワードは何だったのか」「どの瞬間に表情が変わったのか」など、1分ほどフィードバックをします。

そして、フィードバックでは伝え切れなかったことも含めて5分ほどでメッセージカードを仕上げてゆきます。このとき本人も自分の"みんなの○○がかり"を考えます。ヒントとなるように、スクリーンにはいくつかサンプルを映しておきます。

全員が書き終わったら贈呈式です。最初は、聞き手さんから語り手さんへ。つづいて、メモ係さんから語り手さんへ。僕が「見よ、勇者は帰る」の一節「パーン、パーン、パパーン、パーン。パパパパパン、パン、パーーン」と歌う約30秒で、一言添えて渡してゆきます。最後に、自分で自分をどう例えたのか披露してもらいます。

3枚揃ったら、語り手さんからほかの2人に感想や感謝の気持ちを伝えて終了です。この約15分が1セットとなり、3人分繰り返します。


⑤チェックアウト

全員分が終わったら、改めて今日全体の振り返りを行います。時間が許せば、他のグループのメッセージカードを見歩きできる時間をつくってもいいかもしれません。


ということで、beの肩書きver2.0のワークショップデザインを振り返ってみました。書籍(ver1.0)に比べて、メッセージカードと偏愛マップのためのA4用紙以外のワークシートを用意する必要がなくなり、よりシンプルになったと思っています。

ただ、これはあくまで体験版としてのブラッシュアップなので、これまで体験した方にとってはあっさり感がある人もいるかもしれません。(やりくりすれば90分の授業内で終わらせることもできます)

僕自身としては、まずは体験版でbeの肩書きに触れていただきつつ、次のステップとして、1周目でもらった"みんなの○○がかり"を真ん中に置き、書籍でも紹介しているライフヒストリー曼荼羅を挟んで、さらに自分の半生をストーリーテリングし、2周目のbeの肩書きを自由発想していく、というより深い半日(4時間半くらい?)コース、あるいはbeの肩書きのあとに、こちらのMOYAMOYA研究をつづけ、さらにプロジェクトの種を生み出す"1DAY"ソーシャルデザイン演習というふうに、1回限りでは終わらないプログラムをさらに展開してゆけたらと思っています。

何かピンと来た方はぜひ、Facebookなどでお気軽にご相談ください◎


ということで、参加者のみなさん、ハローライフの島田さん、ありがとうございました!

はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎